第31話、ナハトーラ皇女。
ギルドの軍艦とニュウロウラン(予定)に出発する一週間前、ワイルダーキャラバンの船がサマーンカーンに入港した。
オアシスの発見の報告と手続きに時間がかかるのだ。
その間、シャル殿とロボは、”サマーンカーン”の観光を行った。
「シャルさん、こちらがサマーンカーンの名物、”バザー”通りです」
馬車三台が余裕ですれ違えるくらいの大通りの左右に、布製の屋根の下いろいろな店が並んでいる。
案内は、ワイルダーキャラバンの若い娘三人。
「ろぼちゃろぼちゃ」
ロボにはローラが引っ付いていた。
全員、ゆったりとしたキャラバンの衣装に身を包む。
シャル殿の金髪はターバンのようなもので隠されていた。
干した果物や珍しい香辛料、異国情緒漂うアクセサリーなど、シャル殿を含めた娘たちが楽しそうに買い物をしていく。
ローラを肩に乗せたロボはさしづめ娘たちの護衛と言うところか。
「きゃっ」
カチン
「むっ」
パサリ
シャル殿が誰かに当たった。
ターバンが落ち見事な金髪が流れる。
足元には尻もちをつい少女。
三つ編みの黒髪に白い肌。
足元には分厚いグルグル眼鏡(認識阻害付き)。
紅い瞳がシャル殿を見上げていた。
「すまないっ、けがはないか?」
驚きのため虹彩に金色が混じる。
シャル殿が少女に手を出した。
「ひっ、使徒の虹彩っ」
尻もちをついたまま後ずさる。
「ガ、ガウ?」
ロボが心配そうに(金色の瞳で)少女を見た。
「ひいい」
「ご、ごめんなさいっ」
シャル殿の差し出した手を取ることもなく、逃げるように走り去った。
「な、なんだったんだ?」
「ガウ?」
シャル殿とロボが怪訝そうに首をかしげた。
少し離れたところだ。
「ふんっ、どこにいっていたのですか、……第八皇女」
ゆったりとした神官服を着た三十代の男性がえらそうに言った。
◆
胸には、青色と銀色の大小二つの丸の模様。
”ファーストビル教”の、”チキウと”、”トゥキ”をあらわすという紋章である。
主神は、”ワクセイカイハツコウシャ”。
罪を犯した人類は星の世界からこの地の堕とされた。
いずれ星の世界に帰り、失われた大地母神、”チキウ”を取りもどす旅に出るのが目的である。
ガンドーラ王国の時代から続く、ガンド帝国の主教でもあった。
◆
「いえ……」
グルグル眼鏡をつけた少女が小さな声で答える。
「誰かとぶつかりましたか、相変わらずどんくさい」
感じの悪い神官がぶつかったほうをみた。
「……おやあ」
シャル殿が金髪をターバンの中に隠しているのを見た。
「金色の亜人と獣人……ですか」
「けがわらしいあのもの達をつけなさい」
「はっ」
近くにいた部下が答えた。
「あの」
少女がやめて欲しそうに手を出した。
「何ですか」
「いえ、何でもありません」
少女がうつむいて答えた。
後に、ガンド帝国、”ナハト―ラ第八皇女”所有の潜砂艦がワイルダーキャラバンの後をつけていくことになる。
潜砂艦は黒く塗られていた。




