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第4話 剣を返却しようとしたら、四日連続で登城させられた

 停戦成立から翌日。俺はウィレム王国の王城、謁見の間に立たされていた。

「大儀であった! 雷将ヴォルフを単独で討ち取った功績、誠に見事! 貴殿に男爵の位を授ける!」

 レオナルト陛下が高らかに宣言した。

(男爵……まあ、後方支援兵が貴族になるだけでも十分すぎるくらい異常だが)

「ははっ。ありがたき幸せにございます」

 俺は頭を下げながら、内心でほっと息をついた。

(これでようやく終わりだ。男爵位と多少の褒賞金をもらって、あとは後方支援部隊に戻るだけだ。早く帰って寝たい)

 ところが。

 翌朝、また登城の命が来た。

「大儀であった! 壊滅した前線を立て直し、部隊を再編した功績、誠に見事! 貴殿に子爵の位を授ける!」

(あれ?)

「ははっ。ありがたき幸せにございます」

(昨日と同じ流れだ。まあいい、子爵になったところで後方支援に戻るだけだ)

 ところが。

 さらに翌朝、また登城の命が来た。

「大儀であった! 敵兵および高級士官を多数討伐し、敵軍の指揮系統を壊滅させた功績、誠に見事! 貴殿に伯爵の位を授ける!」

(……また来た)

「ははっ。ありがたき幸せにございます」

(伯爵か。これで本当に終わりだろう。いい加減後方に……)

 ところが。

 さらにその翌朝、また登城の命が来た。

「大儀であった! 国境まで敵を押し返し、停戦を実現した功績、誠に見事! 貴殿に侯爵の位を授ける!」

(……四日連続かよ)

「ははっ。ありがたき……って、待ってください陛下」

 俺は頭を上げた。さすがにおかしい。功績を一日一つずつ小出しにして、毎日叙爵する必要がどこにあるんだ。

「陛下、率直にお聞きしてもよろしいでしょうか。なぜ一日目にまとめて授けていただかなかったのですか」

 レオナルト陛下が、ニヤリと笑った。

「うむ。実はな、王族の姫を降嫁させるには、相手が侯爵位以上でなければならぬという決まりがあってな」

「……は?」

「一日目に男爵位を授けた時点では、貴殿はまだ姫を娶る資格がなかった。だから翌日また呼んだわけだ」

(最初から侯爵にすればよかっただろうが!)

「つきましては! 今回の絶大なる功績を称え、貴殿に我が愛娘イレーネを下賜しよう……と言う前に、余には白状せねばならぬことがある」

 陛下が急に玉座から身を乗り出し、頭を抱えるようにして叫んだ。

「よいかコルネリス。余はもう限界なのだ……!」

(……え? 急にどうした)

「娘のイレーネは、あの誰の手にも負えん暴言と態度で、国内の有力な婚約者候補をことごとくぶち壊しおった! そしてあろうことか、王太子である息子のフロリアンは数年前、『窮屈な城は嫌だ、俺は吟遊詩人になる』というふざけた書き置きを残して出奔し、今もどこかでフラフラと行方知れずだ! 我がウィレム王家はもうボロボロなのだぞ!」

(……王家の家庭崩壊の事情なんか知るか。なんで俺に愚痴っているんだ)

 俺は喉まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。下手に口答えして不敬罪で首をはねられたらたまらない。

 その時、玉座の隣に静かに座っていたマルガリータ王妃が、口を開いた。

「……陛下。みっともないですわよ」

 氷を削ったような声だった。

 レオナルト陛下が、瞬時に背筋を伸ばした。

「い、いやその、何でもない……余はただ、状況を説明していただけで……」

「黙っていてくださいな」

「……はい」

 陛下が縮こまった。

(うわ……)

 俺は内心で引いていた。

 これが噂に聞く氷の王妃、マルガリータ様か。確かに目が怖い。あれほど堂々としていた陛下が、一言で萎縮するとは。

 しかしよく見ると、王妃様の視線が陛下から俺に移った瞬間、その目がわずかに……本当にわずかに、何かを訴えるように揺れた気がした。

(……気のせいか)

 王妃様はすぐに無表情に戻り、正面を向いた。

(まあ、俺の知ったことじゃない。とにかく早く帰って寝たい)

「そこでだ、雷将を討ち取った王国最高の英雄であるそなたに、このボロボロの王家を支えてもらうため、イレーネを降嫁させることにした!」

「……はあ!?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げていた。

「うむ! 最強の武力を持つ貴殿と、最高の頭脳を持つ娘。まさに国を背負って立つにふさわしい夫婦となるであろう! はっはっは!」

 謁見の間が割れんばかりの拍手に包まれる。俺は完全に退路を断たれてしまった。

(いや、ちょっと待って。なんで陛下、そんな優秀なお姫様を、どこの馬の骨ともわからない俺に押し付けるみたいにニヤニヤしてるんだ……?)

 その嫌な予感が完璧に的中していたことを、俺はこの直後、お姫様本人と顔を合わせた瞬間に思い知ることになる。

「ふざけるなクソジジイ! なんでわたくしが、こんな小汚くて貧相なチビ男に嫁がなきゃならないんだ! 近寄るな! 息をするな、この童貞野郎!」

「ええい、王族に向かってなんという口の利き方か! お前のようなじゃじゃ馬、侯爵殿に引き取ってもらうだけでもありがたいと思え!」

 怒鳴り合うレオナルト陛下とイレーネ姫。その間で俺は(うわあ、とんでもない地雷物件を押し付けられた……早く帰って寝たい)と死んだ魚のような目をしていた。

 なお、ドンデルを国庫に献上しようとした結果、触れた近衛騎士が次々と白目を剥いて倒れたため、「平然と使いこなせる者のみが所持を許される呪剣」として正式に俺の所有物になった。

(いらないと言ったのに)

 しかし、その直後。自室へと戻り、男性の目がいなくなった瞬間、イレーネ姫はベッドにダイブして足をバタバタとさせた。

「ねえリーヌ、聞いた!? 私、国を救った英雄様の元へ嫁ぐことになりましたのよ!」

 頬を真っ赤に染め、乙女のような笑顔で侍女リーヌの手を握りしめるイレーネ姫。

「おめでとうございます、姫様! 侯爵様、とても優しそうなお方でしたね!」

「ええ! 本当に清潔感があって、同じ目線で話してくださる素敵な方でしたわ! 私……幸せになれるかしら?」

「もちろんでございますとも!」

(でも……呪いのせいで、あんなひどい言葉をぶつけてしまいましたわ。嫌われてしまったらどうしましょう……ううっ)

 ベッドの上でひっそりと涙ぐむイレーネ姫の本音を、知る者はリーヌただ一人だけだった。

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