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第五十五話 議決

佐久野市議会。

議場は静まり返っていた。

議題はただ一つ。

白樺の湯 売却議案。

議長が言う。

「それでは質疑に入ります」

最初に立ったのは

年配の議員だった。

「質問」

市長を見る。

「この白樺の湯は」

「旧湯の沢村が二十億円以上をかけて建設した施設です」

一拍。

「それを」

「六億円で売却する」

議場がざわつく。

「市民に説明がつくのですか」

市長は静かに答えた。

「現在の施設状況」

「今後の修繕費」

「そして赤字運営」

一拍。

「総合的に判断しました」

別の議員が立つ。

比較的若い議員だった。

「質問」

資料を掲げる。

「この湯の沢メディカルリゾート計画」

「雇用百人とありますが」

一拍。

「現実的なのでしょうか」

議場がざわつく。

議長が言う。

「答弁を求めます」

市長は頷いた。

「計画の説明のため」

一拍。

「事業者の発言を許可したいと思います」

議長が頷く。

「許可します」

市長が傍聴席を見る。

「湯沢さん」

傍聴席。

湯沢が静かに立ち上がる。

議場中央へ歩く。

深く一礼した。

「湯沢と申します」

議員たちが視線を向ける。

湯沢は言った。

「まず」

資料を掲げる。

「白樺の湯の現状についてです」

ページをめくる。

「設備更新が必要な項目」

ボイラー更新

配管更新

屋根防水

一拍。

「これだけで」

「七億円以上かかります」

議場がざわつく。

湯沢が続ける。

「さらに」

「年間赤字は約八千万円」

一拍。

「十年で八億円です」

議員たちが黙る。

湯沢が言う。

「つまり」

「この施設は」

一拍。

「このままでは」

「市の負債になります」

議場が静かになる。

湯沢が続けた。

「私たちは」

「この施設を再生します」

資料をめくる。

そこには図面。

医療棟

宿泊棟

温泉施設

弥生パーク

湯沢が説明する。

「医療スタッフ」

「宿泊施設スタッフ」

「温泉施設スタッフ」

「観光スタッフ」

一拍。

「合計」

「百人規模になります」

若い議員が言う。

「根拠は?」

湯沢は答える。

「医療施設だけで四十人」

「ホテル三十人」

「温泉二十人」

一拍。

「観光部門で十人以上」

議場が静まり返る。

湯沢が言う。

「しかも」

「医療観光は長期滞在です」

議員が聞く。

「長期?」

湯沢が答える。

「リハビリ」

「温泉療養」

「美容医療」

一拍。

「平均一週間以上の滞在になります」

議員たちが顔を見合わせる。

湯沢が言う。

「宿泊」

「飲食」

「土産」

一拍。

「地域にお金が落ちます」

議場は静まり返っていた。

最後に

ベテラン議員が立つ。

旧湯の沢村出身の議員だった。

「質問」

ゆっくり言う。

「私は」

「この白樺の湯の建設に関わった」

一拍。

「村の金と借金で作った施設です」

議場が静かになる。

「それを売るのは」

「正直」

一拍。

「悔しい」

沈黙。

議員が湯沢を見る。

「だから聞く」

一拍。

「あなたは」

「この事業を」

「何年続けるつもりだ」

議場がざわつく。

湯沢は迷わなかった。

「少なくとも」

一拍。

「二十年です」

議員が眉を上げる。

「保証は?」

湯沢は答えた。

「契約に入れます」

一拍。

「二十年以内に撤退した場合」

「違約金」

「十億円」

議場がざわめく。

ベテラン議員は

しばらく湯沢を見つめていた。

そして

ゆっくり頷いた。

「……分かった」

席に座る。

議長が言う。

「それでは」

一拍。

「採決に入ります」

議場が張り詰める。

「白樺の湯売却議案に」

「賛成の方は起立願います」

静寂。

最初に立ったのは

市長与党の議員。

一人。

二人。

三人。

次々と立ち上がる。

傍聴席。

箕輪が祈るように見ている。

最後に。

さきほどの

ベテラン議員が

ゆっくり立ち上がった。

議長が数を確認する。

一拍。

「……起立多数」

木槌が鳴る。

「可決されました」

議場がざわめく。

傍聴席。

箕輪が小さく叫ぶ。

「やった…!」

李が小さく拍手する。

常田は深く息を吐いた。

湯沢は静かに頭を下げた。

こうして――

白樺の湯の売却

そして

湯の沢メディカルリゾート計画

は

正式に

動き出すことになった。

だが。

本当の仕事は

ここからだった。

(つづく)

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