第五十二話 発想の転換
数日後。
白樺の湯 会議室。
机の上には広げられた図面。
湯の沢メディカルリゾートの配置図だ。
しかし、
その一角に赤い線が引かれている。
「弥生遺跡調査区域」
面積は――
事業用地の六分の一。
湯沢は頭を抱えていた。
「……参ったな」
李も腕を組んでいる。
「建物配置を変えるしかありません」
常田が言う。
「医療棟を移動しますか?」
李が首を振る。
「それだと動線が崩れます」
ホワイトボードには
いくつもの修正案。
しかしどれも決定打にならない。
湯沢が言う。
「削るしかないか……」
李が言う。
「宿泊棟を小さく?」
常田が苦い顔をする。
「収容人数が減ります」
沈黙。
その時だった。
会議室のドアが勢いよく開いた。
「ちょっといい?」
入ってきたのは
箕輪。
この計画の広報と企画を担当している女性だ。
湯沢が言う。
「今ちょっと深刻な会議中なんだ」
箕輪は図面を覗き込む。
赤い遺跡区域を見る。
「ああ、それ?」
李が言う。
「それ?じゃない」
「六分の一使えないんです」
箕輪は腕を組んだ。
「ふーん」
湯沢が言う。
「ふーんじゃない」
「130億の計画だぞ」
箕輪は少し考えた。
それから言った。
「なら活用すればいいじゃない」
三人が同時に言った。
「は?」
箕輪は図面を指さす。
「遺跡なんでしょ?」
李が言う。
「そうです」
「弥生時代」
箕輪は言う。
「だったら」
一拍。
「観光資源じゃない」
会議室が静かになる。
湯沢が聞く。
「観光?」
箕輪はホワイトボードにペンを取る。
遺跡の部分を丸で囲む。
「ここ」
大きく書く。
弥生遺跡公園
李が言う。
「……公園?」
箕輪は続ける。
「復元住居」
「資料館」
「体験コーナー」
常田が言う。
「医療施設ですよ」
箕輪はニヤリと笑う。
「だからいいのよ」
湯沢が聞く。
「どういう意味だ」
箕輪が言う。
「患者って」
一拍。
「暇なの」
三人が黙る。
箕輪は続ける。
「リハビリ」
「散歩」
「見学」
ホワイトボードに矢印を書く。
医療棟 → 遺跡公園
「散歩コースにする」
李が少し考えた。
「……なるほど」
箕輪はさらに言う。
「観光客も来る」
「地域の人も来る」
常田が言う。
「温泉と遺跡か」
箕輪は頷く。
「しかも」
一拍。
「二千年前から人が住んでた場所で療養」
湯沢が思わず笑った。
「ストーリーはあるな」
李が図面を見る。
「しかも」
遺跡区域を指す。
「ここは建物を建てない前提なので」
一拍。
「計画に影響しない」
常田が言う。
「むしろ価値が上がる」
湯沢は椅子にもたれた。
そして言う。
「なるほど」
一拍置く。
「弥生時代を利用するか」
箕輪が笑った。
「だから言ったでしょ」
そして言う。
「ピンチは」
一拍。
「ネタになるのよ」
こうして
湯の沢メディカルリゾート計画は
思わぬ形で
弥生遺跡と共存する計画
へと変わっていった。




