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第四十五話 最初の買い手

一週間後。

東京・丸の内。

M&Aアドバイザリー会社の会議室。

李と湯沢の前に、担当の男が資料を並べていた。

「早速ですが」

「反応がありました」

湯沢が言う。

「もう?」

男は笑った。

「銀座の美容外科ですから」

「市場に出せばすぐ動きます」

資料をめくる。

「現時点で」

「三社」

李が言う。

「どこです?」

男は説明した。

「一社目」

「全国展開している美容クリニックグループ」

「二社目」

「医療投資ファンド」

「三社目」

一拍置く。

「海外資本」

湯沢が眉を上げた。

「海外?」

男は頷いた。

「韓国系の美容医療グループです」

李は小さく頷いた。

「あり得ますね」

湯沢が言う。

「どこが一番高い?」

男は答えた。

「現時点では」

「ファンド」

資料を指す。

提示価格 二十二億円

湯沢が言う。

「もう二十二億か」

男は続けた。

「ただし」

「まだ初期提示です」

李が聞く。

「条件は?」

男は言う。

「院長ブランドの継続」

常田がいないことを確認してから、少し声を落とした。

「つまり」

「常田医師の名前を使いたい」

湯沢が言う。

「本人は湯の沢に行く」

男は言う。

「そこが問題です」

李が言う。

「契約でブランド使用を制限しましょう」

男は頷いた。

「それが良いと思います」

次の資料。

「美容クリニックグループ」

提示 二十一億円

湯沢が言う。

「少し安いな」

男は言った。

「ただし」

「決断は早い」

「一ヶ月以内にクロージング可能」

李は言う。

「スピードか価格か」

男は頷く。

「そういう構図です」

そして三枚目の資料。

「韓国の美容医療グループ」

湯沢が言う。

「いくらだ?」

男は言った。

「二十三億」

沈黙。

湯沢が言う。

「一番高い」

男は頷いた。

「ただし」

「条件があります」

李が言う。

「何です?」

男は言った。

「日本進出の旗艦店にしたい」

湯沢が言う。

「つまり?」

男は答えた。

「大規模改装」

「ブランド変更」

李が静かに言った。

「常田ブランドが消える」

男は頷いた。

「そうです」

会議室が少し静かになる。

湯沢が言う。

「常田先生は嫌がるな」

李も頷いた。

「たぶん」

男は言う。

「ただ」

一拍置く。

「まだ本番ではありません」

湯沢が聞く。

「どういう意味だ?」

男は笑った。

「今は情報を流した段階です」

資料を閉じる。

「ここから」

一拍置く。

「競争入札に入ります」

李が言う。

「どこまで上がる?」

男は少し考えた。

そして言った。

「二十五億」

湯沢が言う。

「そこが天井か」

男は小さく笑った。

「普通なら」

李が言う。

「普通じゃない?」

男は頷いた。

「実は」

資料を一枚取り出した。

「もう一社、動いています」

湯沢が眉を上げる。

「どこだ?」

男は言った。

「日本最大の美容外科グループです」

沈黙。

湯沢が言う。

「来たか」

男は頷いた。

「まだ正式オファーは出ていません」

一拍置く。

「ですが」

「本気です」

李は静かに言った。

「値段が跳ねますね」

男は言った。

「二十億台後半まで行く可能性があります」

湯沢は小さく息を吐いた。

「銀行の土地」

「十一億」

李が言う。

「銀座は違います」

男は笑った。

「場所が違います」

窓の外には丸の内の高層ビル。

そして三人の頭の中には、

銀座のビルと、

遠く長野の山奥の土地が、

同時に浮かんでいた。

物語は――

美容医療業界最大手の参戦へと進む。

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