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第四十六話 最大手

東京・銀座。

常田美容外科クリニック、院長室。

机の上に、分厚い資料が置かれていた。

李が言う。

「正式オファーが出ました」

湯沢が聞く。

「例の最大手か」

李は頷く。

「はい」

資料を一枚、常田の前に差し出す。

常田は黙って読み始めた。

数秒後、

小さく笑う。

「……なるほどな」

湯沢が言う。

「いくらだ?」

李は答えた。

「二十七億円」

部屋が一瞬静まる。

湯沢が思わず言う。

「二十七?」

李は続ける。

「医療法人の事業譲渡」

「ブランド」

「患者基盤」

「医師スタッフ」

常田は資料を閉じた。

「本気だな」

李は頷く。

「日本最大手の美容整形外科グループです」

そのグループは業界では有名だった。

院長自身がカリスマ的存在。

テレビ出演も多く、

美容医療業界では知らない者はいない。

湯沢が言う。

「向こうの院長も有名人だろ」

李は言う。

「はい」

「カリスマ同士です」

常田は少し笑った。

「つまり?」

李は次のページを開く。

「今回の提案の核心です」

資料を指す。

「事業譲渡後」

「クリニックはグループの銀座院になります」

常田は黙って聞いている。

李が続ける。

「ただし」

一拍置く。

「常田医師は非常勤理事としてグループに参加」

湯沢が言う。

「理事?」

李は頷く。

「ブランドと技術力を評価しています」

常田は笑った。

「俺を看板にしたいわけか」

李は言う。

「それだけではありません」

資料を指す。

「グループは全国展開しています」

「そこで」

一拍置く。

「常田ブランドを併用したい」

湯沢が言う。

「向こうの院長も有名だろ」

李は頷く。

「カリスマが二人」

「業界としては非常に強い」

常田は椅子にもたれた。

「なるほど」

少し考える。

そして言う。

「だから二十七億か」

李は答える。

「単なるクリニック買収ではありません」

「ブランド統合です」

湯沢が聞く。

「ビルは?」

李は言う。

「先生が保有」

「賃貸契約」

資料を見る。

「月額九百五十万円」

常田は頷いた。

「想定通りだ」

湯沢が言う。

「つまり」

「銀座の家賃収入は残る」

李は言う。

「はい」

常田は窓の外を見る。

銀座の街。

二十年やってきた場所。

そして言った。

「俺を理事に?」

李が答える。

「非常勤です」

「実務は不要」

「ブランド参加」

常田は笑った。

「広告塔か」

湯沢が言う。

「悪くない話だ」

李は言った。

「湯の沢に行っても」

「美容医療との接点は残る」

常田は少し黙った。

それから言った。

「湯沢」

「はい」

「これ」

資料を指す。

「受けてもいいが」

湯沢が言う。

「が?」

常田は笑った。

「もう一回だけ値段を聞いてみたい」

李が少し笑う。

「いくらです?」

常田は言った。

「二十九」

湯沢が吹き出す。

「常田先生…(笑)」

常田は肩をすくめた。

「交渉ってのは」

一拍置く。

「そういうもんだ」

李は資料を閉じた。

「分かりました」

「打診します」

常田は窓の外を見ながら言った。

「銀座の二十年が」

一拍置く。

「湯の沢の未来になる」

交渉は、

最終段階へ入った。

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