第16話 でも、どちらかというならジョン・マクレーン
「見ないでくれる? たしかに私は魅力的だと思うけど」
「難しい注文だな…………努力はしてみるが」
テロリスト達を全て倒したオレは、高野美玲を拘束から解放すべく頑張っていた。テロリストの一人が持っていたナイフで結束バンドを切っているのだ。
なので、オレの目の前には女性の裸体がある状況で、なおかつその裸体から完全に目を逸らしては結束バンドを切れない状況でもある。いや、無理だ。見ないと高野美玲を怪我させてしまう。
「無理だな。バリバリ目に入る。すまん」
「羞恥無しであっさりと言われるのは屈辱だわ」
「気にするな。オレは元々こうだから」
「そう、ホモなのね」
「だよなー。そう思っちゃうよな。違うんだけど」
上等な結束バンドじゃなかったみたいで、思ったよりあっさり切れた。まあ、お楽しみしようとしてたヤツらの道具だから正規品じゃないんだろう。そもそも、多目的トイレで拘束な時点でエロエロ以外の目的が無さそうだし。そんな事に正規品使ってたら殺されるだろうし。
「あんたデカいな。オレが知る限り最強のおっぱいだ」
「今この場で何の益も無い情報を言う意味って何なのかしら」
拘束が解けた後、高野美玲は散乱している自分の衣服をすぐに拾った。下着やら上着やら速攻で着替え始め、着るまで十秒もかからない。
別に言われたワケじゃないが、オレはその着替えを見ないようにした。さっきまで裸体見てたから、何か違和感あるけど。
「あなた何者なの? こんな状況下で私の元へやって来るなんて」
高野はテロリスト達の装備を剥ぎ取りながら聞いてきた。ちなみに、オレはもう装備剥ぎ取り完了している。
オレはテロリストの持っていた武装のマシンピストルとハンドガンと、予備のマガジンをなるだけ奪い取っている。オレには情報流体生命金属があるが、それ以外の武器もあるに超したことはない。
相手に近寄ってパンチで一人ずつ倒す暇があるなら銃の方がお手軽だし、銃弾を防げるとはいえ、ダメージが蓄積すれば情報流体生命金属の盾は疲弊する。なので情報流体生命金属を使うのは、可能な限りここぞにとっておきたいのだ。
「須部原要。朝菱花子の部下。そんで他には――――――――――」
オレはここに至るまでの最低限の情報を高野美玲に言った。
「そう、君だったのね。朝菱先生から聞いてる。「お前と同じ学生の摩利支天がいる」って」
「え? お前と同じ?」
高野美玲が装備品を剥ぎ取り終わると、すぐにオレ達は多目的トイレから出る。そのまま地下への階段を目指した。
「高野さんって高一な女子だったのか」
「十七よ。須部原君の一つ上」
柊華姉ちゃんと同じだったのか。まあ、歳は近いと思ってたけど。
「あと、私の名前は霧灘文香。高野美玲は偽名よ。呼ぶなら霧灘でお願い」
護衛はスパイのような側面もあるので、本名を言うメリットはない。むしろ隠せるなら隠すべきで、組織の同業者であってもそれは同じだ。
つまり、本名を明かしてくれたのは助けたオレに対する礼のようなモノだろう。信頼の証という意味もあるかもしれない。
霧灘文香。あまり表情が変わらないし、無機質っぽい声が目立つが、中身は義理人情の厚い人物のようだった。
「ここね。行くわよ須部原君」
地下への階段はすぐに見つかった。オレと霧灘はそのまま地下駐車場まで駆け抜けていく。
ここまでテロリスト達の姿はない。地下駐車場で無駄に戦力を裂かず司令部周辺を固めているのかもしれない。
――――――――いや、もしかして地下に基地は無いのか?
オレの予想は全くのハズレで、思いもよらない所を司令部にしているとか?
