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第四十三話 銀座の決断

東京・銀座。

中央通りから一本入った場所に建つ、八階建ての細長いビル。

その七階にあるのが

常田美容外科クリニックだった。

実はこのビル――

土地・建物ともに、常田医師の医療法人名義である。

院長室。

常田はソファに腰掛け、腕を組んでいた。

向かいに湯沢と李。

机の上には湯の沢村の事業計画図。

しばらく沈黙。

やがて常田が言った。

「……信濃銀行は?」

湯沢は答えた。

「役員会決裁」

「GOです」

李が続ける。

「土地取得」

「現金十一億」

「転換社債四億五千万」

常田は小さく笑った。

「やるな」

湯沢は言う。

「ただし条件があります」

常田は眉を上げた。

「聞こう」

湯沢は静かに言った。

「先生のコミットメント」

李が補足する。

「最低十年」

常田は椅子にもたれた。

「十年か」

窓の外を見る。

銀座の街。

昼間でも人通りは多い。

常田は言った。

「ここは儲かる」

湯沢は黙っている。

常田は続けた。

「美容外科は」

「景気に左右されにくい」

「患者も多い」

李は頷いた。

「分かっています」

常田は振り向いた。

「それを捨てろと?」

李は首を振った。

「違います」

そして資料を机に置いた。

「売却です」

常田は資料をめくる。

企業価値評価の資料だった。

ページをめくると、

事業価値 約25億円

さらに次のページ。

土地建物評価 約55億円

常田は小さく笑った。

「合わせて」

「八十億か」

李は言った。

「ただし」

「全部売りません」

常田が顔を上げる。

李は説明する。

「土地建物は」

「先生が保有」

「クリニックに賃貸」

湯沢が続けた。

「つまり」

「法人と事業だけ売却」

常田は頷いた。

「なるほど」

李は言う。

「医療法人」

「ブランド」

「患者基盤」

「医師スタッフ」

「これを譲渡」

常田が言う。

「ビルは?」

湯沢が答える。

「買い手に賃貸」

李が補足する。

「長期賃貸契約」

「安定収入」

常田は少し考えた。

そして言った。

「つまり」

「銀座の不動産は残る」

「事業だけ売る」

李は頷いた。

「そうです」

「その方が合理的です」

常田は資料を見ながら言う。

「事業売却だと」

「いくらになる」

李は答えた。

「現在の収益規模から」

「二十億前後」

常田は小さく笑った。

「美容外科は儲かるな」

湯沢が言う。

「その資金を」

「湯の沢へ」

常田は立ち上がった。

窓の外を見る。

銀座の街。

ここで二十年。

患者を増やし、

ブランドを作り、

ビルまで建てた。

そして今。

それを手放す。

常田は振り向いた。

「湯沢」

「はい」

「山奥で」

「医療リゾート」

一拍置く。

「本気なんだな」

湯沢は即答した。

「はい」

常田は少し黙った。

それから笑った。

「面白い」

机の図面を見る。

湯の沢村。

白樺の湯。

広大な土地。

常田は言った。

「銀座で顔をいじるより」

一拍置く。

「人を本当に治す方が面白そうだ」

李が言う。

「売却の仲介は」

「こちらで手配します」

常田は頷いた。

「いいだろう」

そして静かに言った。

「法人と事業は売る」

湯沢が息を吐いた。

常田は続ける。

「ビルは残す」

「テナントとして貸す」

李は言った。

「それが一番合理的です」

常田は笑った。

「医者なのか」

「不動産屋なのか」

湯沢が言う。

「投資家です」

常田は声を出して笑った。

そして言った。

「よし」

一拍置く。

「銀座を資金源にして、湯の沢を作る」

こうして、

銀座の美容外科クリニック売却計画が

本格的に動き出した。

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