第五話:似た者同士のウエディング
第五話:似た者同士のウエディング(仮)
「取り敢えず、服着ましょうね」
僕はクローゼットから引っ張り出してきた、一番サイズが小さめの白いTシャツとスウェットパンツをローズさんに手渡した。
毛布の蓑虫からモゾモゾと抜け出したローズさんは、首の通し方に苦戦しながらも、なんとかそれを身に纏う。
ぶかぶかのTシャツから華奢な鎖骨が覗き、裾は彼女の太もものあたりまで隠している。……正直、聖衣を着ている時より健全なはずなのに、別の意味で目のやり場に困る。
「うふふ、トオル様の匂いがしますわ。これが現代の『るーむうぇあ』ですのね!」
「あ、あんまり嗅がないで……。それより、座って。大事な話があるんだ」
僕はパイプ椅子を勧め、自分はベッドの端に腰掛けた。
「ローズさん。君は……その、辛い物を口にすると、人格が変わるみたいなんだ。自分の記憶にもあるかい?」
僕が真剣なトーンで尋ねると、ローズさんは人差し指を顎に当てて「うーん」と首を傾げた。
「言われてみれば……神殿で暮らしていた頃、たまに厨房に忍び込んで、遠い南国から献上された『魔烈椒』という赤い果実をかじった記憶がありますわ。その後の記憶はいつも曖昧なのですが、目が覚めると、何故か周囲の神官様たちが涙目でブルブルと震えておられましたの」
「それだ……! 間違いない、それが現代の激辛だよ……」
やっぱり自覚はなかったんだ。あのお淑やかな聖女様が、デスソース一口で爆音オーラのオネエ姐御に豹変する。現代には激辛料理なんていくらでもある。僕がしっかりと飴玉で手綱を握っておかなければ、いつかこの街が灰にされてしまう。
「でも」
ローズさんが、じっと僕の眼鏡の奥を覗き込んできた。
「トオル様も、眼鏡を外すと……凄く、その、猛々(たけ々)しい殿方になられますわよね?」
「そ、そうだねっ……」
僕は気まずくなって、牛乳瓶の底のような眼鏡のフレームを指で押し上げた。
「僕のは……昔からなんだ。この眼鏡を外して視界が真っ白になると、頭のネジが外れるっていうか、僕の中にいる別の僕が暴れ出しちゃうんだよ。だから、普段は絶対に外さないようにしてるんだ。……昨日みたいに、殴られて飛ばされない限りはね」
「まぁ……」
ローズさんは感心したように小さな手を打った。
「お互いに、特定の条件で別の姿が現れてしまう……。ふふっ、私達、似た者同士かもっ……!」
嬉しそうに微笑むローズさん。
異世界から一人でやってきて、誰にも言えない秘密を抱えていた彼女にとって、僕の「眼鏡の秘密」は、奇妙な親近感を与えたのかもしれない。僕だって、自分の異常性をこんな風に受け入れてもらえるなんて思ってもみなかった。
少しだけ、部屋の中にあたたかい空気が流れる。
似た者同士。うん、いい響きだな、なんて僕がちょっと内心照れていた、その時だった。
「じゃあ、私達けっこんしちゃいますかっ?」
「ぶっっっ!!!!」
僕は盛大に自分の唾を吹き出しそうになった。
「け、けけけ、結婚!?」
「はい! 私の故郷の童話でも、同じ呪いを持つ者同士が結ばれて幸せになるお話がありますわ! それに、私を独りで置いていけないと言って、学校をお休みしてまで守ってくださるトオル様は、もう私の旦那様も同然です!」
ローズさんは満面の笑みで、一歩、また一歩とベッドの僕ににじり寄ってくる。
ぶかぶかの僕のTシャツを揺らしながら。
「ちょっと待って! 距離が近い! あと現代の結婚は段階ってものがあるから! まずは同居っていうか、保護だからぁぁぁ!!」
僕の叫び声に、ローズさんは「えぇ〜?」と不満そうに頬を膨らませるのだった。
(第五話・了)




