第二十一話 誘拐
私が目を覚ましたのはまだ日が出ていないほどに早かった。重たい毛布を剥ぎ取って、眠たい目をこすりながらも外に出てみる。やっと、春になったと思ったのだが、朝はまだまだ寒く、体がぶるぶると震えるのがよくわかる。夜番のひとが使っていたであろう焚火は火がすでに消えており、頑張った人たちは寝ているころだろう。
目覚ましに体を動かそうと、キャンプの中を見て回る。少し歩き始めて思い始めたのは草地に作ったはずなのに、ちゃんと草を取って歩きやすくしたり、テントを張りやすくしているところだと思う。先遣隊が仕事をしている証でもある。
次に目に入るのはやはりごはんを作っているところだろう。いろんなところで食べられるようにと東西南北と飯どころがあってありがたい。ちょうどお腹がすいてきたところだったので朝ごはんにしようかなと思った。
ご飯を食べるために、炊き出しのようなところに近づくと、そこには見覚えのある、赤髪の青年がたっていた。おそらく、ガベーラントであろう。だが、他人だった時にすごーく恥ずかしいので遠くから話しかけるのはやめておくことにした。近づくとガベーラントと一発で分かり、話そうとした。
「おはようガベーラントこれからご飯?」
ガベーラントはびっくりしたのか全身を使って振り向いてきた。その後、なんか安心するような感じで落ち着いていた。手に持っているご飯を振り落とさないのか心配になるくらいだがそこは落とさない器用さがあった。
「なんだ、シアハか。声が似ってからアネモネがまた注意しに来たかと思ったぜ。」
「そんなに似ているかな?それよりもアネモネに普段なんて言われているの」
なんの迷いもなくスバっと答えてくる。
「ああな。いつも同じ飯ばっかで栄養が偏るからやめろーってうるさいんだよ。ただ、選ぶのがめんどいだけなんだけどな。」
頭をかくように、困った感じがにじみ出ている。だが、それが本心のようには見えなかった。なんか、照れ隠ししているようなそんな感じ。
「それは、まあアネモネのほうが正しいけれど、ガベーラントのほうもわかるよ。」
「ま、っそうだよなみんなおんなじことばっかで特に解決することなんてないんだけれど。まあ、そんなことより飯取ってきな。」
そういって彼はテーブルについてご飯を食べ始めた。あまり話したくないことなのかもしれないからこれ以上は聞かないようにした。私は、炊き出しのようなところからご飯をもらって、ガベーラントと飯を食べた。
そのあとはまた任務の時に会おうぜといわれた。まあ、当然後で会うから気にすることもないかと思っていたところ。何やらどたどたとこちらに走ってくる音がした。何か急いでいる人がいるのかとぶつかったら危ないと思い素早く振り返る。
「おーい。渡したいものがあったの忘れてたわー。」
駆け寄ってくるのはさっきまでご飯を食べていたガベーラントだった。何やら、銀色でできた薄いの円柱でできた何かをもってこっちにやってきた。少しばかり息切れしているガベーラントは手に持っているのも渡して、すぐに去ろうとしていた。
「それ、時計やから。昨日、遺跡から取れたんだけど誰も使わんし上げるで。」
「ええ、こんないいものもらってもいいの。」
驚愕してフリーズしていたところ、ガベーラントはマジで急いでいるのか話を聞かずにどこかに行ってしまった。手元の懐中時計を開けてみるとしっかりと時刻が表示されており現在時刻は7時に差し掛かりそうなところだった。確か、今日は8時からだから、確かにガベーラントは準備というより剣を研いでいる時間があまりない。そうすると急ぐ理由にも察しが付くだろう。
だが、不思議なのが少し汚れていたり、傷がついているところだった。何か、使っていたように思える。気になるが直接聞くわけにもと思い胸の中にしまうことにした。
「私も、こないだ使ったクロスボウの整備しなきゃな」
そんな、独り言をつぶやきながら自身のテントに向かって歩き、探索開始の時間まで待つことになった。
