第32話、カスペン戦闘司祭。
大オアシス都市、”サマーンカーン”にあるガンド帝国の拠点の港。
建物に完全に隠された建物の中、黒い艦と白い艦が停泊している。
黒い艦は、ガンド帝国が開発した試作潜砂艦である。
白い砂上艦には青い丸と銀の丸。
艦体にファーストビル教の紋章が描かれている。
今黒い艦があわただしく出港の準備がされていた。
「はっ、よくあんなものに乗れるなっ」
忙しそうに動くクルーを見ながら、カスぺン司祭が言った。
司祭服を着たこぶとった体。
その胸には、チキウとトゥキの象徴。
「くっ」
クルーたちが苦々しくカスぺンを見る。
潜砂艦はまだまだ試作段階だ。
船全体に施された流動術式で何とか潜れるというレベルである。
そのため艦の大半はマナバッテリーが占める。
砂の中でバッテリーが尽きると生き埋めか砂のつぶされる(圧壊される)だろう。
遠く離れた砂漠までガンド帝国が来ている理由は一つ。
金色の虹彩を持つ世界樹の使徒を根絶やしにするためである。
使徒は、世界樹が直接人類を攻撃するために創られた存在だ。
(実際は切り倒されそうになった世界樹の防衛本能である)
「ワイルダーキャラバンには、使徒の疑いのあるものが二人いるようだな」
「獣人はこ〇し、女のエルフは連れてこい」
女のエルフは高く売れる上にお楽しみもある。
ちなみに亜人や獣人を人と見ていない帝国ではかなり悪趣味である。
「また高みの見物ですかい」
身長180センチくらいのがっしりした男性が言った。
艦長帽に黒い士官用の軍服。
「何か文句があるのかね、ドワイフ…くん」
潜砂艦の艦長であるドワイフは少佐。
超軍事国家である帝国の戦闘司祭のくらいは少佐より下だ。
が、
「ふん、まじりが」
小さくカスペンがつぶやく。
ドワイフは祖父がドワーフだ。
二十代で少佐になり艦長の優秀な軍人ではあるが、混血であるがゆえに砂漠に流されてきた。
「なんだとっ」
後ろで作業していたクルーが殺気立った。
約二十人ほどだ。
皆艦長と同じような境遇の者たちだ。
「ふんっ、やるのか」
カスペンの後ろに神官服を着たものが十名ほど並ぶ。
こちらは、不祥事や無能が理由で左遷されてきた集団だ。
「や、やめてください」
黒髪に紅い目の少女の小さな声。
黒髪、紅い目は皇族の証……だが。
「お飾りの皇女は黙っていてほしいですなっ」
カスペンだ。
ナハト―ラ第八皇女の母は平民のメイド。
生まれてすぐに行方不明になっている。
「何ですって」
金髪の侍女が皇女の前に。
少しとがった耳。
彼女はハーフエルフだ。
使徒の色持ちでハーフエルフ。
さぞや帝国で苦労しただろう。
彼女が尋常でない殺気を放つ。
「シャルーレ」
皇女が侍女を止めた。
「ふ、ふんっ、侍女とは名ばかりの戦闘奴隷がっ」
「行くぞっ」
侍女の殺気にびびった神官たちが逃げるように去っていった。
「こんな指揮官でごめんね」
ナハト―ラだ。
ガンドの皇族はすべて軍人で指揮官だ。
軍の功績で次の皇帝が決まる。
功績のあげようもない遠方の砂漠は大左遷なのだ。
「皇女……」
ドワイフやシャルーレ他潜砂艦のクルーが悔しいような悲しいような顔でうつむいた。




