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第12話 帝国を追い返したら、うっかり皇太子を捕まえて連邦のトップになっていた

 ダルム公国の首都で俺がパンをかじってのんびりしている間に、俺を追っていた不穏分子の大貴族たちは帝国の伏兵に全滅させられていた。

 めでたい。じゃあ帰ろう。

 そう思った瞬間、伝令が飛び込んできた。

「報告! 帝国軍がこの首都に向かって進軍中です! 待ち伏せで我が軍の主力も閣下も討ち取ったと思い込み、完全に油断して凱旋パレードのような陣形です!」

(くるなよ! 俺はもう戦いたくないんだよ!)

「閣下! ご指示を!」

 部下たちが一斉に俺を見た。日陰の夫たちも、ダルム公国から集まった兵士たちも、命乞いをしていた雇い兵たちまでも。全員が俺の顔を見ている。

(全員俺に丸投げかよ……)

 そのとき、前に進み出た者たちがいた。

 日陰の夫たちの息子たちだ。最前線についてきていた若い連中で、年は二十歳前後だろう。父親と違って血気盛んな目をしている。

「閣下! 俺たちに正面を任せてください!」

「父上が長年冷遇されていたのに、それでも家族を守り続けてきた姿を見てきました。閣下が解呪してくださらなければ、父上は死ぬまで報われなかった。その恩を返す機会をください!」

「俺たちも戦えます! 後方から援護砲撃の魔法を、全力で叩き込みます!」

(……こいつら)

 俺はしばらく黙って彼らを眺めた。

 父親たちが妻に報われない日々を送ってきた。それを間近で見てきた息子たちだ。父親が初めて妻の笑顔を見た日、何を思ったかは想像に難くない。

「わかった。お前たちが前を固めてくれ。俺は後方から援護する」

「「「ははっ!」」」

 若い連中が目を輝かせて散開した。

「英雄様……素敵ですわ」

 イレーネがうっとりした目で俺を見上げてくる。

「何がだ」

「部下の気持ちを汲んで、活躍の場を作ってあげるなんて……本当に素晴らしいお方ですわ」

(そんな大層な話じゃない。ただ俺が楽したいだけだ)

「こっち来んなぁぁぁっ!」

 バチバチバチバチッ!!

 俺が後方からドンデルを振り回して帝国軍の左右を崩すと、若い連中が正面から一斉に魔法を叩き込んだ。父親たちも脇を固め、ダルム公国の兵士たちが怒涛の勢いで追い打ちをかける。

「な、なんだこれは!? 雷撃だけじゃなく、四方八方から……!」

「ひぃぃっ! 逃げろ! あの覇王、今度は部下まで完璧に統率してやがる!」

 完全に油断してヘラヘラと進軍してきていた帝国軍は、大パニックに陥り、元来た道を逆走し始めた。

「閣下! 敵が逃げます! 追撃を!」

「追え! 閣下の命令だ!」

 若い連中が目を輝かせて追撃に移る。父親たちもそれに続く。

(命令した覚えはないんだが……まあいいか。帰ってくれるなら)

 俺はイレーネを連れてゆっくりと後に続いた。

 気がつけば俺たちは、逃げる帝国軍を追い立てながらダルム公国と帝国の国境まで進んでいた。

「ふう、ここまでくれば安心だろ……ん? お前、誰だ?」

 国境付近の混乱の中、やけに豪華な鎧を着てコソコソと逃げようとしていた男がいた。

 戦場あさりのクセが抜けない俺は「金目のものを持っていそうだ」と直感し、ヘンドリックに目配せした。ヘンドリックが素早く回り込み、男の首根っこを掴んで引き倒す。

「ひ、ひぃぃっ! 殺さないでくれ! 私は帝国の第一皇太子、カールだぞ! 身代金ならいくらでも払う!」

「……はい?」

「おおおっ! なんという事だ! 逃げる敵兵には目もくれず、皇太子の首だけを狙って生け捕りにするとは!」

 若い連中が震え上がって俺を見ている。

「さすが旦那様ですわ! これで帝国は手出しできませんし、莫大な賠償金もふんだくれますわね! チュッ!」

(いや、ただの金持ちそうなおっさんだと思って目配せしただけなんだけど!?)

 こうして皇太子カールを人質に取られた帝国は完全降伏。ダルム公国の大臣たちは「どうか我々をあなたの領地としてお導きください!」と泣いてすがりつき、俺の領地とダルム公国が合併した「ウィレム連邦」が誕生してしまったのだった。

「閣下! ありがとうございました! 俺たち、役に立てましたか!?」

 血気盛んな若い連中が駆け寄ってくる。鎧は汚れているが、目が輝いている。

「ああ、十分役に立った。お前たちのおかげで俺は後方でゆっくりできた」

「「「閣下ぁぁっ!!」」」

 若い連中が感激して泣き崩れた。父親たちも目を真っ赤にして息子たちの肩を抱いている。

(……まあ、悪くない眺めだな)

 ただ早く帰って寝たかっただけの後方支援兵は、こうしてまた一つ、とんでもない伝説を積み上げてしまったのだった。


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