探索が開始される時間が時計によってわかりやすくなったからもう、遅刻することはなくなったと思う。現に、ちゃんと来れているからね。ガベーラントとアネモネも準備万端みたい。それで何かを言い争いしているから今日も元気だなと思うところがある。彼らは何かを言い終わったのかこちらに来た。
「シアハさん。ちょっとしたプレゼントがあるのですがどちらがよろしいでしょうか。二人で話していたのですが纏まらず...」
そう言って、見せてきてくれたのはブレスレットとイヤリングだった。どちらも銀でできており、とてもきれいで美しい彫刻がされていた。どっからどう見ても高そうなものに私は遠慮しそうになるが、二人の剣幕に負けて選ぶことになった。
ブレスレットのほうは宝石のようなきれいなものが埋め込まれているわけではないが、装飾としての彫刻が美しく、素材だけのものだが高価であることはよくわかる。それに対して、イヤリングも銀でできており、こちらも付けやすそうでかつシンプルな作りでありちょっと好みであるからこっちにしようかと思う。
「イヤリングのほうをもらおうかな。」
そういうと明確にガベーラントが落胆して、アネモネが勝利を誇るように胸を誇張している。何か、賭けでもしていたのかってほどの違いだった。
「受け取ってくれてありがとうございますわ。」
「察したかも知れねえが、今日の夜番をかけていたんだよな。」
「贈り物としては二人でどちらがいいものかと厳選したものですの。」
「だから、気にせず受け取ってくれよな。」
二人はそう言ってくれるが、なんだかうれしさ半減というか。もちろん、贈り物をくれるのはうれしいし、ありがたいと思っているのだけれど。なんだかな、彼らがいちゃつく動機にされているようでもやもやしてしまった。まあ気にせず、イヤリングをつけてみることにした。
「やっぱりですわね。かわいいですわ~。」
「まあ、いいんじゃねえの...」
機嫌のいいアネモネとちょっと悪くわないと思っていそうなガベーラント二人ともわかりやすい反応をしている。そのあとは、すぐに出発することになり、また古代都市に行くことになった。背後の陰に気づくことなく。
「なんーか暇だな。」
「そう思うのはあなたの知識が不足しているからですわ。教えますからそんなこと言わないでくださいまし。」
教えあっている二人を横目に私は目の前の構造物を見ている。明らかに何かを残すために置いてあるが、中に書いてあることが一切読めないように思える。普通の人であればここで退散してしまうかもしれないが、私にはなぜかこれが読める。知識としてあるのがよくわかる。碑文に書いてあるのは。
”奴を目覚めさせることは。すなわち国の終わりを示さん。”
奴と書いてあるが、現代の言葉に表すのが難しいほどに汚い言葉で書かれている。さらに、普段使わない古代文明の王朝とかで使われることがある言葉づかいで混乱するばかり。本来、これは混同してはいけない言葉でなぜこれがあるのかすらわからない。昔の人がふざけて書いたとしか思えないように。
「ますます意味が分からないよ。」
そう独り言をつぶやいてしまうほどには意味が分からなかった。そういえば、ガベーラントとアネモネとはぐれてしまったなと思い。構造物から出る。さっきまで、ガベーラントにアネモネが古代文明について講義のようなものをしていたはず。だから近くにいるのではないかと思い。その辺を歩き回ってしまう。どんどん興味のわく方角へ。
「っていうか話し声がしたらわかるよね。いったいどこに」
そう思ったが最後、私は、ゆっくりと意識が朦朧としてくる。干渉の仕方、効果の持続、ガベーラントとアネモネの声の聞こえなさ、すべてが不気味である。こんな不気味なことをできるのはノームレゾナンス以外ありえない。何者かが悪意をもって私にノームレゾナンスをかけにきて、何かをしようとしていることしかわからなかった。せめて、倒れて頭を打たないように壁に寄りかかり、そのまま暗闇に落ちてしまった。
「最後、こちらを見ていた......。透明化に催眠までかけているのだわかるはずがないだろう。」




