第五十八話 住んでいる男
湯の沢公民館・小会議室。
反対派
七十人だけの説明会。
空気はまだ固かった。
最初に口を開いたのは、やはり 箕輪だった。
椅子にもたれながら
湯沢を親指で指す。
「皆さん」
一拍。
「この人」
にやっと笑う。
「辞めてきた官僚です」
室内がざわつく。
「官僚?」
「どこの?」
川上が眉をひそめる。
箕輪が言う。
「総務省」
さらに言う。
「地方行政」
「補助金」
「地域振興」
一拍。
「こういう話」
「腐るほど見てきた人」
湯沢が苦笑した。
「煽らないでください」
箕輪が肩をすくめる。
「いや事実でしょ」
川上が腕を組んだ。
「つまり」
一拍。
「役人だった男が」
湯沢を見る。
「今度は商売する」
湯沢が静かに答えた。
「そうです」
川上が言う。
「役人は」
一拍。
「失敗しても責任を取らん」
湯沢はすぐ答えた。
「だから」
一拍。
「辞めました」
室内が静まる。
箕輪が小さく笑う。
「官僚辞めて」
一拍。
「百八十億の事業」
李がぼそっと言う。
「普通やらない」
空気が少し緩む。
川上はしばらく黙っていた。
そして
ぽつりと言った。
「……調べた」
室内が静かになる。
川上が言う。
「湯沢」
一拍。
「お前」
静かに言う。
「もう村に住んでるな」
ざわめき。
「え?」
「本当か?」
箕輪が笑う。
「あ、バレました?」
湯沢が苦笑する。
「去年」
一拍。
「古民家を買いました」
川上が言う。
「元郵便局長の家だな」
湯沢が頷く。
「ええ」
会場がざわつく。
「薪風呂の家か」
「そうです」
誰かが言う。
「冬寒いぞ」
湯沢が笑った。
「もう体験しました」
小さな笑いが起きる。
川上が腕を組む。
「つまり」
一拍。
「逃げるつもりはない」
湯沢が言った。
「ありません」
沈黙。
川上は少し考えた。
そして
静かに言った。
「……いいだろう」
周囲を見る。
「聞いたか」
七十人に言う。
「こいつ」
一拍。
「もうこの村の住民だ」
室内の空気が
少し変わる。
川上が続けた。
「だが」
一拍。
「勘違いするな」
湯沢を見る。
「住んでるから」
静かな声。
「信用するわけじゃない」
湯沢が頷く。
「当然です」
川上が椅子に背を預けた。
「だから」
一拍。
「今日は」
静かに言う。
「徹底的に聞く」
周囲を見る。
「まず」
一拍。
「金の話だ」
七十人の視線が
一斉に
湯沢に向いた。
こうして反対派説明会は本当の意味で始まった。




