特殊1話 彼女はきっと side グラージス団長
グラジース団長視点
「ルスベリー報告を」
「はい~。まず、シアハさんはやはり公国の最後の天才シアハであっていると思われます。天使の特徴である光輪に羽、特徴的な綺麗な金髪。どれをとっても天使の特徴です。」
「記憶がないとのことだが」
ルスベリーからは少しだけ顔がうつむく。がはたから見たら誤差にすぎないだろう。気を取り直すように前を向いて、話し始める。
「彼女の記憶に関しては、やはり帝国関係だと思われます。相当、監禁されていたことが精神に来たのか。それとも、公国の時点で記憶を消されていたのか。どちらにせよ反感を買わないために消された可能性があると思われます。」
「天使だから公国のシアハであるとは限らないです。しかし、帝国の代替わり、あの場所にいたこと、それに本来知りえないほどの情報を持っていることから推察できます。」
やはり、帝国と公国の戦争の火種となった人物に違いはないのか。シアハの作り出した物の中にノード抑制剤があり、それを狙った帝国と公国の間の亀裂が大きくなることによって戦争が起きた。しかも、帝国は容赦することなく公国を叩き潰したのだ。
「では、救国騎士団に来てからの立ち振る舞いでの協調性はどうだったか?」
「影の者と一緒に観察していたのですが、協調性に問題はないです。あと、護衛のやり方はこのままのほうが刺激が少なくて彼女にもいいと思います。過剰に護衛を配置して昔のことを思い出したことから精神的に参ってしまうことは避けたいですしね。」
「そうか...であるならばいいか。」
彼女はどうやらいい子に育っていると思われる。昔、公国に住んでいた時にシアハが住んでいたところにいた。あまり、大きくない町でいろんな人たちと交流があってよかった。ある意味よかったこともある。彼女が私を覚えていなくて、あの時に起きたことは彼女にとってとてもつらいことだったから。なにより、元気そうでよかった。それに今は彼女とは合わせる顔がない。
「そういえば団長。団長のことシアハさんに言いました?」
「言ってないし、言う気がない。私が天使であることは機密情報とする。まあ、あまり知っている人はいないのだが」
「そうですか。では、ほかの人にも言っておきますね。エリートクラスであれば団長のこと知っているはずなので」
「いや、君はシアハの護衛に戻ってほしい。ドークスと交代だ。このことは私から言っておこう。」
「はーいわかりました。では、私はこれで。」
そう言って、彼女はすたすたと部屋から出て行った。自由人な彼女に振り回されることはあるが、うーむ。彼女はシアハにどんな影響を与えるだろうか。シアハがあのようになってしまったらと考えると離すべきか?と思うこともある。
「失礼します。入ってよろしいでしょうか。」
「いいぞ。」
「失礼します。ドークスです。シアハの件で参りました。」
そう言って、扉を開けて入ってきたのは、黒髪の男性。ドークスだった。彼はルスベリーと交代するように入ってきた。手に持っている書類を渡した後に二人とも席に着いた。
「彼女は記憶を失っていると聞きました。しかし、ある程度のノームに対する知識はあるように見えます。」
「そうだ。おそらく、過去のことに関する記憶がすべて抜けていると思われる。」
そうすると彼は考えるように顎に手を当てて考え込む。シアハを救国騎士団に入れるのであればやはり研究させるのが一番であるとは思う。だが、それが彼女のやりたいことであるとは限らない。やりたいことをやらせたいと思う気持ちもある。けれども、全体を見た時には研究をさせたほうが大きな利益になると思われる。
「聞いた話ですが帝国では監禁されていたとの噂が流れています。」
「ああ、おそらく事実だろう。それも、研究させるためにな」
「そうなると、ノームの研究をさせることは嫌がってしまう可能性はあります」
「そうだろうな」
悩みどころではある。元気に生きていたことはとてもうれしい。なんせあまりいない天使の同族だからな。かといって優遇するわけにもいかない。悩んでいるのを見抜いたのか話を変えてきた。
「ところで団長。なぜ、シアハを救国騎士団に入れようと思ったのですか。」
「それは、まあ。天才であり、ノード抑制剤の制作者である彼女は見逃せないからな」
「なるほど。真意を話す気はないということですねいいでしょう記録しておきます。」
「まあな。言うつもりはないさ」
まだ、誰にも言うつもりはないし、天使であることは誰にも言う気はない。黙っているのも仕方ないのでシアハをどこに所属させるかを考える必要がある。妥当なのは支援か、医療あたりだろう。
「話を変えて、配属の話をしましょうか。普段は研究にいて、緊急時のみ医療に属するという形でいいと思われるのですがどうでしょうか」
「かなりいい提案だが、シアハが研究することを拒否しないかだけが不安になる」
「それは、もう誰にもわかりません。」
「緊急時医療なのは変わらないであろう。彼女に劇的な戦闘能力はないと思われるからな。」
「今、研究所に向かっているのでしょう?そこで反応を見てから話したほうが建設的かと。」
真面目に考えてもそのようになるだろう。医療に行かせることは問題ないと考えているが、本人次第では戦う選択肢もあるだろう。なんせ、天使には固有のノームレゾナンスがあるからなそれを使えるようになれば戦うことも容易だろう。
「そうだな。一度報告を待つとしようか。」
「わかりました。では、シアハの配属先は一度保留ということで。」
「ああ、問題ない。」
「では失礼します。」
彼はそう言って退室してしまう。相変わらず面白みに欠けるが、裏を返せば真面目である証拠である。人の命を背負う人としては好印象なのだが、彼はラニウリとうまくやれているのだろうか、心配になってくる。
日が傾いてきた頃、外を見ながら考える。私は、今どこに向かっているのだろうか。ただ、死に向かう凡人でないといいのだが。




