第九十五話 スターサイド1の悪魔
スターサイド1の反乱軍を率いるヘマ管理者――否、「ヘマ総帥」による非情なる宣戦布告。
鈍重ながらも圧倒的な数を誇るロボット軍団を乗せた巨大戦艦が、ついに隣星スターサイド2の青い空を侵略し始める。
一方、スターサイド7のジョウ博士のラボでは、ユウがマザーの用意した転送サークルへと飛び込み、未経験のロボット操縦という命懸けの初陣へ赴こうとしていた。
残されたアリス、リスタ、そしてシャク。
世界の命運をかけた戦いがまさに始まろうとする中、マザーの口から語られたのは、ユウの生還確率を絶望的なまでに引き下げる、敵総帥に隠された「恐るべき過去と能力」の真実だった――!
スターサイド2の防衛管制室に、オペレーターの悲痛な叫びが響き渡った。
「ご報告です! スターサイド1より、複数の不審な艦隊が星の領海内部へ侵入してきました!」
「何だと? 艦隊!? いつもの部品の輸送船ではないのか!?」
「いえ、明らかに軍事用の布陣です! 通信回線が入電、こちらに繋ぎます!」
メインモニターにノイズが走り、傲慢な男の顔が映し出される。
『――サイド2の諸君。これより、我がサイド1による一斉侵攻を開始する。直ちに降伏して我々の配下になるか、それとも無駄な抵抗をして滅びるか、今すぐ選択したまえ。』
「侵攻だと!? おい、血迷ったかサイド1の管理者よ!」
『総帥と呼べと言っているだろう! さあどうする! 愚かにも争いを選べば、この美しい星はただでは済まないぞ?』
「ふざけるな! 我々は機械開発をしながら互いに平和に暮らしている! お前たちの理不尽な配下などになるものか!」
『ならば……決裂、つまりは戦争ということでいいのだな?』
「戦争などしない! 直ちに立ち去れ!! セブンスターズは星々が互いに協力し合って成り立っているのだ! 侵攻などという暴挙に及べば、全体の経済が完全に止まるぞ!」
『そんなことは知ったことか! ――よし、総員! 攻撃開始だ!』
「ま、待て!! やめろ!! 自分たちの星へ戻るんだ!」
『降伏せぬのなら、あとは蹂躙あるのみ。さあ! 侵攻を開始せよ!』
通信が一方的に切られ、サイド2の管理者は悔しさに拳を震わせた。
(や、やはり、あの他所者の男を安易に迎え入れない方が良かったのだ……! あの男は……人の皮を被った悪魔だ!)
◆
ところ変わって、スターサイド7、ジョウ博士のラボ。
「たった今、予定通りサイド2の星内部で敵軍の侵攻が始まったようです。こちら側の機体もまもなく準備が整います。完了次第、ラボの専用ポートへ直接移送します。」
マザーの厳格なアナウンスが響く中、ジョウ博士がユウの背中を強く叩いた。
「ユウ、奥の移動サークルからポートへ向かうのだ。……絶対に、生きて帰ってこい!」
「は、はい! 行ってきます!」
ユウは深く頷き、光を放つ移動サークルへと飛び込んでその姿を消した。
「な、なんだかすごくバタバタしてて……心の準備をする間もなく行っちゃった……。ねえアリス、ユウは大丈夫だよね? ちゃんと無事に帰ってくるよね?」
リスタは不安に耐えかねたように、隣に立つアリスの手をぎゅっと強く握りしめる。
アリスは眉をひそめ、厳しい表情でモニターを見つめていた。
「今回のヘマという男の展開は完全に予想外だったわ。いくら星々の間で争いがあるとはいえ、この文明の水準よ? まさか人が直接操縦席に乗り込んで戦争を仕掛けるなんて、これまでのデータからは考えもしなかった。」
「それは人工知能による制約のせいですね。ある一定のラインで星々の技術水準を意図的にキープしているため、高度なオート戦闘技術は表向き『無いもの』として全域に浸透しています。そして、本当は高度な自律制御ができるという事実も、外部へ絶対にバレてはならないのです。」
シャクが静かにマザーの意図を補足する。
「先ほど説明されていた、生命体の主体的役割の喪失による絶滅の回避、そして他の銀河の悪質な勢力から目をつけられるリスクを防ぐためですね? それは私も直接マザーから聞いて、深く納得しました。」
「しかし、どうにも嫌な予感が拭えん。マザー、あなたも計算上、同じことを懸念しているのではないですか?」
ジョウ博士は作業の手を止め、ホログラムのコアへ向かって恐る恐る質問した。
『はい。現在のシミュレーションにおいて、ユウが生還する確率は40%です。また、ユウがサイド2の被害を最小限に抑え込める確率は60%とはじき出されています。』
「え!? 40%……!?嘘でしょう、ねえ! ユウは本当に無事に帰ってこられるの!?」
アリスが叫ぶのと同時に、メインモニターに最新の戦況予測データが映し出された。
『この規模の全面戦争において、未経験者が生還すること自体、本来であれば極めて低確率です。ユウの驚異的な身体能力と、彼の中に眠るフォースの力に頼るしかありません。……それと、もう一つ重大な懸念事項があります。最近スターサイド1に漂流し、総帥に収まったヘマというヒューマン。この人物は、フォースの扱いに非常に精通しています。もし、この男自らが専用機体を操り、ユウの前に立ちはだかる展開となれば……戦況はさらに悪化し、こちらが一方的に撃墜される可能性が極めて高くなります。』
