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第五十一話 出てはいけないもの

春。

湯の沢の山に重機の音が響き始めた。

旧村営スキー場の麓。

そこが 湯の沢メディカルリゾート の建設予定地だった。

造成工事は順調に進んでいた。

ブルドーザーが土を削り、

ショベルカーが地面を掘り返す。

その日の午後。

現場監督の無線が鳴った。

「監督、ちょっと来てください」

若い作業員だった。

監督はヘルメットを押さえながら歩いて行く。

掘削された斜面。

そこに――

土器の破片があった。

監督が言う。

「誰か落としたのか?」

作業員が首を振る。

「いや……」

「土の中から出てきました」

さらに周囲を見る。

同じような破片がいくつもある。

監督は嫌な予感がした。

「……止めろ」

ショベルカーのエンジンが止まる。

監督はスマートフォンで写真を撮り、

工事事務所に送った。

そして一時間後。

湯沢の携帯が鳴った。

「もしもし」

電話の向こうで現場監督が言う。

「湯沢社長」

「ちょっと問題が出ました」

湯沢は嫌な予感がした。

「地盤か?」

監督が言う。

「いえ」

一拍。

「遺跡です」

湯沢は一瞬黙った。

「……は?」

監督が続ける。

「土器の破片が出ました」

「かなり古そうです」

湯沢は天井を見上げた。

「どのくらいの範囲だ」

監督が言う。

「分かりません」

「ただ」

一拍。

「文化財保護法があるので」

「市に連絡しました」

湯沢は頭を掻いた。

「そうなるよな……」

翌日。

現場には

佐久野市教育委員会

県文化財保護課

そして

大学の考古学者まで来ていた。

白いヘルメットの集団が

地面をじっと見ている。

李が小声で言う。

「嫌な予感しかしません」

湯沢が言う。

「俺もだ」

学者が地面から土器を取り出した。

目を輝かせて言う。

「これは……」

一拍。

「弥生時代ですね」

湯沢が言う。

「弥生……」

李が聞く。

「どのくらい古い?」

学者が嬉しそうに答える。

「二千年前です」

湯沢は黙った。

そして小さく言う。

「……二千年」

李が言う。

「工事は?」

教育委員会の職員が申し訳なさそうに言う。

「調査が必要です」

湯沢が聞く。

「どれくらい?」

職員は言いにくそうに言った。

「早くて」

一拍。

「三ヶ月」

湯沢は空を見た。

春の空。

そして言う。

「三ヶ月か……」

李が静かに言う。

「運が悪いですね」

そのとき、

学者が興奮して叫んだ。

「これはすごい!」

全員が振り向く。

学者が地面を指差して言う。

「住居跡です!」

そして続けた。

「しかも……」

一拍。

「かなり広い!」

湯沢がゆっくり聞いた。

「どのくらいだ」

学者が答える。

「この斜面一帯でしょう」

李が図面を見る。

そして静かに言った。

「……社長」

湯沢が聞く。

「なんだ」

李が言う。

「事業用地の」

一拍。

「六分の一です」

沈黙。

山の風が吹いた。

湯沢は深く息を吐いた。

「……最悪だ」

こうして

湯の沢メディカルリゾート計画は

思わぬ敵

――

弥生時代

に足止めされることになった。

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