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第三十三話 銀行の論理

会議室の空気が、わずかに変わった。

信濃銀行不動産管理部長の岡谷は、湯沢の顔をじっと見ていた。

やがて、ゆっくりと口を開いた。

「……あの土地を、ですか」

湯沢は頷いた。

「はい」

岡谷は少し笑った。

「正直に申し上げますと」

「あの土地を欲しいと言った方は初めてです」

横に座る行員が小さく咳払いをする。

湯沢は落ち着いて言った。

「そうでしょうね」

李が続けた。

「工業団地としては成立しませんでしたから」

岡谷は頷いた。

「ええ」

「ご存じでしたか」

李は静かに言う。

「開発元の県の第三セクターの破綻。融資額二十億のうち、現金回収十億」

岡谷の眉が少し上がる。

「よく調べていらっしゃる」

李は淡々と続けた。

「残りは土地を差し押さえたが、その後売却できず…現在に至る」

岡谷は笑った。

「ほぼその通りです」

そして腕を組む。

「しかし…失礼ですが」

湯沢を見る。

「なぜ、あの土地を?」

湯沢は答えた。

「医療施設を中心としたリゾートの建設です」

岡谷が少し驚いた顔をする。

「医療?」

李が説明する。

「温泉療養施設をコアに病院と宿泊施設…そしてリハビリ施設。そこにコワーキングスペースも…と考えております」

岡谷は黙って聞いていた。

李は続ける。

「白樺の湯と連携したメディカルリゾート構想です」

岡谷は小さく頷く。

「なるほど」

少し間を置く。

「面白い構想です」

しかし次の瞬間、銀行員の顔に戻った。

「ですが」

「一点、確認させてください」

湯沢が言う。

「どうぞ」

岡谷は言った。

「資金です」

会議室の空気が引き締まる。

「メディカルリゾートはかなりの投資になるでしょう」

湯沢は頷いた。

「その通りです」

岡谷は続ける。

「御社は」

名刺を見る。

「設立1週間の合同会社で実績はありません」

李が静かに答える。

「はい」

岡谷は言う。

「銀行としては本当に買えるのか…それを確認する必要があります」

湯沢はポケットから書類を出した。

机に置く。

岡谷が目を落とす。

そこには資金計画書があった。

李が言う。

「投資ファンドを組成します」

岡谷の眉が動く。

李は続ける。

「医療法人」

「国内投資家」

「海外投資家」

「それぞれ出資予定です」

岡谷が書類をめくる。

ページが進む。

そして、ある名前で手が止まった。

「……これは」

李が言った。

「常田医師です」

岡谷は顔を上げた。

「銀座の美容外科の?」

李は頷いた。

「はい」

「そのクリニックは売却予定です」

岡谷が言う。

「売却益を投資に?」

李は答えた。

「新病院建設資金です」

岡谷はしばらく黙った。

そして、ふっと笑った。

「なるほど…だんだん見えてきました」

湯沢は言った。

「そこで、土地の購入をお願いしたい」

岡谷は湯沢を見た。

「価格は?」

会議室が静かになる。

湯沢は一拍置いて言った。

「五億円」

その瞬間。

岡谷の隣にいた行員が、思わず顔を上げた。

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