第九十一話 同色
己のプライドを懸け、遮断機能を持つローブを脱ぎ捨てて本気のソードを構えるパール。
対するユウも、トウとの過酷な修行で培ったフォースをあえて全解放し、その身から凄まじい質量のエナジーを溢れ出させる。
初心者とは思えぬユウの底知れぬポテンシャルを前に、ダークナイトの青年アークすらもその目を見開く。
張り詰めた空気の中、ついに激突する二つの光刃。
ジョウ博士が固唾を飲んで見守る中、フィットルームを震撼させる、規格外の模擬戦の火蓋が切って落とされる――!
バチン!! ギギギギ!
バシュン! ブォーン! バシュン!
激しい光刃のぶつかり合いが、フィットルームの空気を甲高く引き裂く。
「ぐっ! なんて重い一撃だい……!」
「うおりゃあーー!!」
バチン!!
ズザーー!!
パールの放った渾身の重撃を受け止め、ユウは力強く押し返した。その圧倒的なフォースの質量に圧され、パールの身体が大きく後退させられる。
その様子を凝視していたアークは、静かに二人の戦いを見極めていた。
(やはりか……。ユウとパールはフォースの性質が少し似ている。ならば、よりフォースの質が良い方が力で競り勝つのは必然。今のパールは、これまでの経験と技術でほんの少し上回っているに過ぎんな。)
「そこまでだ!!」
アークの鋭い声が室内に響き渡る。
「な!? あたしはまだいけるよ!」
「これは殺し合いじゃないんだ。ソードの試運転ならこれくらいで十分だろう。」
アークの冷徹な正論に、パールは悔しそうに歯噛みした。
「く……わかったよ。」
アークはユウへと向き直り、ソードを収めた。
「ありがとう、ユウ。すまなかったな、私たちの身勝手な都合に付き合わせてしまって。……ところで君は、どうしてこの星にいるんだい? ここにいるということは、劇場のスタッフ以外では考えられないのだが。」
(上手く言うんだぞ……!? ユウ!)
背後で見守るジョウ博士は、心臓が飛び出そうなほどの冷や汗が止まらない。
「俺は……自分が何者なのか、よくわかりません。」
(お、おい! 回りくどい言い方はよせ!)
ユウはアークの目をまっすぐに見つめたまま言葉を続けた。
「今の仲間が俺を見つけてくれて、この場所へ連れ出してくれたんです。だから俺は、自分が本当は何者なのか、俺に何ができるのか、それを見つけるために旅をしています。」
(バカものーー! そんな素性の知れない怪しいことを言ったら、余計に目を付けられるだろうが!)
博士の内心の絶叫を他所に、アークはユウの言葉をじっと噛み締めるように聞いていた。
「自分が何者なのか……か。私とユウは、案外似たもの同士なのかもしれないな。……ユウ、一つ頼みたいことがあるんだ。」
「な、何でしょう? 俺にできることであれば……。」
「私と……いや、俺と、友達になってくれないか?」
!?
その場にいた全員が、一斉に目を見開いて驚愕した。
「ちょ、ちょっと! 本気かいアーク!? 友達って……こいつ、ただの一般人だぞ!?」
ギロリ。
アークの冷たい視線がパールを射抜く。
「それがどうした?」
「う! ……いや、なんでもないさ。」
パールの言葉を封じ、アークは再びユウへと穏やかな視線を向けた。
「どうだ、ユウ? やはり、俺たちのようなダークナイトと繋がりを持つのは迷惑かい?」
(こりゃいかん……! どの答えを選んでも不正解になりかねんぞ! ユウ! 慎重に答えろ、でなければ……!)
「喜んで! 俺なんかで、本当に友達になっていいんですか?」
(バカものーー!! それは一番選んじゃいけない選択肢だぞーー!!)
ジョウ博士は頭を抱えそうになった。しかし、アークの表情は目に見えて和らいでいく。
「ユウだからだよ。なら決まりだ! これからは敬語じゃなくてタメ口で構わない。俺の頼みを聞いてくれてありがとう。これから先、何か困ったことや辛いことがあれば、いつでも俺を頼ってくれ。俺の名前はアーク。あらためてよろしくな、ユウ。」
アークは、右手をユウの前に差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いしま……よろしく、アーク!」
ガシッ!