「え!? そ、そんな……撃墜されたら、ユウはどうなっちゃうの!?」
『コックピットを直接射抜かれれば、その命はまず無いでしょう。また、それ以外の部位に致命的な損傷を受けた際も、機体が爆発に巻き込まれる前に脱出できなければ、極めて危険な状況になります。』
「ああ……そんな、ユウが……」
あまりの絶望的な数値に、リスタは頭を抱えて激しくふらつき、その場に足から崩れ落ちそうになった。
「わ! リスタ!?」
アリスとシャクが間一髪で彼女の身体を両側から支え直す。
「いかん、ショックが大きすぎたか。アリス、彼女をそこに横にするのだ。医療ロボットをこちらに向かわせる。」
ジョウ博士の指示でラボの医療ユニットが作動し、すぐに小さなロボットが駆け寄って診察を始めた。
『安心してください。精神的な過呼吸による一時的な気絶です。バイタルに異常はありません。』
「よし、そのまましばらく寝かせてやってくれ。アリス、シャク、お前たちとのある程度の打ち合わせはすでに済ませてある。機体の最終調整作業自体はもうこちらだけでも動かせるから、リスタの体調が整い次第、私の元へ連れてきてくれ。みんな、あとはマザーの指示を仰ぎながら、各自の役割を全うしよう。何が起こるかわからない戦場だ。私はすぐにユウの宇宙船の改良作業にとりかかる。では。」
ジョウ博士は作業着の袖をまくり、足早に管制部屋を出て行った。
ドック内の共有スペースに、ぽつんと立ち尽くすアリスとシャクの二人。リスタはまだ気を失ったまま、医療ベッドの上で安静に眠っている。
「アリス……ユウは本当に大丈夫でしょうか……。」
ポツリと溢したシャクの言葉に、アリスは悔しそうに自身の拳を握りしめた。
「今までは、どんな危険な場所にも私がついていけた。でも、今回は……。こんなことなら、アカデミーでロボットの戦術操縦も専門的に学んでおくんだったわ。今の私が強引について行っても、戦闘の高速機動に身体がついていけず、ユウの足手まといにしかならない……。」
「普段の飛行車の操縦技術では代用できないのですか? アリスは、ある程度の機械なら何でも一瞬で使いこなすと聞きましたが……。」
「身の回りのビークルや輸送機ならね。でも、あんな質量を持つ巨大な人型兵器なんて、通常の惑星探査ミッションのカリキュラムには入っていないわ。操るとしても、地上からオートの無人機に指示を出すくらいが関の山……。性能をフルに引き出すとなれば、おそらく、あれらのフォース連動型の機体なら、私よりシャク、あなたの方が適任なのよ。――そうよね、マザー?」
アリスの鋭い指摘に、空間に浮かぶ光が明滅した。
『――おっしゃる通りです。アリスの推測は完全に正解です。』
「え!? わ、私がですか? む、無理です! 私は昔から精密な機械そのものが苦手ですし、ましてや戦うなんて……」
突然の指名にシャクが激しく狼狽する。
『アリスの見解が正しいと言える、その最大の理由は「フォース」にあります。ユウが具現化した機体に搭載されたシステムは、フォースによって物体の挙動を直接コントロール、および同調させることができます。また、フォースによる周囲の空間探知能力に優れていれば、敵の攻撃の軌道を事前に察知し、被弾率を大幅に下げることが可能です。極限まで高まれば、未来予知に近い先読みの回避運動すらも可能とします。』
「……だから、ヘマという男が戦場に出てくれば、ユウが撃墜される確率が跳ね上がるとおっしゃったのですね?」
『はい。その通りです。先ほど現地の諜報ネットワークから情報を再取得しました。ヘマは元、銀河を震撼させるダークナイトの一員です。どうやら、ある任務の途中で組織を脱走し、このセブンスターズへと漂流してきたようです。』
「ダークナイト……!? じゃあ、アークと同じ……。そんな危険な相手が、ユウの前に……!」
シャクの顔から血の気が引いていく。
「マザー! 私に出来ることは何ですか!? 操縦ができなくても、ユウを助けるために、な、何か別の方法があるはずです! 私にできる役割を教えてください!」
『わかりました。では、シャク。あなたには、ユウの生還率を40%から引き上げるための「別の極秘依頼」を託します。――心して聞いてください。』
第九十五話 完
第九十五話をお読みいただきありがとうございました!
ついに始まったスターサイド1による非道な侵攻。そして明かされたヘマの正体が「元ダークナイト」という絶望的な事実に、物語の緊迫感は最高潮に達しました。
操縦未経験のまま戦場へ赴いたユウの生還率はわずか40%。リスタが気絶してしまうほどの危機的状況の中、マザーからシャクへと下される「別の極秘依頼」とは一体何なのか!? ユウを救うためのシャクの決意と、反乱軍の悪魔ヘマとの激突から目が離せません!
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