第三十六話 転換社債
「どう埋めますか?」
岡谷の言葉が会議室に落ちた。
信濃銀行の希望は十五億。
こちらの上限は十二億。
三億の差。
湯沢は隣に座る李をちらりと見た。
李はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「提案があります」
岡谷が頷く。
「伺いましょう」
李は淡々と言った。
「現金十一億円」
若い行員が顔を上げた。
岡谷もわずかに表情を動かす。
李は続けた。
「それに加えて」
「転換社債 四億五千万円分」
一瞬、会議室が静まる。
岡谷が聞いた。
「転換社債?」
李は頷く。
「はい」
「ゆのさわパートナーズが発行する転換社債を御行に引き受けていただく」
岡谷は腕を組む。
「つまり現金十一億と将来価値として四億五千」
李は言った。
「総額としては十五億五千万円…いや、それ以上。」
岡谷は少し笑った。
「面白いが…ただしそれは現金ではない」
李は頷く。
「もちろんです」
そして続けた。
「条件があります」
岡谷が聞く。
「どんな?」
李は言った。
「転換は五年後」
若い行員がメモを取る手を止めた。
岡谷が聞く。
「なぜ五年?」
李は答えた。
「事業の立ち上げ期間です」
指を折る。
「病院建設」
「温泉療養施設」
「宿泊施設」
「リゾート整備」
「軌道に乗るまで」
一拍置く。
「五年」
岡谷はしばらく考える。
湯沢が補足した。
「五年後」
「御行は選べます」
岡谷が見る。
湯沢は続けた。
「社債のまま保持」
「あるいは」
「株式に転換」
岡谷は言った。
「成功すれば株」
李が頷く。
「はい」
岡谷が続ける。
「失敗すれば?」
李は淡々と答えた。
「社債です」
「債権として回収できます」
会議室が静かになる。
岡谷は机を指で軽く叩いた。
「現金十一億」
「転換社債四億五千」
若い行員が小さく言う。
「合計十五億五千万円」
岡谷は湯沢を見た。
「この案はあなたの考えですか」
湯沢は首を振った。
「いや」
隣を軽く指す。
「李の案です」
岡谷は李をじっと見た。
しばらく黙る。
やがて小さく笑った。
「……なるほど」
椅子にもたれる。
「銀行にとっては」
指を折る。
「現金十一億で土地の簿価は回収でき、さらに将来の株式を手に入れられる。」
岡谷はゆっくり言った。
「夢まで付いてくる」
李は表情を変えずに答えた。
「夢ではありません」
一拍置く。
「投資です」
会議室の空気が少し変わった。
岡谷はしばらく黙ったあと、言った。
「……社内で」
「検討する価値はあります」
若い行員が顔を上げる。
岡谷は続けた。
「ただし」
湯沢を見る。
「一つ聞きたい」
湯沢が言う。
「何でしょう」
岡谷は少し笑った。
「五年後」
「その会社は」
「本当に」
一拍置く。
「株に転換する価値があるほど成長しますか?」
沈黙。
李は短く答えた。
「させます」
迷いのない声だった。




