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第11話 奥で休んでいたら、俺を追っていた連中が勝手に全滅した

 帝国軍から解放されたダルム公国の首都に逃げ込んだ俺たちを待っていたのは、熱狂的な大歓迎だった。

「おおおっ! 雷将様が地獄から蘇り、我々を救ってくださった!」

「さあさあ、雷将様! どうか奥の王城へ! 最高の歓待をご用意しておりますぞ!」

 本物の雷将の顔を知らない市民たちは、雷の大剣を持つ俺を自国の英雄の復活だと勘違いし、俺たちをあっという間に首都の奥深くへと押し込んだ。

(いや、人違いなんだけど……まあいっか。後ろから俺を殺しに来る大貴族たちから逃げられるなら、今は雷将でもなんでもいいや。あー疲れた)

 ふかふかのソファに腰を下ろし、出された高級な紅茶をすする。イレーネは「さすが英雄様、敵国の民まで魅了するなんて!」と俺の左腕に抱きついたまま離れないが、命の危険が去っただけで天国だ。

「閣下。よろしいでしょうか」

 ヘンドリックが書類を手に近づいてきた。今回の最前線行きに同行を申し出た、俺の側近だ。

「街の住民から要望が殺到しております。帝国軍に踏み荒らされた畑の復旧、崩れた石壁の修繕、水路の詰まり……ざっと百件以上ございます」

「……全部レベル1の魔法で対応できそうか?」

「おそらく。ただ数が多く、通常の魔法使いでは何日もかかりますが……」

「俺がやる。魔力は腐るほどある」

「え? よろしいんですか?」

(暇だし。それに、せっかく助けてもらったのに畑が荒れたままじゃ気の毒だろう)

 俺は腰を上げ、取り巻きの日陰の夫たちを引き連れて街へ出た。

「レベル1・耕作」で踏み荒らされた畑の土を整える。「レベル1・土魔法」で崩れた石壁を積み直す。「レベル1・浄水」で詰まった水路を清める。

 一つひとつはたいしたことない初歩の魔法だが、俺の無駄に豊富な魔力が乗ると、荒れ地が一瞬で肥沃な農地に変わり、水路からは透き通った水が勢いよく流れ出す。

「す、すごい……! 雷将様は戦うだけでなく、街まで直してくださるのか……!」

「ありがたや、ありがたや……!」

 周囲に集まった市民たちが土下座しながら泣いている。

(いや、暇つぶしにやってるだけなんだが)

「閣下、次はあちらの屋根が……」

「わかった」

「閣下、あの橋も……」

「うん」

「閣下、できれば井戸も……」

「まあ、やるか」

 取り巻きの日陰の夫たちが嬉しそうに次の要望を運んでくる。彼らも「閣下のお役に立てる」と張り切って住民の案内役を買って出ていた。

 気がつけば数時間が経っており、街のあちこちが修繕され、俺はすっかり疲れてソファに戻っていた。

「英雄様、お疲れになりましたわね。はい、あーんですわ」

 イレーネが焼きたてのパンを差し出してくる。

「……どこで調達した」

「街の方が感謝してくださって。旦那様のために焼いてくださいましたの」

(……まあ、悪くはないな)

 俺はパンをかじりながら、窓の外を眺めた。

 こんな穏やかな時間が続けばいいんだが、そうはいかないのが俺の人生だ。

「報告いたします!」

 伝令兵が駆け込んできた。

「侯爵閣下を背後から追っていた不穏分子の貴族たちですが……帝国の伏兵による待ち伏せに遭い、全滅いたしました!」

「……ぶふっ!?」

 俺は思わず紅茶を噴き出した。

「閣下がこの首都に足を止めたことに気づかず、血走った目で閣下を追っていた貴族たちは、凄まじい勢いでこの街を素通りしていったのです! そしてそのまま前方に潜んでいた帝国軍の伏兵地帯に全力で突っ込み、包囲されて血祭りに上げられました! 雇われていた兵士たちは一目散に逃げ出しました!」

(……え? 俺が街でのんびり畑を直して、パンを食べてる間に、俺を殺しに来た連中が勝手に敵の罠に突っ込んで勝手に全滅したってこと?)

 俺は完全にフリーズした。

「おおおっ……! なんという恐ろしい策士! 自らは安全な場所に身を隠し、民の心を掴みながら、背後の不穏分子をあえて素通りさせることで帝国の罠の生贄として利用するとは!」

「わたくしの旦那様は頭脳も完璧ですの! 逆らう愚か者には容赦しない冷酷な手腕も素敵ですわ! チュッ!」

 日陰の夫たちも「神です……!」と目を潤ませて頷いている。

(俺はただ住民の要望に応えて、疲れてパン食べてただけなんだが)

「閣下……もしや、わざと街を修繕されたのでは? 民の信頼を得て、この街を足場にするための布石として……」

 ヘンドリックが感動した顔で言ってくる。

「違う」

「さすがでございます……!」

「だから違うと言っている」

 全く聞いてもらえなかった。

 こうして俺は、ただ休んで暇つぶしに畑を直しパンを食べていただけなのに、「民の心を掌握しながら敵を一網打尽にした稀代の策士」としてさらに伝説を積み上げてしまったのだった。

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