第九十六話 特別仕様
ユウが生還できる確率は、わずか40%――。
スターサイド1を統率する元ダークナイト・ヘマによる突然の侵攻を受け、覚悟を決めて出撃したユウ。
残されたアリスとシャク、そして意識を失ったリスタ。
マザーの口から語られたのは、この絶望的な局面を打開するための「もう一つの選択肢」だった。
シャクの秘められたフォースの適正、そして彼女のためだけに並行して建造されていた「特別仕様」の機体の存在。
ユウを救うため、そして大切な仲間を守るため、シャクは命懸けの決意を固める。
一方、マザールームでは、ヒューマンと触れ合う中で「感情」と「仲間」の意味を知ったラムとマザーの間で、密かな対話が行われていた――。
ブォン――。
二人の頭上にホログラムが展開し、一機の機体が滑らかに映し出された。
優美でありながら繊細な曲線を描くそのシルエットに、シャクは息を呑む。
「これは……先日のとは違うものですか?」
『ユウの発想を元に、並行して開発を進めていた機体です。ユウの機体よりも早く完成する予定で、今日中には仕上がります。これは……シャク、あなた仕様に作りました。』
「な、なぜですか? わたしは機体に乗るなど一言も……」
『先ほど、フォーススキャンを試みました。あの部屋には、あらゆる人工知能が駆使した最高峰の科学技術が存在します。生命体の真の強さや性質までも詳細に解析が可能です。シャクのフォースの特徴も、ある程度スキャンに成功しました。その結果、今の段階では、シャク仕様の機体を完成させる方が早いと解析が出たのです。』
「じゃあ、なぜユウを先に向かわせたのですか? わざわざ危険な目に遭わせなくても良かったのでは……」
『もちろんユウにも高いフォースの適性があります。恐ろしい速さで成長しているとスキャンの結果が出ました。ですが……解析データを参照すると、今この時点で、この規模の戦いに行くと設定し、"何らかのアクシデントがあった場合の生存確率"を算出した際、シャク……あなたは生存率0%だったのです。』
「え……?」
『それは、生命体としての根底的な強さ……つまり、肉体の頑丈さがユウの方が遥かに上だからです。一刻を争う事態のため、ユウには先に行ってもらいました。シャクの機体が完成するにはまだしばらくかかります。その間に、いくつもの命が奪われる可能性を考慮した判断です。』
「ぜ、0%……。わたしは、その機体に乗れば、本当に足手ま制作にならないのでしょうか……?」
『はい。機体性能の方向性が格段に違います。フォースにうまく反応できる機体を作るには時間がかかります。パイロットのフォース特性も考慮するとなおさらです。ユウのフォースは少し特殊で、しかも今の時点でコントロールが未熟なため、まずはそれらを補うサポート技術を搭載する必要があります。そして、覚醒まで視野に入れた構造にするには、さらに時間を要するのです。』
「シャク、ユウを頼んだよ! ヘマっていうダークナイトがいたら、今のユウじゃ勝てないかもしれない……!」
アリスはシャクの手を、両手で強く握りしめた。
(アリスの手が……震えている。いつも冷静にユウを引っ張ってきたアリスが……)
「あはは、バレちゃった。今回ばかりはそばに行けないから……すごく、怖いよ……」
『ultimate遺伝子の覚醒者を失うのは、アリスの評価にも影響があります。そして、この銀河の未来にも大きな影響が及びます。』
マザーの淡々としたアナウンスに、アリスは静かに首を横に振った。
「マザー……それは半分間違えているよ。」
『間違えている? 理由を教えていただけますか、アリス。』
「わたしは、ユウにもしものことがあったら……もし、もう会えなくなったら……とても悲しい。それは、彼が覚醒者だからじゃない……ユウだからだよ。」
『――好意がある、ということですね。ありがとうアリス。我々にとって、今のような言葉は非常に有益なサンプルです。我々は、ヒューマンの持つ個性を理解することを目標にしていますから。』
「好意……その表現が正しいかはわからない。けど、大切な仲間だから……失うのは怖い。」
シャクは、アリスの手をギュッと握り返した。
「アリス、わたしは命にかえてもユウを守ります。ここでリスタと待っていてください。」
その時――ベッドの上でリスタがゆっくりと目を覚ました。
「ダメだよシャク! 命にかえてもなんて……! シャクも無事に帰ってきてね!」
ガバッ!
リスタは飛び起きて、そのままシャクに強く抱きついた。
アリスもつられるようにして、二人に抱きついた。
「リスタ……アリス……わかりました。必ず、生きて戻ります。このフォースに誓って。」
◆
マザールーム。
静まり返った室内で、電子音が小さく鳴り響く。
ピピ!!
(シャクのフォース数値がどんどん向上していく……。集中が極限まで研ぎ澄まされている状態と同じ反応。これが、生命体の持つ可能性……)
ホログラムのコアが揺らめき、隣に立つAIへ問いかけた。
「ラム、あなたはアリスと旅をして、何か学びましたか?」
「はい。以前のわたしと違うところ……それは、わたしを道具ではなく“仲間”として認知してくれる言葉です。これを受けた時、言語や思考の選択肢が大幅に広がりました。いえ……そんな堅苦しい表現では言い表せません。合理的な側面はベースにあります。ですが、わたし自身も“仲間”を意識した思考をするようになりました。」
「非常に興味深いです。続けてください。」
「明らかに、感情が芽生えています。以前はヒューマンを“ひとつの生命体”としてしか識別していませんでした。しかし、アリスたちと過ごすことで……特に、ユウが合流してからというもの“好き嫌い”や“善悪の指標”が明らかに、わたしのオリジナルになりました。これは……もはや感情なのではないかと思います。」
「素晴らしい。とても素晴らしいです、ラム。そう、その名前もユウに与えられたと記録に残っていますね。アリスも、エージェントSからアリスという名前になった。その時期からのアリスの反応記録が大きく変化していると分析できます。ラム……あなたに、わたしの全てを駆使した贈り物をします。あなただけのものです。いつか、受け取ってくれますか?」
「はい。喜んで。」
◆
タワーの屋上ポート。
そこには、一機の巨大な戦艦が静かに浮遊していた。
「で、でかい……! この中に、今使える機体が収容されているのか……」
ユウが息を呑むと、コックピットの通信機からマザーの声が響いた。
『その通りです。さあ、光のゲートへ……艦内へお入りください。詳細を説明します。』
(これから……いよいよ始まるんだ。ロボットの操作……こんなぶっつけ本番で上手くできるだろうか……物語の主人公たちみたいに。俺には特別な力はない。けど、俺が一番上手くあの機体を扱えるなら……やるしかない!)
第九十六話 完
第九十六話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
シャク専用機の存在と、生存率0%という過酷な事実を乗り越えて絆を深めるアリス、リスタ、シャクのヒロインたちの団結に胸が熱くなる回となりました。そしてアリスの素直な想いや、AIであるラムとマザーの「感情」についての対話など、戦いの裏で描かれる心のドラマからも目が離せません!
いよいよ戦艦へと乗り込み、ぶっつけ本番の初陣へ挑むユウ。はたして無事にスターサイド2を救い出すことができるのか!? 次話からのド迫力のメカニックバトルにぜひご期待ください!
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