第21話 東京の医者
白樺の湯のロビー。
夜だった。
テーブルの上にはノートパソコン。
箕輪さやかが画面を見ている。
「ありました」
湯沢と李が身を乗り出す。
画面には検索結果が表示されていた。
名前。
常田 真一
箕輪が言う。
「医師です」
湯沢が言う。
「やっぱりな」
箕輪がページを開く。
そこに出てきたのは
東京のクリニックのホームページだった。
院長の写真。
白衣を着た男性。
年齢は
六十代後半くらい。
李が言う。
「この人ですか」
箕輪が頷く。
「経歴があります」
画面を読み上げる。
「東京大学理学Ⅲ卒業」
湯沢が小さく口笛を吹く。
「エリートだな」
箕輪は続ける。
「大学病院勤務」
「その後」
「美容外科へ」
李が静かに聞いている。
箕輪がさらに言った。
「現在」
「東京銀座で美容外科クリニックを開業」
湯沢が笑った。
「成功してるじゃないか」
李が画面を見る。
高級そうなクリニック。
整形手術。
美容医療。
都会の世界だった。
箕輪が言う。
「かなり有名みたいです」
湯沢が言う。
「テレビにも出てる」
箕輪が頷く。
「講演も多いですね」
李はしばらく黙っていた。
三十年前。
この村に病院を作ると書いた医者。
しかし今は
東京の美容外科医。
成功者。
湯沢が言った。
「戻ってくると思うか」
李は答えなかった。
代わりに聞いた。
「年齢は」
箕輪が言う。
「65歳です」
湯沢が言う。
「まだ現役か」
箕輪が頷く。
「院長です」
李はゆっくり言った。
「会いに行きます」
湯沢が聞く。
「東京まで?」
李は頷く。
「はい」
箕輪が言う。
「いきなり会えますかね」
湯沢が笑う。
「美容外科の院長だぞ」
「予約だけで大変だ」
李は少し考えた。
そして言った。
「手紙があります」
湯沢が見る。
三十年前の手紙。
御代田彦衛門 宛
李は言った。
「これを見せれば」
箕輪が小さく言う。
「会ってくれるかも」
湯沢は腕を組んだ。
「面白い」
そして言った。
「俺も行く」
箕輪が言う。
「私も」
李は少し驚く。
湯沢が笑った。
「村の話だからな」
箕輪も言う。
「白樺の湯の未来です」
李は静かに頷いた。
「わかりました」
こうして
三人は決めた。
東京へ行くことを。
三十年前に
湯の沢村の未来を考えた医者。
常田真一。
その人物に
直接会うために。
しかし
このとき三人はまだ知らなかった。
その常田が
いま
東京で
ある問題を抱えていることを。
そしてその問題が彼を再び湯の沢村へ向かわせることになる。




