第二十五話 ファンドマネージャ
夜の東六本木ヒルズ。
その高層階に
日本レジャー投資株式会社 本社のオフィスがあった。
ほとんどのフロアの灯りは消えている。
しかし
一つの部屋だけ
明かりがついていた。
扉のプレートには
ファンドマネージャ室
と書かれている。
部屋の中。
デスクの上には
大量の書類。
ノートパソコン。
そして
一人の男。
李だった。
静かな夜。
窓の外には
東京タワーの灯り。
李は書類をめくる。
表紙。
常田美容外科クリニック
その下には
財務資料。
設備一覧。
診療実績。
患者数推移。
手術実績。
広告費。
売上。
利益。
李はゆっくり数字を追っていく。
「……」
声は出さない。
ただ目だけが動く。
資料の一枚をめくる。
年間売上
約24億円
李の目が止まる。
次のページ。
営業利益
約9億円
「……」
李は椅子にもたれた。
天井を見る。
そして小さくつぶやく。
「化け物だな」
美容外科。
だが
ここは普通のクリニックではない。
三十年の実績。
銀座。
知名度。
ブランド。
さらに資料をめくる。
手術実績
・二重整形
・鼻形成
・フェイスリフト
・脂肪吸引
その横に
年間件数。
驚く数字。
李は次の資料を見る。
設備一覧
手術室 三室
レーザー機器
脂肪吸引機
麻酔設備
すべて最新型。
さらに
土地・建物評価
李の目が少し細くなる。
銀座。
中央区。
そのビルの評価額。
「……」
そして小さく言う。
「やっぱりか」
机の上のメモ。
李がペンで書く。
最低ライン 85億円
クリニックのブランド。
土地。
設備。
売上。
すべてを合わせると
それが最低ラインだった。
しかし
それで終わりではない。
李はもう一枚メモを書く。
ファンド利益 +10億
合計。
95億円
李は椅子にもたれた。
窓の外を見る。
六本木の夜景。
ネオン。
車。
眠らない街。
そして言った。
「難しいな」
医療法人。
美容外科医。
雇用維持。
さらに
95億円の案件。
普通の医療法人では
まず無理だった。
李は資料を閉じる。
そして
静かに言った。
「でも」
三十年前の手紙。
湯の沢村。
御代田彦衛門。
あの泉。
「やるしかない」
李は再びパソコンを開いた。
画面に検索窓。
そこに
文字を打つ。
医療法人 美容外科 拡大
そしてもう一つ。
後継医師 美容外科
検索結果が並ぶ。
全国の医療法人。
美容外科グループ。
拡大を狙う医療機関。
李は画面を見ながら
小さくつぶやいた。
「九十五億」
少し間。
「払える相手」
静かなファンドマネージャ室。
しかしその夜
李はまだ知らなかった。
この案件を巡って
もう一つの勢力が動き始めていることを。
そしてそれが常田美容外科クリニックの売却をさらに難しくすることになる。




