第二十四話 どうして私はまた
「起きて下さい。意識ありますか!」
そう大声で言われて、虚ろな景色が鮮明になってくる。肩から血を流しながらこちらを起こそうとしているルスベリー先輩が目に入る。死んだと思っていたから、頭が追い付かなかった。生きていることに今は感謝しなければいけない。私のほうも、左腕があり得ないほどにぐちゃぐちゃになっており使い物にならない。痛みを抑えつつ、体を頑張って起こそうとする。しかし、右腕のみで立ち上がるのは難しかった。左腕が使えなくなっただけでなく体も痛い。
「よかった... ほら、手を取ってください」
「ありがとうございます先輩」
立ち上がるのが難しそうな私を見て、ルスベリー先輩が手を貸してくれた。よっと起き上がり、怪我の程度を確認する。失血死するほど血が流れているわけではなさそう。私はすでに処置が施されており、今すぐに死ぬことはないだろう。きっと、ルスベリー先輩が手当てをしてくれたのだろう。二人とも重傷を負っていて、だけど戦場からは脱却しているから今は大丈夫だろう。だが、取り残されたガベーラントとアネモネと他の隊員たちは無事だろうか。
「大丈夫ですよ。シアハさんが誘拐された時点で団長を呼んでいるので。」
心配が顔に出ていたのかルスベリー先輩が励ましてくれる。そうだよね、きっとみんな生きているはず。団長の助けがいつになるかもわからない。ならば、早く上に行き、奴の動きを制限しないと。そうしないと、奴は団長のような存在以外に倒されない。
「ルスベリー先輩。早く、上に行きましょう。」
「そうしたいのは山々なんですけど。道が見当たらないんですよね。」
そう言いながら、ルスベリー先輩が周りを見渡している。私も、見渡しているが、頭上は天井で、落ちた後にどこかに流れてきたように位置が不明すぎた。迷路に落とされたように二人とも迷子にされてしまったのだ。しかも、傷の影響で時間制限付きと。
「ひとまず、上に向かいましょうか」
「わかりました...」
辛いのは私だけではない。ルスベリー先輩も作り笑いが限界に達している。きっと体中が痛いのだろう。それに、私の捜索をしていたとしたらもっとだ。疲れも限界、痛みも限界、それでも私に向かって笑顔で道を示さんとしてくれる。気合を入れて、頑張らなきゃいけないのはこっちもだ。
そう思い、一度息を大きく吸い込んで深呼吸をする。
「行きましょう先輩。みんなが待っているはずですから」
そう言って、知らない道に行こうとしたときに、ふと目に入ったものがあった。それは、地上で見た警告文のようで、違うものだった。ただ、何かを残していることは明白で、知っていなかったら気にも留めなかっただろう。それに目を奪われて、立ち止まっていたところをルスベリー先輩が戻ってくる。
「どうしました?」
「あれ、見て」
言い切る前にルスベリー先輩が走り出していた。私には明確に何かが書いてあるかわからない距離だったが、ルスベリー先輩は読めたのだろう。何かヒントになるといいのだけれど。
「シアハさんこれ案内板っぽいですよ。」
「ほんとだ」
よく見たら地図のようになっており、古代文字でいろんなことが書かれていた。どうやらここはもともと、食品から工具まで何でもそろっているような商店だったぽい。たまに意味不明なものがあるが、現在位置と各階層の構造は一致しているのかそれとも吹き抜けなのか不明だが、一個上に行くにはいいだろう。
「こっちですね、行きましょう」
「ちょtt」
言い切る前に、手を引かれて走り始める。ルスベリー先輩はすでに脱出の道を把握したのだろう。足取りに迷いがなくなり、上に行くことができそうになった。
不気味。本来なら、戦っているから怒号のような大声が聞こえたり、人が動く足音が大量に聞こえるはず、あまり時間をかけずに、早く、早く、そう思った。ルスベリー先輩も感じているのだろう。隣にいるのに焦りが見える。もしかしたら、もう全滅しているのか。それとも、団長の到着によって戦闘終了しているのか。私たちにはまだわからない。
先が見えにくい階段を二人とも駆け足で上がっていく。前はとても暗く、障害物があればきっとぶつかるだろう。それほどに闇雲に、前に進んでしまうほど不安で仕方がなかった。
そして、踊り場を駆け抜け、上に向かう階段に差し掛かった時に光が見えた。おそらく、天井にぶら下がっているであろう光源から発せられているものだろう。
「や、っと」
つぶやいてしまうほどに、広間に出るであろう階段にたどり着けたことに感謝しなければ。ここで死んでいた可能性も含めるとだ。それでも私は、みんなの無事を願う。あのキメラに殺されていないといいのだけれど。そう思って、広間にかけ出る。
「え」
ルスベリー先輩がふと漏らしてしまうほどにそこから見える景色は退廃的だった。広間ではなく、展望台のような高台に出たのだ。そこから見える景色はかつて古代文明が栄えていたであろうことがよくわかるほどに広かった。そして、キメラがどこにいるかもまるわかりだった。
最初は見えなかったのだが、それは足元に、見逃すような位置であった。いや、見つけてしまった見逃したい光景が広がっているにもかかわらず。
「あ..うぁあ」
そこにはキメラと思わしき生物に団長が剣を突き刺してとどめを刺している状況であった。団長の攻撃が広範囲すぎてキメラの周りが溶けているようだった。ひざから崩れ落ちるには値する景色であった。燃え盛る炎によってあたり一帯が焦げており、その周辺には、騎士たちが善戦したと思われる死体の山々だった。
遠目過ぎてどれほどあるかなどはわからない。けれど、団長以外の生きている人が見えないのだ。もしこれが、懸念ならいい。どこかに撤退して、どこかで休んでいる。後は団長に任せておこう。だって、あれほど広域に能力が働くのだから。
「行きましょう。ここではまだわかりませんから」
冷静だが、どこか震えている声でルスベリー先輩はしゃべる。おそらく思っていることは一緒だろう。きっと、全滅してしまったと。まだ断定するには早い。確認するためにも、ちょっと険しいがれきの山から下りなければならない。ルスベリー先輩は私が下りる能力がないと判断したのかしゃがんで声をかけてきた。
「乗ってください行きますよ。」
私は無言で乗った。しゃべるつもりもないし、推測する余地は残しておきたい。辛すぎる現実には、目を背けることしかできない。肩で風を切り、私にまで着地する衝撃が来る。だが、ルスベリー先輩は特に気にすることすらなかった。障害にするらならないのだろう。
団長のところに近づき、だんだん現実が近づいてくる。そこには、数々の死体が転がり、激戦があったに違いない。私の呼吸が早くなる感覚に見舞われて、死が急速に近づいてくる。こないだまで、空のかなたにあったはずなのに。空の闇に触れるように、心が侵食されていく感覚に見舞われる。
「ぁ」
そこには、激戦の末に死んだであろうガベーラントとアネモネの死体を見つけてしまった。それを境に私は、意識が朦朧になってしまう。緊張感が抜けた。とともに、絶望に打ちひしがれて、心が閉ざされてしまい、意識を落とした。




