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【第1章完結】次期勇者になる予定でしたが裏切られ全てを奪われてしまったので次期魔王になります。  作者: 松竹梅竹松
第1章

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第1章 第9話 犯罪者

「少し揺れます。じっとしててください」



 上級モンスターの希少素材を一メートル四方の結界に収めたクロが、さらに大きな結界をシオンも含めた周囲に張り巡らす。言葉通り少しの揺れが三十秒ほど続くと、屋敷の中にいた二人は木箱が積み重なった倉庫のような場所に転移していた。



「今のは?」

「結界内の転送は見えている場所を除けば事前にマーキングした地点に限ります。遠ければ遠いだけ疲れますし時間もかかる。加えて勇者以外の出入りを禁じる結界の遠隔書き換え。結構大変なんですよ、外の世界に出るのは」



 少し息切れした様子で額に浮かんだ汗を拭うクロ。そもそも転送もマーキングも遠隔どころか結界の書き換えも人間の結界術にはない技術。この一ヶ月クロから転送術を教わり続けたシオンだが、相変わらずの技術力の高さに舌を巻くばかりだ。マーキングと思われるクロの足元にある小さな魔法陣を調べてみようとシオンがしゃがみ込むと、そのタイミングで倉庫の扉が開いた。



「お久しぶりですお嬢……げっ!? シオン・オーラ!?」

「お前は……イーダ!」



 喪服を思わせる漆黒のスーツを身に纏ったサングラス姿の男。シオンの姿を見た瞬間跳び上がった彼に対し、シオンはナイフを構え臨戦態勢を取る。



「知り合いですか? シオンくん」

「裏社会の闇ブローカー……せこせことした小さい取引にしか手を付けないせいで懸賞金はかなり安いが、追手が少ないのをいいことに多くの犯罪組織とつながりのある情報屋だ。本来小物のはずだがこいつを捕まえられれば王都の犯罪を三割は減らせるとも言われている。中々足を掴めなかったがこんなところで会えるとはな……!」


「ちょ、ちょっと待ったお嬢! 俺はあんたの言いつけ通り他人を傷つけるような犯罪は犯してねぇ! それなのにこんな大物を連れてくるなんてひでぇじゃねぇか!」

「とりあえず二人とも落ち着いてくださいね」



 一触即発状態の二人に、クロはお互いの事情を伝える。クロとイーダの出会いは約七年前。生活に困り人身売買で生計を立てようとしたイーダが初めにターゲットとして選んだのが森を一人で歩いていたクロだった。一瞬で返り討ちに遭ったイーダは人間社会の情報源として契約させられ、捕まる可能性の低い小悪党として生きることを義務付けられたのだという。



「あの次期勇者のシオン様が魔王ねぇ……俺と同じ裏社会の人間になったってわけか……成功者の失墜ほどのエンタメはねぇな」



 シオンの事情を知ったイーダは同類を見るかのような視線でシオンを眺める。



「どうだい魔王の若旦那。犯罪者だと見下してた俺と同じ立場になった感想いだだだだ!」

「シオンくんは魔王、あなたは小悪党です。一緒にするのも烏滸がましい。あなたは黙ってこの素材を買い取ればいいんですよ犯罪者」



 小さな結界に足を踏み潰され悶えるイーダ。一般人が相手だったら止めてもいいが、彼の言う通り同じ裏社会の人間同士。どんな目に遭っていても同情の余地はない。



「さてとシオンくん、着替えて買い物に行きましょう」

「ああ、例の魔力を抑える服だな」



 普通に人間と話しているシオンとクロだが、彼らの身体からはモンスターと同質の魔力が漲っている。イーダがクロの来訪に気づいたのも異質な魔力を感じたからだ。



「重ねて言いますけどこの服を着た状態では魔法は使えません。くれぐれも揉め事はなしでお願いしますよ」



 クロが両の手を合わせると、二人の身体を結界が包み込む。すると一瞬の内にクロの軍服がゴスロリ調のドレスへと変化した。品のある黒い出で立ちはまるでどこかの貴族のお嬢様のようだ。対してシオンは……。



「お前……趣味が出すぎだろ……」



 格式高い燕尾服のスーツ。髪はオールバックに上げられ、度の入っていない眼鏡までつけられている。これは以前クロが語っていた、理想の執事と同じ服装だった。



「ここはお屋敷の外。私たちの主従契約とは無関係です。つまり今日は私が主人でシオンくんがペッ……執事です」

「何もつまりってないしペットにしようとしたな」


「いいじゃないですかどうせ変装は必要ですし、異国から外遊に来たお嬢様とその執事という設定もあった方がやりやすいでしょう? 執事はお嬢様に密かな恋心を抱いているけど、身分の差もあってそれを打ち明けられずにいた……なんて設定でいかがです?」

「演劇でもやれって言いたいのか?」


「リアリティが過ぎるに越したことはないんですって。それに何よりシオンくん執事の格好似合っていますよ? どうです私のお嬢様姿は。かわ?」

「……いいんじゃないか、一般的には」


「ふーん……まぁいいでしょう。六十点です」

「それはどうも」



 なんてイチャイチャと話をしながら倉庫を出ていこうとする二人。その背中にイーダが面倒くさそうに声をかける。



「俺はお嬢に脅されてるだけで仲間ってわけじゃない。だからこれを信じるかどうかはあんたら次第だ」



 サングラス越しに見える小さな瞳が捉えるのは、魔力を持たないシオンの姿。



「真の勇者、ウォルツ・スペードのロビー活動は中々本格的だ。今や世間は完全にウォルツの味方。今までの功績も忘れてシオン・オーラは悪人だって風潮ができてる。精々気をつけな。正体がバレれば間違いなく殺されるぜ」



 現在シオンとクロは魔法が使えない。服を脱ぎ捨てたとしても、クロのダンジョンへの転送は時間がかかる。正体がバレる=死。二人の危険な買い出しが始まった。

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