第五十九話 百八十億の金
湯の沢公民館・小会議室。
反対派七十人の説明会は
いよいよ核心に入っていた。
川上が言った。
「まず」
一拍。
「金の話だ」
会場が静まり返る。
川上が続ける。
「さっき言ったな」
「百八十億」
湯沢が頷く。
「はい」
川上が指を立てた。
「そんな金」
一拍。
「どこから出る」
室内の視線が
一斉に湯沢に集まる。
湯沢は資料を開いた。
「まず」
一枚の紙。
「ゆのさわパートナーズ」
一拍。
「資本金」
「百六十億円」
ざわめき。
川上が言う。
「誰の金だ」
湯沢が答える。
「出資者です」
資料をめくる。
「国内投資家」
「地域企業」
「個人資産家」
一拍。
「そして」
常田を見た。
「常田医師」
常田が軽く会釈する。
湯沢が言う。
「常田先生から」
一拍。
「二十億円の預り金」
川上が眉をひそめる。
「預り金?」
常田が静かに言った。
「医療施設の準備資金です」
会場がざわつく。
川上が言う。
「つまり」
一拍。
「百六十億の会社に」
「二十億の医療資金」
湯沢が頷く。
「合計」
一拍。
「百八十億」
川上は腕を組んだ。
「銀行は?」
湯沢が答える。
「信越中央銀行と協議中です」
ざわめき。
「銀行も絡むのか」
湯沢が言う。
「ただし」
一拍。
「この段階では」
「まだ融資は受けていません」
川上が目を細める。
「なぜだ」
湯沢は答えた。
「理由は簡単です」
一拍。
「住民合意がないからです」
室内が静まり返る。
湯沢が続ける。
「銀行は」
一拍。
「地域事業で」
静かに言う。
「住民が反対している案件には金を出しません」
川上が黙る。
湯沢が言った。
「だから」
一拍。
「まず」
七十人を見る。
「皆さんの意見を聞いています」
沈黙。
川上がぽつりと言った。
「……なるほどな」
腕を組んだまま
湯沢を見る。
「つまり」
一拍。
「わしらが反対のままだと」
静かな声。
「銀行も動かない」
湯沢が頷いた。
「はい」
川上は少し笑った。
「正直だ」
周囲を見る。
「聞いたか」
七十人に言う。
「わしら」
一拍。
「百億単位の話を止めてる」
小さなどよめき。
川上が続けた。
「だが」
一拍。
「まだ疑問がある」
湯沢を見る。
「医療だ」
静かな声。
「こんな山の村に」
一拍。
「医者が来るのか」
今度は
全員の視線が
常田医師に集まった。
常田はゆっくり立ち上がった。
「来ます」
一言だった。
そして続けた。
「なぜなら」
一拍。
「私が来るからです」
室内が静まり返った。




