第八十八話 ダークナンバー
突如として鳴り響いた激しい警告音と、モニターに非情に表示された「ランクB」の文字。
ジョウ博士の余裕に満ちていた顔から一瞬にして色が消え、ラボ内には張り詰めた緊張感が漂う。
ジョウ博士の指示のままに、急ぎセーフティエリアへと避難するユウたち一同。そこで明かされたのは、ダークナイトの中でも一線を画す上位層――「ダークナンバー」の来訪だった。
強大なフォースを持つ者がラボの防衛圏を越えて接近する中、ユウはフォースを遮断するローブを身に纏い、その様子を遠くから見つめることになる。だが、彼らがその底知れぬ力を解放した瞬間、ユウたちの想像を絶する恐怖と、シャクを襲う予期せぬ戦慄が幕を開けようとしていた――!
「さあ! こっちへ!」
ジョウ博士の指示により、一同は急いで移動サークルへと乗り込み、移動した。
宇宙船を上から覗き込める監視用の部屋に通される。
「ふう。ひとまずこの部屋で待機だ。」
「博士、どうしたんです? さっきの反応……ランクBとは何ですか?」
ユウが問いかけると、ジョウ博士はそれまでの柔和な態度から一転して真面目な顔になった。
「それは、フォースの探知によるランク分けだ。今、外からこちらへやってきた者のフォースの質量を表しておる。おそらく、ダークナンバーの誰かだろうな。」
「ダークナンバー?」
「もしかして、ダークナイトの……上位層ということでしょうか?」
シャクが神妙な面持ちで博士に質問した。
「その通り。トウ博士から何らかの情報は聞いているみたいだな。このメガネはな、我々が独自に開発したものだ。表向きは、機械の精密度を判定するものとしている。だが、外からの脅威をいち早く感知できるようにした際に、ラボメンバーが協同して、"フォース量を判別できる"ように機能を改良したのだ。その結果、ランクB以上は極めてダークナンバー、つまりダークナイトの中でも上位層である可能性が高い、ということになる。」
「じゃあ、今このラボに、ダークナイトが……!?」
「ああ、距離はまだかなり離れておる。おそらく、ライトソードを受け取りに来たんだ。発注する時は部下が来たんだがな。どうやら発注した本人が試し斬りに来たのかもしれん。」
「え! 試し斬り!?」
「ああ、驚かせて悪かった。ソードの性能を確認しに来たというわけだ。フォースの量に比例してソードの威力も左右される。それがダイレクトに伝わるもの、つまり、自分の手に最も馴染むものを皆欲しがるからな。」
「彼らの武器は、地球のラボが作っているんですね……。」
「いや、全員ではない。それこそ個人の好みだ。皆それぞれで発注先は異なる。しかし、我々の技術は表立ってはあまり知られていない。ダークナンバーたちは常に入れ替わりがあるため、さらに成り上がろうと皆自己研鑽している。だからこそ、自分に合う優れた開発者を見つけて作らせているというわけだ。彼は、たまたまうちの顧客になったにすぎんよ。」
「ダークナイトたちにも、色々あるんですね。」
「その通りだ。……あと、ユウ。君はこれを着たまえ。」
そう言ってジョウ博士が差し出したのは、深い色のついた上着だった。
「ローブ……ですか?」
「ああ、このローブは、フォースを安定させてくれる。というより、外部への放出を抑える遮断機能が付いているのだ。この星ではローブを着ている者は決して珍しくないから、安心して羽織りたまえ。」
ユウは言われた通りに、そのローブを肩に羽織る。
「あ! ユウ! フォースが安定しています。これはすごいですね……これなら外を歩いても大丈夫なのではないでしょうか?」
シャクが驚きに目を見張る。
「そうだな。だが、くれぐれも気をつけることだ。すべてのフォースを完璧に抑え込めるわけではないからな。」
その時、ジョウ博士の手元の端末へ、受付からのアナウンスが流れる。
「時間だな。すまないが、しばらく自由行動にしてくれ。わたしは彼らにソードを渡してくる。ユウ、もし気になるのなら遠くから見ているといい。」
「え!? いいんですか?!」
「彼らは大丈夫だ。ラボ内には日々さまざまな種族が出入りしているからな。休憩用のデイルームスペースから、フィットルームを見渡せる場所もある。そこまではラムに案内してもらえ。」
