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第二十七話 村の年寄り

湯の沢村に戻った三人は、その日の夕方、白樺の湯の大広間に呼ばれていた。

畳敷きの広間には、村の年寄りたちが並んでいる。

浅科。

滋野。

そして古老たち。

その中でも一際存在感のある男が、腕を組んで座っていた。

望月。

望月土建の社長。

今年で八十歳になる。

白髪に無精ひげ。

作業着姿。

顔つきは、どう見ても泉谷しげるをそのまま年寄りにしたような男だ。

現役の土建屋で、声も態度もとにかくデカい。

湯沢が頭を下げた。

「――というわけです」

東京での一連の出来事。

李の解任。

六十億円の慰労金。

そして新しいファンドの構想。

すべてを説明した。

話が終わると、広間は静まり返った。

だが、すぐに甲高い声が飛んだ。

「ふざけるんじゃないよ!」

小諸つる江だった。

小柄だが、気の強い老婆だ。

「村の話を勝手に大きくして!」

「挙げ句、クビだって!?」

隣にいた中込梅吉が鼻を鳴らす。

「だから言っただろう。東京の会社なんぞ信用ならん。最初から胡散臭かったんだ」

その瞬間だった。

畳の端で腕を組んでいた望月が、ゆっくり立ち上がった。

八十歳とは思えない動きだった。

「おい」

低い声。

広間が静まる。

つる江が言う。

「なんだい望月」

望月は一歩前に出た。

「さっきから聞いてりゃ」

そして――

怒鳴った。

「何ぬかしてやがる!!」

広間に響き渡る大声。

つる江が目を丸くする。

望月は続けた。

「東京の会社がクソなのはわかる!だがな!」

湯沢たちを指さす。

「こいつらは!村のために東京まで行ってきたんだぞ!」

梅吉が口を挟む。

「だが結果はクビだろう」

その瞬間。

望月が机を**バン!**と叩いた。

「だから何だ!!六十億持って帰ってきてんだぞ!!」

広間が凍りつく。

望月は怒鳴り続けた。

「普通のサラリーマンが!クビになって六十億持って帰ってくるか!?」

誰も答えない。

望月はつる江を睨む。

「文句言うなら、まず六十億持ってきてから言え!」

つる江が黙る。

望月は梅吉にも向く。

「梅吉!胡散臭いだぁ?村の未来の話を最初から疑ってるのは、てめぇらだろうが!」

広間は完全に静まり返った。

望月は荒い息をつきながら座り直す。

「……ったく」

「歳取ると説教ばっかり上手くなりやがる」

その空気を静かな声が戻した。

「……一つ、聞く」

浅科だった。

浅科は李を見る。

「一級証券外務員免許を持つ者が」

「あと一名いればよいのだな?」

李が頷く。

「はい」

浅科は淡々と言った。

「ならば問題ない」

望月が振り向く。

浅科は言う。

「私が持っている」

広間がざわつく。

「一級証券外務員だ」

望月が呟く。

「……教師のくせに何やってんだ」

浅科は平然としている。

「私の専攻は経済学だ」

「現場を知らねば生きた教育は出来ぬ」

「だから必要な資格は一通り取った」

李が静かに頷いた。

「それは助かります」

そのとき。

柔らかな声がした。

「ですが」

滋野だった。

老年の女性。

背筋が伸び、物腰は上品。

どう見ても社長夫人という雰囲気の女性である。

滋野は李を見る。

「六十億では少ないのではありませんか?」

李は率直に答えた。

「はい」

「最低でも三倍」

「百八十億ほどは欲しいところです」

望月が呟く。

「ずいぶんデカい話だな」

滋野はゆっくり頷いた。

「それならば…百億ほど、こちらから出しましょう」

望月が固まる。

「……は?」

滋野は穏やかに微笑む。

「私のハズバンドに頼みます」

望月が聞き返す。

「ハズバンド?」

滋野は答えた。

「アメリカの実業家です」

「国際的ホテルチェーンを経営しています」

李が聞く。

「どちらの?」

滋野は言った。

「タートルホテルズ」

李の表情が変わる。

「……あのタートルホテルズですか…カメさん…だからタートルだったのか…。」

滋野は頷く。

六十億。

そして百億。

合計――百六十億。

望月が腕を組む。

「待て」

李を見る。

「それ、大丈夫なのか」

李が聞く。

「何がでしょう」

望月は言った。

「競業避止義務だ」

「日本レジャー投資を辞めたばかりだろ」

「同じようなファンド作って問題にならんのか?」

李は落ち着いて答えた。

「問題ありません」

少し間を置く。

「代表職に就かなければ」

「日本レジャー投資の規程には抵触しません」

望月が言う。

「つまり」

李は静かに答えた。

「私は代表にはなりません」

広間に新しい問題が浮かび上がる。

――では。

誰が代表になるのか。

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