表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/50

第40話 移動要塞で帝都に突撃したら、思ったより深刻だった

 出発から二日。

 連結した移動式住宅が、巨大な移動要塞となって帝国領を爆走していた。

 六棟を横に連結し、さらに上に二棟を重ねた八棟構成。クラフト部隊が土魔法と風魔法を交互に使い、舗装された道を最大速度で突き進んでいる。

「閣下、前方に異常あり!」

 哨戒役の部隊員が叫んだ。

 道の両脇の木々が、根元から黒く変色している。葉が枯れ、幹が腐ったように崩れている。

「黒い変色がここまで広がっているか……思ったより早い」

「閣下、帝都まであと半日の距離ですが……この速度だと」

「間に合うかどうかわからない、ということか」

「はっ」

 俺は少し考えてから通信魔道具を手に取った。

「フロリアン、ドラゴン部隊の状況は」

『今のところ異常なし。でも義兄上、空の様子がおかしい。黒い霧が低く垂れ込めていて……ドラゴンたちが嫌がっています』

「高度が取れないか」

『かなり厳しい状況です。このままだと帝都上空での運用が難しくなるかもしれません』

 俺は舌打ちをした。

(空からの支援が使えなくなる。予想より遥かに深刻だ)

 その時、黒い目をした魔物の群れが、道の両脇から一斉に飛び出してきた。

「総員、迎撃!」

 バチバチバチバチッ!!

 ワタたちが蓄えていた雷撃を一斉に解放した。

 六匹分の雷が、魔物の群れを薙ぎ払う。凄まじい光が辺りを照らし、魔物たちが次々と黒い霧を吐き出しながら崩れていく。

「おおっ! ワタ様が!」

「突破しろ! 速度を落とすな!」

 移動要塞が魔物の群れを文字通り蹴散らしながら突き進んだ。


 帝都の外壁が見えた時、俺は思わず黙った。

 帝都が、黒い霧に包まれていた。

 外壁の半分が黒く変色し、崩れかけている。上空は分厚い黒雲で覆われていて、陽の光が差し込んでいない。

「……これは」

「想像以上です、閣下」

 ヘンドリックが青ざめた顔で言った。

「北の遺跡から始まった変色が、帝都まで到達している。しかも拡大速度が加速している」

 その時、フロリアンから緊急の通信が入った。

『義兄上、まずい! ドラゴンたちが黒い霧に引き込まれそうになっています! 高度が……!』

「フロリアン、ドラゴンを地上に降ろせ!」

『でも空中支援が!』

「いいから降ろせ! 今すぐだ!」

『……かしこまりました!』

 通信が切れた瞬間、俺はクラフト部隊長のトールに向かって叫んだ。

「トール! ドラゴンが降りてくる! 着地点を確保しろ!」

「どこにですか閣下!?」

「帝都の外壁前だ! そのまま壁として使う!」

「……壁として?」

「ドラゴンを横並びに着地させて、そのまま外壁の穴を塞ぐ盾にする。その後ろから移動式住宅を並べて補填する。外壁の代わりにしろ」

 トールが一瞬固まったが、すぐに目を輝かせた。

「やります!!」


 フロリアンのドラゴン部隊が一斉に降下してきた。

 黒い霧の中を、ドラゴンたちが翼をたたんで急降下する。

 ズガアアアアアアンッ!!

