↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
66/71

第六十五話 防波堤

その夜。

湯の沢の山は

もう真っ暗だった。

古民家の縁側で

湯沢は一人

湯のみを持って座っていた。

薪ストーブの火が

部屋を赤く照らしている。

そこへ

戸を叩く音がした。

「いるか」

声の主は

川上だった。

湯沢が立ち上がる。

「どうぞ」

川上は靴を脱いで

上がり込んだ。

部屋を見回す。

「……本当に住んでるな」

湯沢が笑う。

「冬は寒いです」

川上が座る。

二人の間に

しばらく沈黙が流れた。

やがて川上が言った。

「昼間の話だが」

一拍。

「御代田の血」

湯沢が頷く。

「ええ」

川上は

少しだけ笑った。

「村の年寄りは」

一拍。

「そういう話に弱い」

湯沢も笑う。

また沈黙。

薪がパチッと鳴った。

川上が

ふいに言った。

「……わしはな」

一拍。

「反対したいわけじゃない」

湯沢は何も言わない。

川上が続ける。

「昔」

一拍。

「この村で」

静かな声。

「大きな開発があった」

湯沢が言う。

「スキー場ですね」

川上が頷く。

「議員だった」

一拍。

「わしは反対した」

湯沢は黙って聞いている。

川上が言った。

「借金が大きすぎた」

静かな声。

「だが」

一拍。

「議会は賛成した」

川上は

遠くを見るような目をした。

「会社は逃げた」

「スキー場は潰れた」

一拍。

「借金だけ残った」

静かな声。

「そのあと」

一拍。

「村人は」

「わしを責めた」

湯沢は何も言わない。

川上が続けた。

「反対したくせに」

「止められなかった」

一拍。

「中途半端だとな」

静かな声。

「それからだ」

川上が湯沢を見る。

「大きな話が出ると」

一拍。

「わしが反対する」

湯沢が聞く。

「役目ですか」

川上は少し笑った。

「そうだ」

一拍。

「防波堤だ」

静かな声。

「誰かが」

一拍。

「止めないといけない」

湯沢が静かに言う。

「だから」

一拍。

「今回も」

川上が頷く。

「百八十億」

「リゾート」

「医療」

一拍。

「危ない匂いがする」

湯沢は

少し考えてから言った。

「正しいと思います」

川上が眉を上げる。

湯沢が続ける。

「反対する人がいない計画は」

一拍。

「必ず失敗します」

川上が

少しだけ笑った。

「辞めてきた官僚」

一拍。

「変わったこと言う」

湯沢が言った。

「だから」

一拍。

「川上さんが必要です」

川上が黙る。

湯沢が続けた。

「この事業が」

一拍。

「本当にダメなら」

静かな声。

「止めてください」

川上は

しばらく考えた。

やがて言った。

「……もし」

一拍。

「大丈夫だと思ったら」

湯沢が見る。

川上が言った。

「そのときは」

静かな声。

「わしが賛成させる」

薪が

ぱちんと弾けた。

その約束は

この村の未来を

決める

重い言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。