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第3話 安全のために剣を振ったら、戦争が終わってしまった

「さあ行け! 新たな指揮官殿をお守りし、未来を勝ち取るのだ!」

 上官の熱い号令とともに、俺の周囲を屈強な兵士たちが囲み、がっちりとしたスクラム兵陣が組まれた。

(いやいやいや! なんで俺が最前線のど真ん中に押し出されてるの!? 後方支援っすよ俺!)

 俺の悲痛な心の声など誰にも届かない。兵士たちは「我らが英雄に指一本触れさせるな!」と血走った目で叫びながら、俺という神輿を担ぎ上げるようにして敵陣へ突撃していく。

(ちょっと待って。俺は昨日まで後方で補給物資の仕分けをしていた男だぞ。なんで今日は最前線の旗手みたいになってるんだ)

 経緯を説明するなら簡単だ。昨日の戦場あさり現場を目撃した上官が、「雷将ヴォルフを単独討伐した英雄が、余裕の表情で戦利品を回収している」と盛大に勘違いし、今朝一番で俺を「新・最前線指揮官」に任命したのだ。

「違います、あれはただの老後資金の確保で……」と俺がいくら説明しても、「謙虚なお方だ!」と余計に崇められるだけだった。

 当然、敵も黙ってはいない。俺を狙って無数の矢や魔法が飛んでくる。

(ひぃっ! こっち来んな! 死にたくない、安全第一!)

 俺は半泣きになりながら、唯一の自衛手段である雷剣ドンデルをデタラメに振り回した。

 バチバチバチバチッ!!

 俺が剣を振るうたびに、途方もない魔力が吸い上げられ、巨大な雷の嵐となって前方の敵軍を薙ぎ払っていく。俺を狙ってきた敵兵たちは、文字通り一瞬で消し炭へと変わった。

「おおおっ! 指揮官殿の雷撃だ! 続けぇぇぇっ!」

 味方の士気は最高潮に達し、俺が剣を振って道を開け、その後を味方が歓声を上げながら進むという地獄のパレードが始まった。

(もうやだ! 早く帰って寝たいのに!)

「指揮官殿! 右翼が崩れております!」

(知るか!)

「指揮官殿! 左翼の援護を!」

(無理!)

「指揮官殿! ここは一つ、ご英断を!」

(帰りたい!!)

 俺はひたすら自身の安全を確保するためだけに、飛んでくる矢と魔法を避けながら必死で剣を振り続けた。

 気がつけば、俺たちはダルム公国軍を国境線の向こう側まで完全に押し返していた。

「……はぁ、はぁっ、もう、無理……」

 さすがに無駄に多い俺の魔力もついに底をつき、激しい目眩とともにその場にへたり込んでしまった。雷剣ドンデルが手から滑り落ち、カランと乾いた音を立てる。ギブアップだ。一歩も動けない。

「指揮官殿! ああ、なんという事だ。己の命を削り、魔力が空っぽになるまで我々のために……!」

 倒れ込んだ俺を見て、周囲の兵士たちがなぜか感極まったように男泣きしている。

(違う。ただのガス欠だ。誰か水をくれ)

 そして数日後。完全に戦意を喪失し、立て直しを諦めたダルム公国軍の本隊から使者がやってきた。

 彼らの要求は一つ。雷将ヴォルフと幹部たちの遺体の返還、それと引き換えの『和平交渉』だった。

「……以上をもって、ウィレム王国とダルム公国の間に正式な停戦が成立いたしました」

 宰相の読み上げる宣言を聞きながら、俺は天を仰いだ。

 こうして、俺がただ自分の身を守るためにヤケクソで剣を振り回した結果、長年続いていた国境の戦争はあっけなく終結してしまったのである。

(……早く帰って寝たい)

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