第二十二話 キメラ
私が目を覚ましたのは空に浮く感覚によって眠たい目が立ち上がり、地面に叩きつけられる衝撃によって覚醒した。ほほに擦り傷ができるほどに転げ落ちており、すぐさま立とうとした。ふらつく足でめまいのする視界をもとに壁に寄りかかる。やっと周囲を見ることができると思ったが絶望するにふさわしかった。なぜなら、木でできた荷台に乗せられていると悟ったから。
「ここは...」
光もほとんどなく、あるのは壁の上のほうにある小さな通気口のように金網でふさがれているところ程度かな。この状況は見覚えがある。帝国に廃棄場に捨てられた時と同じだと。なんでこんなことになっているのかここはどこなのかが一切わからない。地下の古代都市を探索していたはず、それに入り口は救国騎士団が見張っていたのでは?考えられることはいっぱいあるがまずい状況なのは変わらない。
「まったく。人質を取りましょうって強引っすよね。」
かすかに聞こえた男の人の声。おそらく、この車か、馬車か、それとも人力で動かしているのか。どれも、可能で帝国騎士団の人たちがやっていると思う。私を人質にして広域を探索する権利を得ようとしているのだろう。こそこそとするよりも、人海戦術で遺物を回収したいと。多分そんな感じだろう。
ただ、ちょっと安心できるかもしれない。人身売買や解体するために誘拐したわけではないのだから。天使は隅まで使えるといわれているほどに迷信が多い。まあ、私の腕見たらすぐに殺しに来ると思うけどね。
安心できると言ったが、どうにかして逃げなければいけない。手元にあったクロスボウは没収されているし、それに、アネモネにもらったイヤリング、ガベーラントからもらった銀の懐中時計もなくなっている。まあ当然だが、それはそれとて奴らにイラつく。
ただ、イラついているからと言ってなにか変化するわけではないため、すぐに脱出方法を考える。しかし、私を囲んでいる牢獄のようなものは固く、とても木とは思えないし、そもそも破壊することができない。そんな力あるなら最初から使っているって話だね。
さすがにすることがなさ過ぎて、ふて寝することしかできないな。これからのことを考えると不安が広がってくるがなんとかしなければと漠然としている。この不安が帝国だけでありますように。
side 帝国騎士
「まったく。人質を取りましょうって強引っすよね。」
今更馬車を引いて、天井の見えない古代都市のガラクタのような道にうんざりしてしまう。それに、やっている任務が帝王のためになるかどうかが怪しいことをしている。ただの少女にしか見えない人物を誘拐しなければならないほどに我々は衰退したのかと思ってしまうほどに。
感情が態度に出ていたのか隣にいた上司に怒鳴られそうになる。だが、今は人質を寝かしている状況。なるべく起こしたくないのはどちらも考えているだろう。よって上司は怒鳴ることが出来ない!
「無駄口たたいているくらいならここに突き落とすぞ」
「すいませんでした。二度と言いません。」
真横にいるのが最悪だった。中年男性の囁き声とかいう最悪の嫌がらせをしてきた。ムカついて、舌打ちしそうになるが、さらに同じことを繰り返されたら発狂しそうになる。仕方がないから黙ることにして、早く目的地につけと願うばかりだった。
ガタガタと揺れている気がするが、たぶん道が全く整備されていないからだろと割り切ってしまう。たとえ、彼女が起きたとしてもこの牢獄を打ち破るほどの力はないだろうと思っている。それは、これを作った職人や使っている警官なども同じだろう。今まで破られたことがないのだから。それこそあるとしたら、ハチャメチャな生物にぶち壊されるとか。
そんなありえもしない妄想に浸っているとバッチんとほおを叩かれて現実に戻される。なぜと思う前に絶望に打ちひしがれることになった。
「ありえないっすよ...」
そういうしかなかった。絶望の顕現、奴は赤黒く、透き通るようなねばつく液体をバラまきながらこちらを凝視している状態だった。灰生物が蟲毒のごとく食物連鎖が起こり、その頂点に立った奴だけがなれる”キメラ”だった。鳥や猫、犬、何を取り込んだのか触手があり、人の目が数えきれないほどの体外に延ばされている。それだけではない、奴は変幻自在を持ち、脚が生えてきた。突進するつもりだろう。
「何してんだ逃げんぞ。」
そう上司に言われて手を引いて逃げる。とても、あいつから逃げることが出来る気がしない何より逃げるといっても速度の出ている馬車は即座に留まることはできない。馬は止まろうと、逃げようと必死だが奴はそんなことを待ってはくれない。ここで戦うほかないのだ。
「”x!qえいb¥rrrrr」
最後に見た景色は発狂する奴が突撃してくる景色だった。考える暇もなく。
シアハside
いくら経ったかわからないが、すでに救国騎士団とは遠く離れていることは間違いないだろう。馬車のからからと車輪が回る音がうっとおしい。馬車の中でやることもないし、地べたに寝るくらいしかできることがない。寝ころびながら生存できた時のことを考える。やはり帝国との敵対は仕方ないことかなと思っていた。
その思考はけたたましい轟音によってかき消されることになる。巨大な生物が全力で突っ走るような轟音で聞いたことのない音だった。さらに、もう1つの聞くに堪えない雄たけびによってこちらに突撃していることを察してしまった。
おそらく、御者は逃げることが出来るだろう。ただ、直進する化け物には馬と私をおとりにすればいいのだから。だから、また死ぬしかないのかと絶望で顔が染まる。
そんなことを考える暇もなく、音は近づき、すさまじい衝撃によって馬車ごとどこかに飛ばされるほどの威力だった。間接的にその超過力を受けた私は救国騎士団にこの化け物が合わないことを祈り、深い絶望に意識を沈めた。




