第59話 プールをもう一つ作る羽目になったし、水着というものを作らせた件
翌朝、ヘンドリックが執務室に入ってきた。
「閣下、昨日作っていただいたプールなのですが」
「何だ」
「一般開放してもよいでしょうか。民衆からの問い合わせが殺到しておりまして」
俺は少し考えた。
(あそこは公爵専用エリアだ)
(風呂場の隣だ)
(一般開放したら……)
「……無理だ」
「でございますよね」
「別のところにもう一つ作る」
「もう一つ、でございますか」
「そうだ」
ため息をついた。
(なんで俺はプールを二つ作っているんだ)
(全部ポチのせいだ)
俺はポチを見た。
「ポチ、お前のせいだ」
「わふっ」
「反省しろ」
「わふわふっ」
全く反省していなかった。
するとミケが「にゃ~」と寄ってきた。
ぴょんが飛んできた。
ハムが走ってきた。
ワタが三匹ふわふわと集まってきた。
全員が「かまって」とばかりにコルネリスに群がってきた。
「……待て」
「わふっ」
「にゃ~」
「ぴょんっ」
「ちゅ~」
もみくちゃにされた。
「お前ら……反省しろと言ったら集まってくるのか」
「わふわふっ」
「にゃ~にゃ~」
エルナが「もみもみ!!」と飛び込んできた。
「お前まで」
イレーネが「まあ、可愛いですわ。チュッ」
「だから突然するな」
「ふにゃ……」
ヘンドリックが「閣下、もう少し落ち着いた状況でご指示いただけると……」と苦笑いした。
「これが俺の日常だ。慣れろ」
「……かしこまりました」
もみくちゃにされながら、俺は魔力を指先に集めた。
「レベル1・クラフト魔法」
王城の広場の隣に、馬鹿でかいプールが出現した。
浅い区画と深い区画を分けた。
男女別の脱衣所も作った。
風呂とプールの仕切り壁もついでに設置した。
水温を一定に保つ循環機構も組み込んだ。
「できた」
ヘンドリックが「閣下……一瞬で……」と震える声で言った。
「ついでだ」
「かしこまりました……」
(なんで俺はプールを二つ作っているんだ)
(全部ポチのせいだ)
「わふっ」
ポチが尻尾をぶんぶんと振った。
(まあ……いい)
「閣下」
ヘンドリックが恐る恐る聞いてきた。
「何だ」
「あのプール……裸で入るのでしょうか」
俺は固まった。
もみくちゃにされながら固まった。
(そういえば考えていなかった)
(いや待て)
(裸で入るわけがない)
「当たり前だろう。水着に決まっている」
「水着……でございますか」
「そうだ」
「この世界には水着という文化が……」
「ないなら作れ」
「誰が作るのでしょうか」
「高レベルのやつらに任せろ。そういうの得意だろう。繊細な仕事は高レベルの魔法使いに任せろ」
「高レベルの魔法使いに水着を……」
「任せた」
「……かしこまりました」
ヘンドリックが苦笑いしながら退室した。
(水着文化を作ることになってしまった)
(面倒くさい)
(でも必要だ)
(ポチのせいだ)
「わふっ」
「……反省しろ」
「わふわふっ」
「全く反省していないな」
エルナが「ポチはいいこだもん!」と抱きしめた。
「……そうだな」
数日後、水着が完成した。
高レベルの魔法使いたちが全力で作り上げた逸品だった。
魔法で耐久性抜群。速乾性あり。動きやすい。シロの繊維を使用していて肌触りが良い。しかもおしゃれだった。
「閣下、完成しました」とヘンドリックが満面の笑みで持ってきた。
「そうか」
「女性用・男性用・子供用と三種類用意しております」
「よくやった」
「それと閣下……奥方様に試着していただけますか。サイズ感の確認を」
「……イレーネ」
「はいですわ」
しばらくして、イレーネが水着姿で出てきた。
俺は固まった。
(……)
(まずい)
(これは)
(一般開放したら大変なことになる)
「……似合っているな」
「まあ! 旦那様! ふにゃ……っ!!」
「でも」
「はい?」
「他の男に見せたくない」
「ふにゃふにゃ……っ!! 旦那様……そんなことを……ふにゃっ!!」
イレーネが限界突破した。
エルナが「エルナもきる!!」と飛んできた。
ファンクラブの令嬢たちが「水着!!」と大騒ぎになった。
ヘンドリックが「閣下、水着の需要が爆発しております。シロの繊維との組み合わせで新たな産業が……」と目を輝かせた。
「任せる」
「かしこまりました!!」
コルネリスは遠い目をした。
(ポチが湯船に入ったせいで)
(プールが二つできて)
(水着文化が生まれた)
(面倒くさい因果関係だ)
「わふっ」
ポチが尻尾をぶんぶんと振った。
「……お前のせいだ」
「わふわふっ」
「全く反省していないな」
「わふっ」
(まあ)
(悪くない)
後方支援兵コルネリスの苦難は、まだまだ続く。
しかし今日は、水着文化が生まれた日として、大陸の歴史に刻まれることになるとは、この時の俺には知る由もなかった。