二人の手が力強く握り合わされる。こうして、ユウとダークナイトのアークは友達になった。
「おいパール、お前も挨拶しろ。」
「な、なんであたしが!? あたしはこいつと友達になったわけじゃないからね!?」
「俺の友達に、最低限の挨拶もできないのか?」
アークの無言の圧力に、パールは渋々一歩前に出た。
「ぐ……わかったよ。……よろしく。」
パールが不承不承、ユウと右手を握り合わせた――その瞬間だった。
「うひゃあう!?」
バッ!!
パールは悲鳴のような声を上げ、まるで弾かれたようにすぐさま手を離して背後へのけぞった。
「う、え、あ……!?」
ユウは何が起きたのか分からず、呆然と自分の手を見つめる。
「ぷっ……な? だから言ったろう、やめておけと。これからは俺の言うことを素直に聞いておくんだな。」
「…………はい。」
パールは顔を真っ赤にしながら、完全に気圧されて項垂れた。
「?」
ユウが首を傾げる中、アークは満足そうに微笑んで身を翻す。
「ユウ……またどこかで会おう。フォースの導きが、また俺たちを引き合わせるはずだ。……またその日まで。」
二人はそのまま、フィットルームを後にした。
通路へと去り際、アークはふと立ち止まり、振り返ってユウに告げた。
「そのソードは、ユウにあげるよ。好きに使ってもいいし、好きに改良しても構わない。」
そう言い残すと、二人は自分たちの宇宙船へと乗り込み、星を去っていった。
◆
漆黒の宇宙を往く、ダークナイトの宇宙船内。
「なんなんだい、あいつのフォースは!? 垂れ流しであれだけの質量なんて、酷すぎるじゃないさ!」
パールの愚痴に、アークは低く笑い声を漏らす。
「ククク。実に面白い反応だったな。だからこそ試合を止めたんだ。そのまま続けていたら、お前、あいつのフォースに呑み込まれていたぞ? 俺に感謝するんだな。」
「なっ……!」
「同系統のフォースを持つもの同士の戦いとなれば、純粋なソードの洗練度と、フォースそのものの強さで勝敗が決まる。あいつは身体能力の時点で、すでにただのヒューマンのレベルを遥かに超えていた。だから止めたんだ。悔しかったら、次までに精々鍛錬することだな。」
「ちくしょう、あのど変態野郎……! 次に会ったら絶対に余裕で勝ってやるんだからね!」
憤慨するパールを尻目に、アークは静かに宇宙の闇を見つめ、思考を巡らせていた。
(それにしても、あのベッドで横になっていた者……そしてユウ。二人とも、フォースのポテンシャルが異常に高いとみた。今……この銀河で何が起こり始めている? ダークナイトの動きの裏で、他に何かが覚醒しようとしているのか? ……まあいい。ユウは、どこか俺と境遇が似ている。フォースの性質も、色欲の側面以外は非常に純粋なものだったな。……ふっ、敵であるはずの相手に、思わず仲良くなりたいとさえ思わされてしまった。また、世界のどこかでな……ユウ。)
◆
ユウとジョウ博士は、二人が去ったのを見届けてから、急いでシャクの待つ部屋へと迎えに向かった。
「ごめん、待たせたねシャク! 身体の具合はどう?」
「ええ、もう大丈夫です。十分に休めましたので、もう彼らのフォースにあてられることもありません。……それより、ユウは大丈夫でしたか?」
シャクの心配そうな表情に、ユウは満面の笑みで答える。
「うん! ダークナイトのうちの一人と、友達になったよ!」
「えええええ!? と、友達ですか!?」
シャクが驚愕で声を裏返らせる横で、ジョウ博士は盛大にため息をつきながら、頭を抱えて呟いた。
「ユウ……お前さん、とんでもなく大変なことに関わってしまったぞ……。」
第九十一話 完
第九十一話をお読みいただきありがとうございました!
一触即発の危機から一転、まさかの「ダークナイトと友達になる」という、ユウの規格外の引き寄せの強さが炸裂した素晴らしいエピソードでした!
ジョウ博士の内心の「バカものー!」というツッコミがコミカルでありながら、読者のハラハラ感を代弁してくれていて、シリアスとテンポの良さが絶妙に同居しています。
アークとの握手、そしてパールの「うひゃあう!?」という謎の拒絶反応。アークの言う「色欲の側面以外は純粋」「同系統のフォース」という言葉には、ユウの血筋や能力のルーツに関わる重大なヒントが隠されていそうですね……! アークから譲り受けたライトソードを手に、ユウの旅は一体どこへ向かうのか!?
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