第九十二話 関係性
激しいフォースが激突した模擬戦の末に、ダークナイトの強者アークと「友達」になるという破天荒な結末を選んだユウ。
そのあまりに規格外な行動に、シャクは驚愕し、ジョウ博士は冷や汗を流しながら頭を抱えてしまう。
敵対する組織の幹部と不用意に繋がりを持つことの危険性を諭されるユウだったが、彼の手にはアークから譲り受けた一振りのライトソードが残されていた。
一時の静寂が戻ったラボの中で、ユウたちは次なる目的地を見据える。だが、彼らが何気なく口にしたある疑問が、サイド7の根幹に隠された「世界の頭脳」を呼び覚ます引き金となろうていた――!
「さすがに、まずかったですかね? でも、あいつは悪い奴とは思えなかったんです。勘ですけど。」
ユウが申し訳なさそうに言うと、ジョウ博士は厳しい表情を崩さないまま応じた。
「ダークナイトの連中の中には、フォースを用いて他人を意のままに操ろうとしてくる者もいる。関わるというのなら、十分に注意が必要だ。あと、ダークナイトは全銀河から恐れられる凶悪な存在。お前たちは本来、明確な対立関係にあることを忘れてはならんぞ。お前は……いざ本当の闘いになった時、その友達を討てるのか?」
「たしかにそうですね……。軽率でした。」
ユウは深く反省し、うつむいた。
「まあよい、結果的に今回は穏便に済んだのだ。そこは感謝する。それにしても、奴らのフォース感知能力は流石だな。特にあのアークとやらは、ダークナンバーの中でもかなりの使い手だからな。」
「アーク!? ――今、アークと言いましたか!?」
それまで静かに聞いていたシャクが、弾かれたように顔を上げた。ユウもその名前にハッとする。
「アーク……。もしかして、シャクの星にいたあの子と同じ名前……。だからどこか聞き覚えがあったのか!」
「もし、その青年がわたしの星にいたアークなら……確かにあの桁違いなフォースの強さには納得がいきます。まさか、ジョウ博士の顧客になっていたなんて……。」
「すまん、それを私は知らなかったのだ。知り合いだと分かっていれば、ここで会わせれば良かったろうに。」
ジョウ博士が申し訳なさそうに頭をかくが、シャクは首を振った。
「いえ、わたしは昔、陰から彼の姿を見ていただけなので、向こうはわたしの存在を知りません。けど……まさか彼がダークナイトになっていたなんて。ナイトの修行は上手くいかなかったのですね……。あんなに優しかった人が、闇に堕ちてしまったとは……。」
「でも……あいつ、いい奴だったよ? 少しおっかないけど、友達宣言をしてからは、まるで人が変わったみたいに優しくなって……。」
ユウの言葉に、シャクは少し希望を見出すように目を細めた。
「元々は光の性質を持った人なのです。もしかすると、彼がダークナイトの組織に身を置いているのには、何か深い理由があるのかもしれせんね……。」
「なんにせよ、今回は一件落着だ。これからはしばらく、お前たちの宇宙船の改良作業にあたる。二人はその間、ラボ内を自由にしていてくれ。」
「博士! このもらったソードはどうすれば良いですか?」
ユウが腰に下げたグリップを指差す。
「ふむ……実際に扱ってみてどうだった? 握った時、手に違和感などは無かったか?」
「それが……すごく握りやすかったんです。なんかこう、手に吸い付くというか、離れる気がしなくて。気のせいかもしれませんが。」
「なら、お前さんとの相性は抜群に良い。アークのソードは、より効率的にフォースを刃へ流すように独自設計されておる。フォースがダダ漏れ状態のユウにはピッタリの武器かもな。……いや、まさか、だからこれを最初からお前に手渡したのか? だとすると、アークはお前さんのこれからの成長を期待しておるということだ。本来、ナイトらは自分の武器を簡単に誰かに譲り渡したりはせん。巡り巡って敵を増やすことに繋がるからな。」
「アーク……。確かに、ほんの少しの時間しか話していないけど、なんだか何時間も一緒にいたような……いろんな想いを受け取った気がします。」
ユウがしみじみと手元を見つめると、シャクが優しく微笑んだ。
「それは『フォースの共鳴』だと思います。言葉を無駄に発さずとも、ある程度はお互いの本質が理解し合える。ユウの底知れないフォースに気圧されなかったのも、彼があなたにとって対等か、それ以上の存在だからです……。」
ジョウ博士と一度別れて、ユウとシャクの二人は改めて広大なラボを見て回ることにした。
「シャク、どこか行きたいところはある? って言っても、お互い初めての場所だから、よくわからないよね。」
「ユウ、一つどうしても気になることがあります。――ラム、ここに、人工AIの母体はありますか?」
シャクが傍らのラムコピーに問いかける。しかし、
「……………」
ラムコピーは無機質な表情のまま、何も答えなかった。
