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第四十一話 信濃銀行最上階の大騒ぎ

信濃銀行本店。

最上階、役員会議室。

長い楕円形のテーブルを囲むのは、信濃銀行の経営陣だった。

頭取、副頭取、専務、常務、そして各部門担当役員。

その中央に、資料の束が置かれている。

表紙にはこう書かれていた。

「旧湯の沢工業団地用地 売却案件」

岡谷が説明を終える。

「以上が案件の概要です」

会議室は静まり返った。

そして――

口火を切ったのは、融資担当の常務だった。

「無理だ」

一言だった。

「医療リゾート?」

「地方で?」

「成功例があるのか」

岡谷は静かに言った。

「完全な同モデルはありません」

常務は鼻で笑った。

「つまり前例がない」

別の役員が言う。

「しかも」

「簿価十億の土地を」

「実質十一億で売る?」

財務担当の役員が言う。

「転換社債は株です」

「現金ではない」

岡谷は言った。

「満額換算では十五億五千万です」

別の役員が言う。

「五年後の株など」

「今の価値ではない」

「銀行が株を持つなど論外だ」

会議室の空気が荒れていく。

別の役員が言う。

「そもそも」

「この土地」

「二十年以上売れなかった」

「なぜ今売れる」

さらに別の役員。

「地方の大型開発は」

「何度も失敗している」

「第三セクター」

「リゾート」

「テーマパーク」

「銀行が何度泣いたと思っている」

岡谷は黙って聞いていた。

そして静かに言う。

「だからこそ」

一拍置く。

「第三セクターではありません」

「民間ファンド方式です」

役員の一人が言う。

「ファンド?」

「胡散臭い」

別の役員が言う。

「しかも」

「元官僚?」

「信用できるのか」

岡谷は言った。

「総務省出身です」

役員が苦笑した。

「それはなおさら信用できん」

会議室に小さな笑いが起きる。

しかし議論は収まらない。

「リスクが大きすぎる」

「土地を持っていた方が安全だ」

「簿価を割る可能性もある」

「そもそも銀行の仕事ではない」

喧々諤々――

議論は三十分以上続いた。

やがて。

それまで黙っていた人物が、ゆっくり口を開いた。

信濃銀行頭取。

長谷だった。

「……皆さん」

その声だけで、会議室が静まる。

長谷は資料をゆっくり閉じた。

そして言った。

「この土地」

「いつ買いましたか」

財務担当役員が答える。

「平成の初めです」

長谷は頷く。

「つまり」

一拍置く。

「バブルの時代だ」

沈黙。

長谷は続ける。

「東京から大工場が来る」

「地域は発展する」

「人口は増える」

「土地は値上がりする」

一つずつ、ゆっくり言う。

「我々は」

「それを信じた」

誰も反論しない。

長谷は言った。

「結果はどうだ」

静かな声だった。

「工場は来なかった」

「人口は減った」

「土地は売れない」

「二十年以上」

一拍置く。

「銀行の不良資産だ」

重い沈黙。

長谷は窓の外を見た。

長野の街が広がっている。

そして言った。

「今回の話」

資料を軽く叩く。

「面白い」

役員たちが顔を上げる。

長谷は言う。

「我々バブル世代が残した負債を」

一拍置く。

「その子どもの世代が処理してくれる」

さらに続けた。

「しかも」

小さく笑う。

「地域貢献というお土産付きだ」

会議室に沈黙が落ちた。

長谷はゆっくり言う。

「土地は二十年売れなかった」

「これからも」

一拍置く。

「おそらく売れない」

そして最後に言った。

「ならば」

資料を閉じる。

「賭けてみる価値はある」

役員たちは互いに顔を見る。

長谷は静かに言った。

「岡谷」

「はい」

「条件は?」

岡谷が答える。

「現金十一億」

「転換社債四億五千万」

「三年以内の事業立ち上げ」

長谷は頷いた。

そして言った。

「よろしい」

一拍。

「GOだ」

信濃銀行の役員会は、

静かに結論を出した。

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