 十数頭のドラゴンが、帝都外壁の崩れた箇所の前に横一列で着地した。巨大な体が、そのまま生きた壁として機能し始める。

「よし! 移動式住宅を後ろから並べろ! 連結して補填する!」

 クラフト部隊が動いた。

 移動式住宅を次々と展開し、ドラゴンの背後に並べて連結していく。ガチャリ、ガチャリと壁が引き出され、屋根がせり上がり、あっという間に強固な防壁が完成していく。

「閣下、防壁完成しました!」

「黒い霧の侵食を抑えられているか」

「はっ! ドラゴンが霧を跳ね返しています! 移動式住宅の魔力強化と合わさって、侵食が止まっています!」

「よし。このまま維持しろ。クラフト部隊は防壁の強化を続けろ」

「ははっ!」

 フロリアンが降りてきた。ドラゴンから飛び降り、俺の隣に立つ。

「義兄上、これは……」

「間に合った。それだけだ」

「ドラゴンを壁に使うとは思いませんでした」

「空が使えないなら地上で使う。それだけだ」

 フロリアンが苦笑いしながら頷いた。


 カールの別邸は帝都の東端にあった。

「閣下……来てくれましたか」

 カールが玄関から飛び出してきた。顔が疲労で憔悴している。しかし目は正常だ。

「無事か」

「俺は大丈夫です。でも帝都の大半の兵士が……黒い目になっています。ヴィルヘルムは王城に」

「案内しろ」

「俺も行きます」

「動けるか」

「義弟のことです。行かせてください」

 カールの目が真剣だった。

「……わかった。来い」


 王城への道は、黒い霧が濃かった。

 黒い目になった兵士たちが行く手を塞ごうとしたが、ワタたちが蓄えた雷撃でその都度蹴散らした。

「ワタたちの動きが……さっきより速いですね」

 カールが呟いた。

「ああ。近づくほど、やる気が増しているようだ」

「まるで、ここに来るために生まれてきたみたいですね」

(そうかもしれない)

 王城の正門に着いた時、俺は足を止めた。

 正門が黒い霧で完全に覆われている。普通に入れる状態ではない。

「クラフト部隊、壁を作れ。霧を押し返す」

「はっ! 『レベル1・土壁』!」

 クラフト部隊が一斉に魔力を解放し、巨大な土の壁で霧を押し返した。霧がじわじわと後退していく。

「今のうちに入れ」

「はっ!」

 俺たちは正門を突破し、王城の中庭へと踏み込んだ。

 中庭の中央に、ヴィルヘルムが立っていた。

 全身を黒い霧に包まれ、両目が完全に黒く染まっている。しかしどこかで、本人がまだ中にいる気配がした。

「ヴィルヘルム!」

 カールが叫んだ。

 黒く染まった目が、こちらを向いた。

「……ぁ……にい……さ……ま」

 かすかに、声が聞こえた。

「まだいるな」

 俺は呟いた。

「閣下、どうされますか」

「ワタに任せる」

 その瞬間、六匹のワタが全員、ヴィルヘルムを取り囲むように動いた。

 金色の瞳が輝いている。

 そして六匹が三匹に融合した。

 三匹が一匹に融合した。

 最後の一匹が、巨大化した。

 ふわふわとした白い毛が光を帯び、金色の瞳が太陽のように輝いている。

「……これが」

 カールが息を飲んだ。

「本来の姿か」

 巨大化したワタが、黒い霧の中心を見つめた。

 そしてコルネリスを一度だけ振り返った。

 金色の瞳が語りかけてくる。

(任せろ、ということか)

「……わかった。頼む」

 ワタが頷いた。

 そして次の瞬間、誰も止める間もなく、ワタは黒い霧の最も濃い場所へと、猛速度で飛び込んでいった。

「待て……!」

 俺の声は届かなかった。

 黒い霧が激しく揺れた。

 内側から、金色の光が弾けた。

 バチバチバチバチッ!!

 蓄えていた全ての雷撃が、一気に解放された。

 光が、霧を内側から焼いていく。

「うわっ!?」

「目を閉じろ!」

 凄まじい閃光が王城全体を包んだ。

 そして……静寂が訪れた。

 黒い霧が、薄れていった。

 ヴィルヘルムが、その場に崩れ落ちた。目の黒が、じわじわと薄れていく。

「ヴィルヘルム!」

 カールが駆け寄った。

「……にい……さま」

「馬鹿野郎が……! よかった、生きてるじゃないか……!」

 カールが弟の肩を掴んで、涙をこぼした。

 俺はその光景を眺めながら、霧が晴れた空を見上げた。

 ワタが、消えていた。

 黒い霧が漂っていた場所に、小さな光の粒が一つ、静かに漂っていた。

「……ワタ」

 俺は手を伸ばした。

 光が、俺の手のひらに降りてきた。

 温かかった。

 かすかに、震えていた。

「……生きているな」

 光が、小さく揺れた。

「よくやった」

 光がまた、小さく揺れた。

 ヘンドリックが隣に来て、静かに言った。

「……閣下、帰りましょう」

「ああ」

 俺は手のひらの上の小さな光を、そっと胸元に抱えた。

(早く帰って寝たい)

(でも今だけは……お前を抱いて帰る)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