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第三十九話 銀行の利益

「地域経済です」

李の言葉に、岡谷は腕を組んだまま動かなかった。

「……銀行の利益になる、と?」

「はい」

李は淡々と言った。

「この計画が動けば」

「まず建設が始まります」

指を折る。

「病院」

「温泉施設」

「ホテル」

「職員住宅」

「研究棟」

若い行員が思わず言う。

「建設融資。そして決済……」

李は小さく頷いた。

「数十億規模になります」

岡谷の視線が少し鋭くなる。

李は続けた。

「そして運営」

「医療法人」

「ホテル会社」

「サービス会社」

「すべて」

一拍置く。

「銀行口座が必要です」

若い行員が小さく笑った。

「確かに」

湯沢が言う。

「職員も数百人規模になるでしょう」

岡谷が聞き返す。

「数百人?」

湯沢は頷く。

「医療スタッフ」

「ホテルスタッフ」

「研究員」

「リハビリスタッフ」

「事務」

「観光関連」

李が付け加える。

「給与口座」

岡谷の口元がわずかに緩んだ。

「なるほど」

李は続ける。

「さらに」

「関連企業」

「食材」

「物流」

「設備」

「クリーニング」

「清掃」

「交通」

湯沢が言う。

「全部」

「地元企業に発注します」

若い行員が資料を見ながら言った。

「……確かに」

岡谷は黙っていた。

李は静かに言った。

「銀行は」

「金利だけで儲ける時代ではありません」

「地域経済が動けば」

一拍置く。

「銀行も儲かります」

岡谷はゆっくり息を吐いた。

そして言った。

「李さん」

「はい」

「あなた」

「元ファンドですね」

李は微笑んだ。

「よく分かりましたね」

岡谷は笑った。

「銀行員より銀行のことを分かっている」

会議室の空気が少し和らぐ。

しかし岡谷はすぐ真顔に戻った。

「ただ」

一拍置く。

「リスクがあります」

湯沢が言う。

「もちろん」

岡谷は続ける。

「地方の大型プロジェクトは」

「何度も失敗しています」

「第三セクター」

「リゾート開発」

「テーマパーク」

若い行員が苦笑する。

岡谷は言った。

「銀行は」

「それを何度も見てきました」

沈黙。

湯沢は静かに言った。

「分かっています」

岡谷が見る。

湯沢は続けた。

「だから」

一拍置く。

「第三セクターではやりません」

岡谷の眉が動く。

「どういう意味です?」

湯沢は言った。

「行政主導では失敗する」

「政治で動く」

「採算を見ない」

「責任が曖昧」

李が続ける。

「だから」

「民間ファンド方式です」

岡谷は小さく頷いた。

湯沢は言う。

「失敗すれば」

「我々が損をする」

「成功すれば」

「利益が出る」

一拍置く。

「それだけです」

岡谷はしばらく黙っていた。

やがて言った。

「湯沢さん」

「はい」

「あなた」

少し笑う。

「元官僚ですよね?」

「そうです」

岡谷は言った。

「なのに」

「官僚っぽくない」

湯沢は肩をすくめた。

「役所を辞めたので」

会議室に小さな笑いが起きる。

岡谷は資料を閉じた。

そしてゆっくり言った。

「分かりました」

若い行員が顔を上げる。

岡谷は続けた。

「この案件」

「上に上げます」

湯沢と李は黙って頷いた。

岡谷は言う。

「ただし」

一拍置く。

「条件があります」

空気がまた引き締まる。

岡谷は言った。

「転換社債」

「四億五千万」

「これは」

資料を指で叩く。

「五年では長い」

李の眉がわずかに動く。

岡谷は続けた。

「銀行が株を持つなら」

「出口が必要です」

湯沢が言う。

「つまり?」

岡谷は静かに言った。

「三年」

沈黙。

「三年以内に」

一拍置く。

「事業を軌道に乗せてください」

李と湯沢が視線を交わした。

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