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第六十八話 開業

それから——

三年の月日が流れた。

春。

まだ山には雪が残っている。

湯の沢村の入口に

新しい看板が立っていた。

湯の沢メディカルリゾート

白い建物が

山の斜面に沿って並んでいる。

温泉棟。

医療棟。

宿泊棟。

リハビリ施設。

そして

遺跡保存公園。

三千年前の環状列石は

ガラス屋根の下で

静かに保存されていた。

その中央に建つ建物。

湯の沢メディカルセンター。

開業式典の日だった。

来賓

報道

村民。

公園の広場に

多くの人が集まっている。

壇上には

四人が並んでいた。

湯沢

常田

李

そして

箕輪。

司会が紹介する。

「本施設の運営会社

湯の沢メディカルリゾート株式会社

代表取締役社長

湯沢様です」

拍手。

かつて

古民家に住み始めた元官僚は

今

会社の社長になっていた。

会社は

かつての ゆのさわパートナーズ を前身として

正式に再編された。

資本金

百六十億。

常田からの預り金

二十億。

総事業費

百八十億。

信越中央銀行の融資も

無事実行された。

湯沢は

マイクを握った。

「三年前」

一拍。

「この村で説明会を開きました」

村人たちが笑う。

覚えているのだ。

あの夜の議論を。

湯沢が言った。

「そのとき」

一拍。

「一人の方が言いました」

静かな声。

「やらせてみろ」

会場の視線が

自然と一人に集まる。

後ろの席で

腕を組んで座っている男。

川上。

湯沢が続けた。

「その言葉で」

一拍。

「この事業は始まりました」

湯沢は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

拍手が起きる。

続いて紹介されたのは

湯の沢メディカルセンター所長

常田医師。

常田が言う。

「この村で」

一拍。

「医療を始めます」

静かな声。

「保険診療」

「リハビリ医療」

「温泉療養」

「予防医療」

そして

少し笑って言った。

「夜中の急患も診ます」

会場が笑った。

次に紹介されたのは

白樺の湯支配人 箕輪。

箕輪はマイクを握ると

言った。

「温泉は」

一拍。

「今まで通りです」

村人たちが笑う。

「むしろ」

一拍。

「少しきれいになりました」

さらに笑い。

そして

最後に紹介された。

「湯の沢メディカルリゾート株式会社

副社長

御代田 健輔」

李が前に出る。

三年前とは

名前が変わっていた。

御代田家の後継者が不在であり、現当主の従兄弟の家系とはいえ血を繋がっていたことから、正式に養子入りしたのだ。

李は静かに言った。

「祖父は」

一拍。

「中国で生まれました」

「しかし」

静かな声。

「曽祖父はこの村の人でした」

村人たちが静かに聞く。

李が言う。

「私は」

一拍。

「少し遠回りしました」

そして

村を見渡して言った。

「ただいま」

一瞬

静寂。

そして

拍手が起きた。

遠くで

白樺の湯の煙突から

湯気が上がっている。

その横には

新しい建物。

湯の沢メディカルセンター。

三千年前の縄文人が

温泉を使っていたかもしれない場所で

新しい医療が

始まろうとしていた。

その光景を

川上は腕を組んだまま見ていた。

隣の老人が言う。

「どうだ」

一拍。

「防波堤」

川上は

小さく笑った。

「……さてな」

静かな声。

「波が来るのは」

一拍。

「これからだ」

だが

その目は

どこか

嬉しそうだった。

湯の沢メディカルリゾート

開業。

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