表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

第六話:裾を摘まむ聖女様と、初めてのコンビニ

第六話:裾を摘まむ聖女様と、初めてのコンビニ

「トオル様っ……。私っ、甘い物が食べたいわっ!」

「けっこん」の二文字に赤面してフリーズしていた僕の前に、ローズさんがぐいっと顔を近づけてきた。その青い瞳は、まるで夜空の星を閉じ込めたみたいにキラキラと輝いている。

「昨日、あの『こんびに』という名のガラスの神殿で、目の前にたくさんの『ぷりん』や『しゅーくりーむ』がありましたのに……。お金がなくて、店員さんに冷たく追い返されてしまったのが、悔しくて、虚しくて……うぅ、思い出すだけで涙が出そうですわ……」

ローズさんは大袈裟に胸元を押さえ、悲劇のヒロインのようにおねだりを再開した。

けれど、その必死な様子がなんだか可笑しくて、僕の緊張もすっかり解けてしまった。

考えてみれば、彼女を大人しくさせるための最重要アイテム『飴玉』も切らしている。買い出しに行くには丁度いいタイミングだ。

「はいはいっ……じゃぁ! 一緒に行って買ってこようよ。僕のお小遣いの範囲でなら、何個か買ってあげられるから」

「本当ですか!? やったぁ! トオル様、大好きですわ!」

ローズさんは子供のように飛び跳ねて喜んだ。僕のぶかぶかのTシャツがひらひらと揺れる。

僕たちは身支度を整え(といってもローズさんは僕の部屋着のままだが)、近くのコンビニに向けて歩き出した。

真昼の住宅街。太陽の光が少し眩しい。

ふと、右側の脇腹あたりに、わずかな重みを感じた。

「……あ、あの、ローズさん?」

見下ろすと、ローズさんが僕の一歩後ろを歩きながら、小さな指先で僕のシャツの裾をちょこんと摘まんでいた。

「あ、あの……ごめんなさい。現代の街は、馬車はいませんが、鉄の塊(車)が物凄い速さで走っていて……少し、怖くて。こうしてトオル様に掴まっていれば、迷子にならないかと思いまして……」

ローズさんは少し頬を染めながら、上目遣いで僕を見た。

金色の髪が風に揺れ、僕のTシャツの袖から伸びる白い腕が、やけに眩しく見える。

「う、うん。危ないから、離さないでね……」

僕は前を向いたまま、牛乳瓶の底のような眼鏡のフレームを慌てて押し上げた。顔がカッと熱くなるのが自分でも分かる。

ただの買い出しのはずなのに、これじゃまるで、手を繋ぐのが恥ずかしい初々しいカップルのデートみたいじゃないか。

「見てくださいトオル様! あの自動で開く魔法の扉ですわ!」

「あ、あれは自動ドアって言ってね、魔力じゃなくてセンサーで動いてるんだよ……」

そんな僕の内心のドタバタなど露知らず、ローズさんはコンビニの入り口が見えただけで「おぉ〜!」と声を上げて感動している。

ついに辿り着いた、ローズさんにとっての約束の地。

そこで待つ『ぷりん』との感動の対面、そして――この平和なお買い物に、少しずつ忍び寄る「現代の裏側」の影。

僕たちの奇妙な日常は、ここからさらに加速していく。

(第六話・了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