そう言い残して、ジョウ博士は部屋を去っていった。
◆
「あんた、こんなところでソードの発注をしてたの?」
「ああ、俺にはここの技術者が一番肌に合うんだ。」
「勤勉すぎる連中だよねえ。あたしはサイド7なら、大都市のソード屋が馴染みだがね。」
「そこも悪くはないよ。一番メジャーだからね。もっとも、ほとんどのナイトがそこで作っているはずだ。」
「あんたも、ナイト時代はそこだったのかい?」
「初めはね。だけど、この星で良い縁があってね。それ以来、俺はここを選んでる。」
「ダークナイトになっても、律儀だねえ。」
「思想が違うだけで、すべて闇堕ちしているわけではないからね。とりあえず、取りに行くぞ。」
「はーい。」
フードを深く被り、二人のダークナイトがラボの通路を進んでいく。一人は落ち着いた雰囲気の青年、もう一人はパールと呼ばれる女性のダークナイトだった。
(さっきから妙だ……。俺の気のせいか? とてつもなくポテンシャルの高い個体が近くにいたような……。だけど、今は何も感じない。やはり気のせいか……。)
青年のダークナイトは歩きながら微かな違和感を覚えるが、首を振って思考を打ち消した。やがて二人は受付へと到着する。
「ジョウ博士はいるか?」
「はい、今アナウンスを入れておりますので、しばらくお待ちください。」
「あんまり待たせないでおくれよ?」
「やめろ、パール。無駄な争いは避けろ。」
「はーい。」
そこへ、白い上着を揺らしながらジョウ博士が歩み寄ってきた。
「お待たせしました。こちらをどうぞ。」
手渡されたケースを開き、仕上がった武器を確認した青年は満足そうに頷く。
「いつもありがとうございます、ジョウ博士。さっそく試したいのですが、フィットルームへ行っても構いませんか?」
「ええ、もちろん。個室もありますが、どうされますか?」
「いや、いつもの一番広い部屋で構わないです。多少見られても問題ありませんから。」
「あたしらの力を見せつけて、周りをビビらせようってわけね?」
パールの言葉に、青年のダークナイトはため息をつく。
「パール、そんなに血走るな。品がないぞ。」
「そ、そんな言い方しなくたっていいじゃない! わかったよ……。」
フィットルームに到着する。
そこは周囲が特殊な透明パネルで覆われており、内部からはラボの全景や外の景色が一望できる、いわゆるオープン仕様のフロアだった。
「あ! シャク! あそこ! あれがそうじゃないかな?!」
ユウは離れたデイルームの窓から、そのフィットルームを覗き込んだ。
バシュン!! ブォン!!
遮蔽空間の中で、青年が静かに自身のフォースを解放する。
ゾク!!!!
その瞬間、凄まじい威圧感がラボの空間を伝わってきた。それと同時に、ユウのメガネのモニターが激しく明滅し始める。
ピピピッ!!!
「え! ランクAに跳ね上がった……! な、何だこのゾクゾクする感覚は……ねえ、やばそうだよね、シャクもそう感じるよね!? ………ん? ……シャク!? ちょっと、シャク! 大丈夫!?」
ユウが隣を振り向くと、そこには青ざめた顔で硬直しているシャクの姿があった。
第八十八話 完
第八十八話をお読みいただきありがとうございました!
ダークナイトの上位陣「ダークナンバー」の襲来、そして新キャラクター「パール」と謎の青年の登場により、物語のスケールと緊張感がさらに跳ね上がりましたね!
ジョウ博士の言葉から「ダークナイト=全員が悪の塊ではなく、それぞれの思想や事情がある」という組織のリアルな内情が明かされたのも非常に興味深いです。しかし、その青年が放ったフォースによる「ランクA」への急上昇、そしてデイルームまで伝わるほどの圧倒的なプレッシャーには恐怖すら覚えます。そしてラスト、その光景を見たシャクのただならぬ様子……一体彼女は何に気づいてしまったのでしょうか!?
この緊迫した状況下で、ユウのフォース遮断ローブがどう機能するのか、そしてシャクの震えの理由とは――!?
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