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第四話:内気真面目の不登校宣言

第四話:内気真面目の不登校宣言

毛布をぐるぐる巻きにされ、蓑虫みのむしのようになったローズさんは、「ふぇ? なぜ怒るのですか?」と首を傾げている。

いや、怒っているんじゃない。僕の理性のリミッターがさっきから悲鳴を上げているんだ。

「剛! 咲っ……! ぼ、僕を信じて下さいよっ……!」

僕は涙目で、二人に両手を合わせて懇願した。

「ホントにローズさんは異世界から来たんですってばっ……! ねっ! ねっ……? ローズさんっ……!」

「はい! 私はトオル様の言う通り、扉の向こうのセカイから来ましたわ!」

「だからぁ……! 言うのはいいから服着てくださいってばっ! 眼のやり場がっ……!」

毛布の隙間からチラチラと覗く白磁の肩や脚に、僕は眼鏡の位置を直すフリをして必死に視線を逸らす。

そんな僕たちの必死(?)なやり取りを、咲はジト目のまま腕を組んで見下ろし、剛は未だに「異世界ハーレムかよ、最高だな」と言わんばかりのニヤケ面を崩さない。

「はぁ……。透、あんた本気で言ってるの? 異世界なんて、そんな子供騙しの嘘で誤魔化せると思って――」

「咲、剛」

僕は、二人の言葉を遮った。

いつもなら、二人の顔色を伺ってすぐに口を閉じてしまう僕が、静かに、だけど固い決意を込めて言葉を紡ぐ。

「と、とにかく……僕は今日は学校には行きません」

「……え?」

咲が呆気に取られたように声を漏らす。

あの、出席日数のためだけに毎日真面目に通学し、風邪を引いても休まなかった清水透が、まさかの「自主休校」宣言。

「彼女を、独りで置いていけないからっ……」

ローズさんはこの世界のことを何も知らない。お金の価値も、スマート端末の使い方も、服の着方すら怪しい。

そんな彼女を、この狭いアパートに一人きりで残して学校になんて行けるわけがない。もしまた、昨日みたいな悪い奴らに見つかったら。もし、お腹が空いてまた『激辛』のものを食べて暴走してしまったら――。

僕がそう言うと、ローズさんは毛布にくるまったまま、じっと僕の顔を見つめた。

その青い瞳に、ほんの少しだけ、温かい光が灯ったような気がした。

「透……あんた、本気なの?」

咲が、怒りを通り越して心配そうな声を出す。

「うん……。ごめん、咲。今日のノート、後で、見せて、もらえると……嬉しい、です……」

急にいつもの気弱な声に戻る僕。

そんな僕の様子をじっと見ていた剛が、ふっとニヤケ面を消し、落ちていたサッカーボールを今度こそしっかりと脇に抱えた。

「……チッ、しゃあねえな」

剛は大きくため息をつくと、咲の肩をぽんと叩いた。

「おい咲、行くぞ。これ以上は時間の無駄だ。遅刻しちまう」

「ちょっと剛!? 透をこのままにしていくの!?」

「いいんだよ。こいつがここまで頑固な時は、何言っても聞かねえからな。ほら、行くぞ!」

剛は、僕にだけ見えるように、眼鏡の奥の僕の目をじっと見据えて、ニカッと不敵な笑みを浮かべた。

(――おい透、あとでガッツリ説明してもらうからな)

その目が、そう語っていた。剛は僕の「オラオラ系」の秘密を知っている。だからこそ、僕が何か普通じゃない事態に巻き込まれていることを、察してくれたのだ。

「ちょっと剛、引っ張らないでよ! 透、今日の放課後、絶対また来るからね!!」

咲の叫び声と共に、バタンとドアが閉まる。

嵐のような二人が去り、アパートには、僕と、毛布にくるまったローズさんの二人だけが残された。

僕はドッと疲労が押し寄せ、その場にへたり込んだ。

「あ、あの……トオル様?」

「……とりあえず、ローズさん。僕のTシャツ貸すから、それ着て。話はそれからだ……」

僕の、絶対に平穏ではない「お休みの日」が、こうして始まった。

(第四話・了)

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