第九十四話 想像した科学
相手が人型の巨大ロボット兵器で攻めてくるならば、こちらも同じ土俵で迎え撃つまで――。
「想像したものを何でも具現化できる」というマザーの驚異的な地下技術を前に、ユウは意を決して自身の脳内にあるイメージを解放する。
それは、宇宙の住人たちの常識を遥かに超越した、地球のエンターテインメント文化が育んだ「最強のロマン」だった。
未知なる新兵器の開発が水面下でスタートする中、ラボへと戻ったユウたち。しかし、銀河を揺るがす戦火の足音は、彼らが予想していたよりも遥かに早いスピードで、すぐそこまで迫りつつあった――!
ユウの頭部に、淡く発光する特殊なリング状のデバイスが装着された。
「お、これは……。」
「さあ、想像してみてください。あなたが良いと思う、最高のものを……。」
マザーに促され、ユウは静かに目を閉じた。かつて地球にいた頃に夢中になって見ていた数々のアニメや、自分の中にあった理想のロボットの姿を脳裏に鮮明に思い描いていく。
(外観はこんな感じで……。基本はこの機体をベースにして……。あ、色は白じゃなくて、引き締まった黒がいいなあ。装備は……やっぱり、コレだな……!)
ブォン。
ユウの思考と同期するように、白い空間のプロジェクターから、漆黒のボディを纏った一機の人型機体のホログラムが鮮やかに映し出された。
「外見のデザインは綺麗に整いましたね。では、次は性能についてもある程度、思い通りに想像してみてください。理想の動きのイメージ、どのような素材か、耐久性や特殊な特性についても……。」
「分かった。やってみる。」
ユウは脳細胞をフル回転させ、可能な限りの理想を詰め込んでいった。
(あらゆる物理攻撃の衝撃を逃す特殊な装甲コーティング……。そして、敵のビーム攻撃に対しても高い耐性を持つ対ビームコーティング……。戦場でのエネルギー切れは絶対に無くしたいから、動力源は無限に近い出力を誇る核エネルギーで……。操縦システムは、操縦桿だけじゃなく、ある程度は俺の身体の反応やフォースにリンクして動かせるように……。あとは……そうだ、変形機構! 状況に応じて高機動の飛行タイプにも可変できるように……。――うん、こんな感じで良いのだろうか。俺は本物の科学者じゃないから、細かい素材の成分までは指定できなくて、"理想"の性能しか言えないや。)
ユウが目を開けると、マザーは優しく微笑んだ。
「それで十分です。ここまでの明確なイメージ情報があれば、こちらで設計を補完して実際に作ることが可能です。」
マザーが指先を動かすと、ホログラムの黒き機体が、ユウの脳内イメージ通りにしなやかに駆動し、滑らかなモーションで飛行形態へと変形してみせた。
「おお! すごい! 本当にイメージ通りの動きだ! ビームを用いた必殺攻撃のシミュレーションも、完全に思い描いた通りになっている!」
「ユウが過去の記憶を非常に鮮明な映像として記憶していたことが大きいです。わたしたち人工知能にとっても、極めて再現がしやすい素晴らしいデータでした。」
目の前で自分の理想が形になっていく光景に、ユウは少年のように胸をワクワクさせていた。
(これに……本当に俺が乗るのか!? 操縦なんて一度もしたことがないけど、ちゃんと動かせるだろうか……。)
「それでは、ただちに地下工廠にて開発に取り掛かります。完成の目処が立ち次第、またラムを通じてご報告しますね。」
マザーに見送られ、時間はあっという間に経過した。一旦、ユウとシャクの二人は自動飛行車に乗ってジョウ博士のラボへと帰還することになった。
◆
翌日、ジョウ博士のラボにて。
「なに!? 本当にマザーに会えたのか!?」
ジョウ博士が目を見開いて驚愕の声を上げる。
「うん。この星の裏で起きている本当の現状も、マザーから直接聞くことができたんだ。」
「え、何? 待って、マザーって一体誰のこと?」
状況の掴めないアリスとリスタに対し、ユウはかいつまんで事情を説明し、セブンスターズの星々で今まさに反乱の危機が迫っていることを伝えた。ただし、マザーと進めている専用機体の開発計画については、あらかじめシャクとアイコンタクトで相談し、余計な心配をかけないよう現時点では伏せておくことにした。
「やっぱり、本当に戦争になってしまうんだね……。いつ攻めてくるのかなあ……。」
リスタは破滅の予感に怯えるように、不安げな表情で身を縮めている。
ジョウ博士は腕を組み、重々しく首を振った。
「大丈夫だ、安心しろ。少なくともこのラボには、私が構築した最高峰のシールドシステムがある。数キロ先まで精精密なレーダー探知が可能で、識別コードのない不審な機体には、システムが自動で細心の注意を払って迎撃体制をとるようになっている。……問題は、ここ以外のその他の施設や、別の星々だ。マザーの言う通り、他の星は技術的に発展させてもらえていない。敵が本気で攻めてくれば、あっという間に制圧されてしまうだろうな。」
◆
同じ頃、スターサイド1。
無骨な鉄屑のような建造物がひしめく軍事基地の中で、一人の通信兵が声を張り上げた。
「ヘマ管理者! すべての軍備の準備が整いました! 我が反乱軍、いつでも総攻撃へと打って出られます!」
「――総帥と呼べと何度も言っているだろう!! よし、全軍に通達せよ! これより、我が軍の初陣としてスターサイド2への侵攻を開始する!」
ヘマ総帥の傲慢な号令が響き渡る。
挙動こそぎこちなく鈍重ではあるが、大量の人型ロボット兵器をその腹に収容した巨大な宇宙戦艦が、轟音と共にゆっくりと空へ浮かび上がり、大気圏を突き抜けて漆黒の宇宙へと飛び立っていった。
