第50話、田中太一。
今、自分は首と本体のフレームだけになっている。
操縦席の部分は空白で、顔のカバーは吹き飛び、丸いレンズとレンズフレームがむき出しになっていた。
首の根元には、學天測Ver・525とかかれたブラックボックス。
シャル殿と対峙する。
「九六、どうやら私はお前がいなくなると寂しいようだ」
シャル殿は長い時間を生きるハイエルフだ。
かれこれ三十五年近く一緒に行動していると、情緒の乏しいエルフにもいろいろなものが湧くらしい。
「そのうえで聞こう、お前はなんだ?」
「え~と。 學天測……」
「違うな」
「改めて聞こう、お前は誰だ」
「……日本陸軍降下猟兵部隊所属、九六式空挺歩行戦車の操縦者、田中太一、三佐であります」
「ふんっ」
「いつから気づいておられましたか?」
「普通のしゃべりかたでいいっ」
「いつから?」
「最初からだ」
「機械、の体に宿ったとはいえ、女は男の性的な視線に敏感だぞ」
―――あああ、水浴びをのぞいた時か
「その後も異界の衣装、”こすぷれ”とかいうものを着せようとした時もな」
「それと、ハートウーマン軍曹だ」
「世界樹の影響で、”ぷろぐらむ”とかいうものが光の精霊になったのだろう」
「なら、人の魂が機械、に宿っても不思議はないだろう」
「ごもっともです。 でも自分が、”田中太一”と自覚したのはつい最近ですよ」
「そうか、……ではこれから、”たなか”と呼ぶのでいいな」
「…………たなか……はちょっと、せめて太一にしてください」
「では、”太一”だ」
「わかった、シャル殿」
「で、太一、これからどうするのだ?」
カンッ
と首とブラックボックスのついた胸部フレームを叩いた。
「ふむん、とりあえず両腕と両足はわざと切り離したから、使えると思う」
「特に、腕についた高性能3Dプリンター」
「今度は、装甲巨兵の思考同期や装甲を取り入れてみようと思う」
「うむ、特にジャンプユニットの開発は急務だ」
「ガンド帝国の飛行艦に手が出せないからなあ」
◆
ヒュルルルルルル
ドドドドドドオン
「来たぞお、面舵一杯」
ワイルダー商会のキャラバン船が爆撃を受けていた。
ガンド帝国との争いは五年を過ぎても続いていた。
追いつめても、いざとなったら飛行艦で空に逃げてしまうからだ。
そして痛がらせのようにキャラバン船を僻地で爆撃していく。
ジャンプユニットの開発は、直接飛行艦を攻撃するのが目的である。