「あれ? ラムコピーから反応がないぞ? 故障かな?」
「いいえ、やはり……質問の内容によっては、強力なアクセス制限が掛けられているのです。しかし、この不自然な沈黙こそがその答え。わたしは以前、姉から人工知能についての話を聞いたことがあります。このサイド7のどこかに、すべてのシステムを統べる『母体』が存在していると……。」
「その人……ううん、その母体に会ってみたいんだね? じゃあ、その母体を探し出して、直接会ってみようよ!」
「けど、ラムコピーですらこの反応ですし、一般の私たちが近寄れる場所では……。」
身を固くするシャクに、ユウは人懐っこい笑みを浮かべた。
「こういう時はさ、上司に直接許可を得るのが一番手っ取り早いんだよ、地球じゃね。」
「じ、じょうし……とは?」
「上司っていうのはね、自分よりも立場が偉くて、全体の責任や権限を持っている人のことだよ。だから、このラムコピーを通じて、その母体に直接通信を繋いでもらって許可を得るのはどうだろう? もし、母体そのものが手動でOKを出してくれれば、きっと会えるはずさ。」
「な、なるほど。……ではラム、わたしたちのことを母体へ説明して、会ってもらえるように取り次いでもらえますか?」
シャクの要請に、ラムコピーの瞳が淡く明滅した。
「お伺いを立てること自体はシステム上可能です。ですが、謁見を求める明確な理由が不足しています。母体へは、どのようにお伝えしますか?」
「じゃあ、俺から伝えるよ。――『この星の現在の本当の状況を教えてほしい。そして、俺たちに何か力になれることはないか。あと、俺自身……ultimate遺伝子の覚醒についても話をさせてほしい』。これでどうだろう?」
「かしこまりました。ただいま通信を試みます。…………通信終了。許可が降りました。これより目的地へ案内致します。」
「は、早ーーー!!!? え!? そんな簡単に会っていいの!?」
あまりの即答ぶりに、ユウはひっくり返りそうになって驚いた。
「わたしたちの思考処理速度は、ヒューマンにとっては瞬時に感じるでしょう。ですが、きちんと提示された質問に対して内部処理を行い、最適と判断しているので問題ありません。」
ラムコピーが淡々と告げると同時に、二人の目の前に一台のスタイリッシュな飛行車が自動操縦で滑り込んできた。
「この飛行車はマザーの直接指示によって操作されており、外部からは誰も追跡できない秘匿仕様になっています。安心してご乗車ください。」
ユウとシャクは促されるままに車内へと乗り込み、飛行車は自動操縦で静かにラボのフロアを離陸した。
飛行車は外へ出ると、まるでワープの時のような凄まじい加速を見せ、あっという間に星の裏側へとたどり着いた。周囲を深い水源地に囲まれたエリアへと侵入していくと、その奥にハイテクな都市の姿が見えてくる。
張り巡らされた防護シールドのゲートを突破し、飛行車は都市の内部へと滑り込んだ。
空間自体は圧倒的に広いが、都市の表面は極めてシンプルだった。中央にそびえ立つ一本の巨大な塔、あそこで母体との対話ができるという。
「こんなところもあるのか……。辺りはあの塔以外、何も建物がないね。」
「この都市の機能はすべて地下に広がっています。ここにはヒューマンや有機生命体は一人もおらず、機械のみで構成された地底都市が広がっております。」
車を降りると、移動サークルによってスムーズに塔の内部へと案内された。
「こんなにすんなり会わせてもらえるなんてな……。もっとこう、いくつも段階を踏まなきゃいけないのかと思ってたよ。」
「た、確かに、あまりにすんなり行きすぎて拍気抜けですね。人工知能の母体といえば、この星において最も重要な機密事項のはずなのですが……。」
シャクが緊張の面持ちで周囲を見回す中、塔の最上階の扉が開いた。
中に入ると、そこには装飾のない、一面のシンプルな白い空間が広がっていた。
そしてその中央には、一人の美しい女性のような姿をした存在が、静かに腰掛けていた。
(あ、あれが……人工知能の母体……!?)
第九十二話 完
第九十二話をお読みいただきありがとうございました!
アークとの過去の繋がり、そして「フォースの共鳴」によって敵味方を越えた奇妙な友情が芽生える展開に、胸が熱くなるエピソードでした。ジョウ博士の「対立関係を忘れるな」という警告がリアルだからこそ、アークがユウに託したライトソードの重みがより一層際立ちます。
そして後半は、ユウの「上司に直接交渉する」というまさかの地球仕込みのアイデアが大成功! 瞬時に星の裏側の秘匿都市へと導かれ、ついに姿を現した女性型の人工知能母体「マザー」。彼女の目的、そしてユウの持つ「ultimate遺伝子」について、一体どのような真実が語られるのでしょうか!?
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