◆
「ユウ、マザーセブンスターゼロより、至急の暗号通信です。」
ラボにいたユウの元へ、ラムコピーから緊迫した連絡が入る。
「マザーからの直接の指示により、この通信は秘匿扱いにせず、この場にいる全員へのオープンアナウンスへと切り替えます。」
ピン、という電子音と共にスピーカーモードになり、ラボの全員にマザーの声が聞こえる環境が作られた。
『ユウ、緊急のお願いがあります。先ほど、スターサイド1の反乱軍が、隣のスターサイド2への侵攻を開始しました。彼らの暴挙に対抗するため、あなたが提示したイメージを元に、現在最低限の戦闘素材を用いて超高速で機体を鋳造しています。出来上がり次第、すぐに出撃していただくことはできますか?』
「え!? もう侵攻が始まったの!? ど、どうしよう……! 俺、本物のロボットなんて一度も操縦したことがないのに、いきなりの実戦なんて、そんな!?」
ユウがパニックになりかける中、マザーの声は冷静に言葉を重ねる。
『操縦に関しては、ラムの自律プログラムを機体に同乗させます。モーションのサポートはもちろん、万が一、機体の耐久値が危険水域に達した場合は、ユウの命を守るために強制的に戦線から離脱・敗走することを最優先として制御しますのでご安心ください。』
「わ、わかりました……! できる限り、精一杯頑張ってみます!」
「ユウ! 本当に行くの!? 危なすぎるよ!」
アリスが血相を変えてユウの服の袖を掴むが、ユウの瞳には強い光が宿っていた。
「でもアリス、このままあいつらを放っておいたら、セブンスターの星々が全部火の海になっちゃうんだ。被害がこれ以上広がる前に、誰かが最小限に食い止めないと……。」
マザーからの通信映像が切り替わり、ラボのメインスクリーンにセブンスターズの立体ホログラムが映し出された。
『こちらを見てください。セブンスターズの各惑星は、端から1から7まで順番に連なるように位置しています。反乱軍はおそらく、順番に惑星を侵攻・制圧しながら、自軍の勢力と物資を拡大していく計画です。ですが、最初のサイド2へ侵攻している今のうちに本隊を叩いておけば、その先の被害を完全に防ぐことができます。』
「みんな、俺、行ってくるよ。ここで戦わなきゃ、博士に頼んでいる俺たちの宇宙船の改良だって、落ち着いてやってもらえなくなっちゃうからさ……。」
ユウの言葉に、シャクは祈るように両手を胸の前で組んだ。
「ユウ、くれぐれも無理はしないで、気をつけてね。絶対に、無事に帰ってきて……。」
その時、ずっと黙って画面を見ていたジョウ博士が、不敵に鼻を鳴らしてキーボードを叩いた。
「念のため、こちらからもサポート用のパイロット機を数機、現地へ送ってやる。遠隔操縦だからそこまで大層な機動は期待できんが、敵のターゲットを散らす弾除けくらいにはなるだろうて。」
(マザーの管理によって全体の技術力は低く抑えられておるからな。ジョウ博士の援護機にも、性能的な期待はあまりできん。オートとはいえ、機体に組み込まれている人工知能の戦闘レベルも制限されておるから、そこを過信するのは禁物だ。……まあ、それは攻めてくる敵のロボット軍団とて同じ条件だがな。)
ピピピッ。
画面の向こうのマザーが、最終的なタイマーをセットする。
『これより2時間後に、すべての開発と調整の準備が整います。そちらのラボの座標へ直接機体を転送しますので、出撃の準備をお願いします。』
通信が切れた画面を見つめながら、ユウは大きく深呼吸をし、両手で自分の両頬を強く叩いた。
(も、もう2時間後には準備ができちゃうのか……! よし、これ以上弱音を吐いてる場合じゃない。腹を括らなきゃな。――俺にできることを、全力でやるんだ!)
第九十四話 完
第九十四話をお読みいただきありがとうございました!
ついにユウの「男のロマン」が形になり、黒き可変型カスタムロボットが誕生するプロセスには、胸のワクワクが止まりませんでした!地球のアニメ文化の結晶が、宇宙の超技術でどう具現化されるのか、そのデザインが今から楽しみでなりません。
しかし、そんな興奮を打ち破るように始まったスターサイド1のヘマ総帥による侵攻。未経験ながらも「星々の火の海を止めるため」、そして「自分たちの宇宙船を守るため」に、2時間後の初陣に向けて腹を括るユウの主人公としての成長と度胸には、本当に胸が熱くなります!
次回、ついに転送されてくるユウ専用の新機体! ラムのサポートとジョウ博士の遠隔援護を背に、ユウは初陣の宇宙防衛戦で一体どんな大活躍を見せてくれるのか――!?
黒き可変ロボの雄姿と、ユウの記念すべき初バトルの幕開けが待ちきれないという方は、ぜひブックマーク登録や評価、感想コメントをお願いいたします!皆様の熱い応援投票が、次の大迫力のロボット戦闘シーンを執筆する最大のエネルギーになります。
現在開催中のコンテストへの大切な応援投票も、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
また、もう一つの正式タイトル**『Another Life 〜現実が詰んだので、フルダイブVRで人生やり直します〜』(N0377LN)**も大好評連載中です! 近未来SFの戦火が激化する『Ultimate Wars』とあわせて、こちらのフルダイブVR世界での緊迫したやり直しファンタジーもぜひ並行してお楽しみくださいね!




