第二十六話 解任
翌朝。
六本木ヒルズ。
日本レジャー投資 本社。
役員会議室。
長いテーブル。
その周りに取締役たちが座っていた。
空気は冷たい。
議題は一つ。
李の解任。
発言したのは
一人の男だった。
鄧。
李の部下。
四十代。
スーツ姿。
落ち着いた声で言う。
「ファンドマネージャ李は」
「現在、会社の資産を用いない個人的案件に深く関与しています」
役員たちが資料を見る。
そこには
常田美容外科クリニック案件
と書かれていた。
鄧は続けた。
「この案件は会社の投資方針と無関係です」
「さらに九十五億円規模と当社の投資方針から外れています」
別の役員が言う。
「つまり」
鄧が答える。
「個人的感情による投資検討です」
室内が静かになる。
議長が言う。
「李本人の意見は?」
席に座っていた李が言った。
「あります」
静かな声。
「この案件は湯の沢村プロジェクトの将来的な医療リゾート事業の基盤になります」
役員たちが首を振る。
「当社はレジャーファンドだ」
「温泉村ではない」
小さな笑いが起きる。
鄧が言う。
「よって」
資料を閉じた。
「李ファンドマネージャの解任を提案します」
議長が言う。
「採決」
数秒。
手が上がる。
多数。
議長が言った。
「可決」
それだけだった。
李は黙っていた。
議長が続ける。
「なお、慰労金として」
資料を見る。
「六十億円」
役員たちが少しざわつく。
「退任金として支払う」
鄧が言う。
「当社としては最大限の配慮です」
李は静かに立ち上がった。
「了解しました」
それだけ言って
会議室を出た。
昼。
銀座の喫茶店。
湯沢と箕輪が座っていた。
そこに李が来た。
湯沢が言う。
「早かったな」
李は座った。
少し疲れた顔。
そして言った。
「解任されました」
箕輪が固まる。
「え?」
李は続けた。
「日本レジャー投資を追い出されました」
湯沢が言う。
「理由は?」
李は静かに言う。
「常田先生の案件です」
箕輪が言う。
「そんな…」
李は小さく笑った。
「六十億円」
湯沢が聞く。
「何だそれ」
李が言う。
「慰労金です」
箕輪が目を見開く。
「ろ、六十億?」
李は頷く。
「会社としては穏便に追い出したい」
湯沢が言う。
「なるほど」
李はテーブルを見る。
少し間。
「この案件」
静かな声。
「降ります」
箕輪が強い声で言う。
「何それ!」
店内の客が少し振り向く。
箕輪は続けた。
「ここまで来て!村の話も聞いて!常田先生とも会って!それでやめるんですか!」
李は静かに言った。
「降りたくありません」
少し間。
「ですが…降りざるを得ません」
箕輪はまだ怒っている。
湯沢が言う。
「まあ」
二人を見る。
「仕方ないだろ」
箕輪が言う。
「湯沢さんまで!」
湯沢はコーヒーを飲んだ。
「会社クビだろ」
李が言う。
「はい」
湯沢が続ける。
「だったら」
「会社の金も使えない」
李は頷いた。
「そうです」
湯沢は言った。
「責める話じゃない」
そして李を見る。
「むしろ」
少し笑った。
「六十億もらってクビなら」
「大成功だ」
箕輪が言う。
「そういう問題じゃ!」
湯沢が肩をすくめる。
「まあ落ち着け」
李は少し黙っていた。
そしてぽつりと言った。
「もし」
二人が見る。
「一つ」
「条件が揃えば」
湯沢が聞く。
「条件?」
李は言った。
「新しいファンドを作れます」
箕輪が言う。
「ファンド?」
李は頷いた。
「投資ファンド」
湯沢が言う。
「自分でやるのか」
李は答える。
「はい」
少し間。
「ただし」
コーヒーを見ながら言った。
「一つ足りません」
箕輪が聞く。
「何ですか」
李は言った。
「一級証券外務員免許」
湯沢が少し考える。
李は続けた。
「その資格を持つ人物がいれば、ファンドを登録できます」
箕輪が言う。
「つまりその人が必要」
李は頷いた。
「そうです」
湯沢が笑った。
「資格持ってる奴」
少し間。
「そう簡単にいないだろ」
李は静かに言った。
「はい」
窓の外。
銀座の街。
三人の前に
新しい問題が現れていた。
一級証券外務員。
その人物がいなければ
湯の沢村の未来も
常田美容外科クリニックの売却も
すべて止まる。
しかし
三人はまだ知らなかった。
その資格を持つ人物がすぐ近くにいることを。




