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第二十八話 代表

李の言葉が広間に落ちた。

「私は代表にはなりません」

すると、すぐに望月が腕を組んだ。

「なら話は簡単だ」

八十歳の土建屋社長は、当たり前のように言った。

「俺がやる」

一同が固まった。

湯沢が思わず言う。

「えっ」

望月は胸を張る。

「土建屋を六十年やってきた」

「百六十億の金だろうが二百億だろうが」

「現場は現場だ」

「まとめりゃいいんだろ」

すると――

小諸つる江が手を挙げた。

「ちょっとお待ち!」

望月が振り向く。

「なんだ」

つる江は胸を張った。

「じゃあ私がやる」

望月が目をむく。

「はぁ!?」

つる江は言う。

「村の婦人会を三十年まとめてきたんだよ」

「ファンドだろうが何だろうが同じだよ!」

すると、今度は中込梅吉が言った。

「それなら」

「俺もやる」

広間が静まり返る。

梅吉は腕を組む。

「農協の理事をやったことがある」

「金の話なら俺も分かる」

その瞬間――

望月が机を叩いた。

「アホか!!」

怒鳴り声が響いた。

「アホ爺の出番じゃねぇ!!」

広間が爆笑に包まれる。

つる江が怒る。

「誰がアホ爺だい!」

望月が言い返す。

「お前はアホ婆だ!」

梅吉も怒る。

「俺はまだ現役だ!」

望月が指をさす。

「八十五のどこが現役だ!」

「村の老人会じゃねぇんだぞ!」

三人が言い合いを始める。

広間はすっかり騒ぎになった。

そのとき――

静かな声がした。

「……私から一つ、提案があります」

李だった。

広間が静まる。

李はゆっくり言った。

「私の案なのですが」

少し間を置く。

「湯沢さんを代表に据えたい」

一同が湯沢を見る。

湯沢本人が一番驚いていた。

「え?」

「俺?」

望月が眉をひそめる。

「待て」

腕を組む。

「余所者に村の命運を託すのか?」

つる江も頷く。

「それはそうだよ」

「村の金だよ?」

梅吉も言う。

「外の人間に任せるのはどうなんだ」

李は静かに頷いた。

「その懸念は当然です」

そして続けた。

「ですが、理由があります」

広間が静かになる。

李は指を折りながら説明した。

「第一に」

「湯沢さんはこの計画の最初の発案者です」

湯沢が少し困った顔をする。

李は続けた。

「第二に」

「金融機関と交渉できる人間であること」

望月が聞く。

「それはお前がやるんじゃないのか」

李は首を振る。

「私は裏方です」

「代表ではありません」

そして言った。

「金融機関は」

「村の長老ではなく、責任者と話をします」

浅科が静かに頷いた。

「それは事実だ」

李はさらに続ける。

「第三に」

「この計画は」

少し間を置く。

「村だけの計画ではない」

「都市資本」

「海外資本」

「観光事業」

「すべてを結ぶ必要があります」

滋野も静かに頷いた。

「確かに」

李は言った。

「その橋渡しができるのは」

「湯沢さんです」

広間が静まり返る。

望月が腕を組んだまま言う。

「……ふむ」

李は最後に言った。

「村の人間だけで作れば」

「村の会社になります」

「しかし」

「湯沢さんを代表にすれば」

「全国の投資が入る会社になります」

その言葉に、空気が変わった。

望月がゆっくり言った。

「……なるほどな」

つる江が聞く。

「どういうことだい」

望月が言う。

「村の会社に金出すやつはいねぇ」

「だが」

「東京の若いのが代表なら」

「話は聞く」

梅吉も頷く。

「確かに」

浅科が静かに言った。

「理にかなっている」

滋野も微笑んだ。

「私は賛成です」

望月が湯沢を見る。

しばらく黙っていた。

そして――

「……おい」

湯沢が顔を上げる。

望月が言った。

「逃げるなよ」

湯沢は苦笑した。

望月は続ける。

「村の未来だ」

「背負えるか?」

広間の視線が

すべて

湯沢に集まっていた。

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