第六十一話 村の商売
湯の沢公民館の説明会が終わったあと。
外はもう暗かった。
帰ろうとする住民たちの中で
川上は腕を組んだまま立っていた。
その横を
白樺の湯の従業員たちが通り過ぎる。
フロント係の女性が言った。
「川上さん」
川上が振り向く。
「どうした」
女性は少し迷ってから言った。
「私たち」
一拍。
「賛成です」
川上が眉を上げた。
「お前たちが?」
女性は頷いた。
「白樺の湯」
静かな声。
「このままだと」
一拍。
「あと五年持たない」
川上は何も言わない。
女性が続ける。
「設備」
「古い」
「客」
「減ってる」
一拍。
「でも」
湯沢の方を見る。
「直すって言った」
「残すって言った」
静かな声。
「それなら」
一拍。
「やってほしい」
横にいた清掃係の男性も言う。
「工事二ヶ月なら」
「なんとかなる」
川上は腕を組んだまま聞いていた。
そこへ
別の声がした。
「うちも賛成だ」
振り向くと
湯の沢商店街の
酒屋の主人だった。
「客が来ないと」
一拍。
「商売にならん」
さらに
蕎麦屋の主人が言う。
「医者が来るなら」
「長期滞在客も来る」
「食べるだろ」
後ろから
民宿の女将も言った。
「うちは」
一拍。
「歓迎です」
川上は黙っていた。
湯の沢の商売人たちが
少しずつ
同じ方向を向き始めている。
川上がぽつりと言った。
「お前ら」
一拍。
「儲かると思ってるな」
酒屋の主人が笑う。
「そりゃそうだ」
蕎麦屋が言う。
「村の人口」
一拍。
「減る一方だぞ」
民宿の女将が言った。
「今のままだと」
静かな声。
「村が先に終わる」
川上は
何も言えなかった。
そのとき
箕輪が近づいてきた。
にやにやしている。
「川上さん」
一拍。
「村の商売人」
「だいたい賛成です」
川上が睨む。
「お前」
「楽しんでるだろ」
箕輪は笑った。
「だって」
一拍。
「面白くなってきた」
少し離れたところで
湯沢と李が
その様子を見ていた。
李が小さく言う。
「空気が変わった」
湯沢が頷く。
「ええ」
しかし
川上は
まだ腕を組んだままだった。
そして
ぽつりと言った。
「……まだだ」
一拍。
「まだ信用しない」
だが
その声には
最初の説明会にあった
強い拒絶は
もう残っていなかった。
湯の沢の空気は
少しずつ
動き始めていた。




