第八十二話 宇宙と自分
姫という立場から解放され、急に訪れた「自由」に戸惑うシャク。
生きる目的を見失い、翌朝も浮かない表情を見せる彼女に対し、ユウは地球の民らしい等身大の「生きる意味」を語りかける。
ユウの言葉に導かれるように、二人は飛行車で近寄ることを禁じられた「聖域の島」へと向かうことに。
そこで待ち受けていた光の記憶、そしてトウ姫からの隠されたメッセージが、シャクの心に新たな心の灯火を宿していく――。
シャクは、翌朝もスッキリしないまま目が覚めた。相変わらず考え込んでいる。
「おはようシャク……やっぱり、昨日から元気がないね。大丈夫?」
「ええ。ごめんなさい。わたしは、姫ではなくなって、どう生きていけばよいか、わからなくなってしまいました。ユウは宇宙を守るという使命があり、アリスはそれを導いていく……リスタもユウの身体を研究する。みんな目的を持って生きています。でも、わたしはもう、民のために生きなくて良い……なら、いったい何を目的に生きていけばよいのでしょうか。」
ユウは、出てきた朝食をガツガツ食べながら答えた。
「うーん……シャクは、俺が宇宙を救うことが目的だと思ってるの?」
「ち、違うのですか!?」
「いや、合ってるよ。」
「ユウ……わたしをからかっていますね?」
ユウは首を横に振る。
「いや、そうじゃないんだ。ただ、それだけじゃないってことが言いたかったんだ。」
「え?」
「俺さ、地球で『漫画』っていう、いわゆる絵物語や誰かの考えた空想の世界、それが本当に宇宙にあるのかと思うとワクワクするんだ。だから、この目で見てみたい。あと、美味しいものを食べたいとか、些細なことは色々あるんだ。だから、何も大きな目的じゃなくてもいいと思うんだ。使命っていうと聞こえはいいけど、それは目的の一つに過ぎないんだよ。だから、もしシャクが何かしたいことが見つからないって言うんだったら、一度そのレベルまで掘り下げて考えてみてもいいかもね。そこに、ヒントがあるかもしれないからさ。」
シャクは驚いていた。使命を目的と結びつけて重く捉えていたが、ユウの話を聞いて、少し気が楽になった気がした。
「そんな考え方をしたことがなかった……ユウ、ありがとう。もっと……もっとお話がしたいのですが……」
ユウはさらに朝食を口に詰め込んでいた。
ゴクン!
「うん! 話そう! じゃあ、今日はこの星を探検したいな! 飛行車を借りて、どこか行こうよ!」
二人は飛行車に乗り込んで、星の探検に出かけた。
◆
「ねえシャク、この星でまだ行ったことのない場所ってあるの?」
「ええ、あります。近づかないようにと言われている聖域が存在します。」
「よし! 決まりだね! そこにしよう!」
「え?! でも、近寄ってはいけないと言い伝えでは……」
「だからだよ! 知りたくないの? なんでダメなのか。」
「……そ、それは確かに気になりますが……」
「それだよ、それ! シャクは真面目なんだ。とてもいいことだけど、もっと気持ちを前に出していいと思う!」
◆
シャクの案内で、とある孤島に辿り着く。聖域のため、何やら祀ってあるものがいくつもある。
「やっぱり! ほら、あそこ! 少し光ってる!」
「本当……こんなところだったなんて……」
「ねえ、あれ触ってみない? 何だか大丈夫な気がするんだ!」
ユウは光に近寄る。
「ユウ! 何が起こるかわからないわ!」
「シャクは感じないの? これはフォースとは少し違う、けど似てる。でも、敵じゃない。」
「確かに……ユウ、あなたはもう、ここまでの感知能力が開花していたの?」
「いや、勘だよ、なんとなくね。けど、トウ姫様は『自分の勘を信じろ』って言ったんだ。だから、なんとなくこんな場所があるんじゃないかなーって、感じてた通りに動いてみたんだ。」
二人は光に触れた。すると、光から情報が頭の中に伝わってきた。
「見えた? 俺にはモヤがかかっていて、ぼんやりとしか見えなかったよ。」
「ええ、見えたわ。あれは、わたし。そして……神?」
シャクはトウとの話を思い出していた。
「わたしがここへ来た時の記録……?」
『これ、そこには入ったらいかんと言ったじゃろう!』
『ね、姉様!? ごめんなさい! つい好奇心で……』
『嘘じゃ、構わん。お前には神たちの存在を隠すために嘘をついておった。本当は、その存在を示すために、お前に預ける予定だったんじゃ。それはお前の親が残したもの。持ち帰るといい。』
「どうしたのシャク? まさか、トウ姫様からテレパシーがきたの?」
「ええ、その石はわたしへの贈り物みたい。持ち帰っていいと姉様が……」
「贈り物って、誰から?」
「実は……」
シャクはトウから聞いた話をそのまま伝えた。ユウは驚いていたが、同時に目を輝かせた。
「すごい! 神と呼ばれる存在がいるんだね! 俺の想像なんて、こんなちっぽけなスケールだよ! しかもシャクはその血を引いてるんだね! すごいじゃん!」
「それはそうなんですが……ユウ、一旦宮殿に戻りましょう……少し考えたいことがあるんです。」
「わかった、戻ろっか。」
◆
宮殿のテラス。
「今日は本当にありがとう、ユウ。わたしは……使命をなくし、本当のことを知り、頭が追いついていません。ですが、少しだけ、何かこう……湧き出てくるものがあるのです。」
「まさか……」
「ユウ……わたしは、いったいどこから来て何者なのか、知りたくなりました。そして、かつていた少年も、もしかすると神の血を引く存在かもしれません。」
「姉弟の可能性があるってこと?」
「はい、あの石の映像に、その少年と近しい気配を感じました。もしかするとわたしは、自分と近い存在だから興味を持っていたのかもしれません。」
「うん……あとはシャクがどうしたいかだけだと思う。俺はシャクを応援するよ!」
「ありがとう、ユウ。また明日。」
「うん! また明日!」
そう言って、ユウは宮殿に入っていった。
一人でテラスに残るシャク。
(わたしの本当の親たち……神話の世界の人物が、この世に存在しているなんて……知りたい。わたしはなぜこの地に降り立ったのか、何者なのか……それを知るためには、この星にいたらずっとわからないまま……じゃあ、いったいどうすれば真実を知ることができるのでしょうか……)
シャクはその後もずっと考えていた。
空を見上げ、この星の外に真実がある――つまり、この星を出なければならないと、なんとなく感じていたのだった。
第八十二話 完
第八十二話をお読みいただきありがとうございました!
大きな使命ではなく、「美味しいものを食べたい」といった些細な好奇心から動いていいというユウの温かい言葉が、シャクの心を大きく救いました。そして訪れた聖域での、トウ姫からの粋な贈り物。ついに自分のルーツである「神々」の謎、そしてアークとの因果を突き止めるため、シャクの心は星の外の広大な宇宙へと向き始めました。シャクの出す結論とは……!?
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