相手は臥厳。朝菱先生が言うにあらゆる悪事をしてきた悪党だ。そんな悪党なら、オレなんかの思考は全て予想してるんじゃないだろうか。
――――――――トイレでオレを見つけたテロリストの言ってた事がひっかかる。
ヤツはたしかこういっていた。
本当に時間ピッタリにいやがった、と。
「…………あれね。トレーラー周辺に五人。あのトレーラーが本拠地だと言わんばかりの配置だわ」
地下駐車場まで何ら問題なく辿り着き、そこの中央へ留まっているトレーラーを見つけた。トラクターに牽引され、トレーラーの背後をこちらに向けている。
そのトレーラーはテロリスト達に守られている。どうみてもアレが司令部だった。
「……………………」
「どうしたの須部原君? 何か気になるの?」
司令部を見つけたのに何も反応しないオレへ、霧灘は不審気な顔を向けた。
「柊華姉ちゃんの事が気になるんだ。オレ達の行動を知らないワケないよなって」
コチラの行動を全て柊華姉ちゃんが予知している可能性は高い。そう考えればテロリストの言っていた事が腑に落ちる。
予知のノヴァラージュである柊華姉ちゃんが協力しているなら、オレ達の行動など完全にお見通しのはずだ。予知の通り行動するのだから簡単に捕捉できる。
「私達の動きは完全にバレていると?」
「ああ。でもそれだとおかしいんだ。予知できているなら、行動する前にオレ達を捕まえるなり殺すなりすればいいんだからな」
だが、予知前提で考えるとそこが納得できない。
オレと霧灘は臥厳の敵だ。生かす理由が全くない。行動が筒抜けなら、そもそも行動させないはずなのだ。
事実、オレのせいでテロリスト達がやられている。自分の兵がやられて良い事なんか一つもない。武器も奪われているし、これでは敵に塩をやったに等しいはずだ。
そもそも、オレを見つけるにしてもどうして多目的トイレの前だったのだろう。
予知できているなら中央ホールでオレを捕まえればいい。オレが摩利支天であるのもバレているはずだし、あんな場所で見つける必要がない。中央ホールでそのまま射殺していいくらいだ。
「どうするの? このまま静観するワケにもいかないけど」
なのに臥厳はそれをしなかった。多目的トイレの前までオレに銃口をつきつけなかった。殺さず捕まえようとした。スマホだって壊さなかった。霧灘だって同じだ。まあ、こっちはお楽しみをしたくて生かした可能性があるが。
「一見じゃ罠に見えないわね。あの司令部(HQ)が罠なら五人も配置するのはやりすぎだし、罠だとあの五人は無駄死に係よ。そんな自爆要員があんなにいるなんて思えない」
予知のノヴァラージュがいるのに、臥厳はオレ達を殺せず捕まえず、それどころか手駒のテロリスト達を倒されてしまい、オレと霧灘が地下駐車場に来るまでの行動を許している。
どういう事なのだろう。予知のノヴァラージュの手の平で転がされてどうしようもないはずなのに。柊華姉ちゃんが敵にいるのに、そんな感じがしない。
オレはこの違和感を考え込んでしまい――――――――――周囲への注意を疎かにしてしまった。
「ッ!? 須部原君!」
オレ達が降りて来た階段からテロリストが一人下りてきて、こちらに銃口を向けていたのだ。
それに気がついた霧灘はテロリストよりも先に発砲し、倒す事に成功する。
「助かった…………ありがとう霧灘」
「来るわよ! 構えて須部原君!」
当然、その発砲音でトレーラーを守っていた六人が一斉にこちらへ注意を向ける。
激しい銃撃戦が始まった。
「背後を注意して! また来るかもしれないわ!」
そう言いながら霧灘は応戦する。敵の人数が多いため、あまり弾幕を晴れないが、膠着状態にするには充分だ。
激しい銃撃音が鳴り響き、互いに一歩も引かない。
「さっきのテロリスト何なんだよ。オレ達をつけてたのか? 全く気づかなかったぞ」
「さあね。はっきりしてるのは、私達を尾行しても何の得にもならないって事。さっさと撃つなりした方がいいわ。私達は邪魔者なんだから」
「じゃあ、さっきのはたまたまか? オレの助かったタイミングがバッチリだったから、なんか気になるんだよな…………」
だが、これ以上考えてもしょうがない。出ない答えを永遠探すだけだ。
オレは左腕を盾に変化させると、トレーラーへ突撃した。
人数も弾薬も敵の方が勝っている。このまま互いが応戦し続ければ、オレ達が何もできなくなるのは時間の問題だ。ジリ貧してしまう。
情報流体生命金属とはいえ、銃で武装した六人を相手にするのはかなりリスクがある。だが、無茶でもここはやるしかない。
「ぐッ!」
一気に何十発もの弾が盾に命中し、立ちくらみで足がよろめいた。
情報流体生命金属は決して無敵の盾ではない。モロに銃弾を受け止めれば無理がやってくる。この立ちくらみに屈せば盾が即解除され、銃弾がオレを蜂の巣にするだろう。
早々に決着をつけなくてはならない。
「だあああああああああッ」
まさか向かってくると思ってなかったようだ。
オレの突撃に対して狼狽えたテロリスト全員がオレに向けて発砲する。その瞬間、狙われなくなった霧灘が素早く五人を銃撃した。冷静で正確な射撃だった。
「どうにか始末できたか…………つか、アイツ射撃うまいな…………」
霧灘のおかげで決着は一瞬だった。オレが銃口を向けている一人を残して、テロリスト達は全て倒した。
霧灘の射撃がなかったらもっと時間がかかっていただろう。少人数だと時間がかかる程不利になってしまうので、霧灘がいてよかったと素直に思った。
「信じられないモノ見たって顔だな。オレに狼狽してるのが伝わってきたぞ」
オレは盾を解除して、生き残っている最後の一人に銃口を向ける。
コイツを殺せばトレーラーを守っていたテロリストは全滅だ。この中にいるだろう、臥厳を倒し、椿を救わなければならない。
オレは銃の引き金に手をかける。
その時だった。
「――――――何?」
すぐ隣にあるトレーラーの扉が突然開き、オレは思わず声を上げた。
そして、そこにある最悪を確認する。
「…………マジかよ」
傍にやって来た霧灘も開いたトレーラーの中を見た。オレが殺そうとしたテロリストもだ。テロリストの表情が青ざめているのを見るに、トレーラーの中身は知らなかったようだ。
だが、そんなのは当たり前だ。
もし、この中身を知っているなら地下駐車場でコレの門番なんかするワケがない。
「まわりくどすぎるだろ…………」
トレーラーが開いた時、まず聞こえたのは、ワザとらしく響く規則正しいタイマー音。
その時限爆弾のタイマーは残り五秒を示していた。
当然、四秒、三秒、二秒と数字は減っていく。
「霧灘ッ!」
タイマーの数字が残り一秒ではこの場から動く暇すらなく、爆発がオレ達を襲った。




