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【第1章完結】次期勇者になる予定でしたが裏切られ全てを奪われてしまったので次期魔王になります。  作者: 松竹梅竹松
第1章

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第1章 第16話 机上の空論

 ウォルツ・スペードはかわいそうな被害者だった。四歳の頃生まれ故郷をモンスターに滅ぼされ、駆けつけた国王軍によって保護された唯一の生き残りである彼はその後王都で暮らすこととなった。



 多くの人が助けてくれた。軍人の一人が親代わりになってくれて、仲間の軍人もひとりぼっちになってしまった彼を寂しがらせないようにとても良くしてくれた。そして何よりウォルツには他にない能力があった。



 ウォルツの生まれ故郷の村に代々伝わる、モンスターを操る『魔操魔法』。命を救うことを条件に、モンスターを自身の配下にするチート魔法だ。故郷を滅ぼされた怒りと助けてくれた人間への恩。それを胸に世界を救う英雄になる。そんな栄光のストーリーを思い浮かべていた。



 しかしそんな覇道を歩もうとしていたウォルツの前に障害が現れた。彼と同じく生まれ故郷をモンスターに滅ぼされた少年、シオン・オーラだ。ウォルツが助け出された一年後王都にやってきた彼は、魔法も扱えず家族を見捨てモンスターから逃げ出してきたという。その明らかな格下の登場に、ウォルツの心はさらなる安寧を覚えていた。



『才能も勇気もないなんて。かわいそうな奴だ』



 しかしシオンは自分をかわいそうな被害者でいることを良しとしなかった。ただなんとなく夢物語を描いていたウォルツとは異なり明確な復讐心を宿らせていたシオン。子どもの身でありながらたった一人で生活し、魔法を独学で学び、一年後には単独でモンスターの群れを対処できるほどになっていた。



 それでもウォルツの心に波風は立たなかった。ただの汎用魔法であるバフを撒くだけのシオンに対し、モンスターを操るという特別な能力を持つウォルツ。現時点での力量はシオンに軍配が上がったが、いずれその立ち位置はひっくり返る。そう思い被害者の立場を堪能していた。



 それから九年が経過するのはあっという間だった。気づけばシオンは次期勇者と呼ばれるまでに力を付け、遊び惚けていたウォルツの身体は魔操魔法を忘れていた。自分を花よ蝶よと育ててくれた軍人たちもシオンの才覚に惚れ込んでいた。かつては見下していたはずの少年の瞳が、自分を見下しているように感じられた。



『馬鹿にしやがって……』



 シオンは多くの人を救い、多くのモンスターを討伐している。だがウォルツは毎日喧嘩に明け暮れ、授業にすらまともに出ていない。もはや二人は比べる土俵にすら立っていなかった。だがそれは現時点の話。今までサボっていた修行を再開すれば魔法だって思い出せるし、バフ魔法の弱点は把握している。今は本気を出すのが面倒なだけで、いつでもシオンなんか倒せるんだ。



『本気を出せば、その気になれば、やろうと思えば』



 だがその機会が訪れることはなく、『神託』によってウォルツは勇者の才に目覚め、シオンは何の才能もないと魔力を没収された。うれしかった。人々の温かさに触れた時とは比べ物にならないほどの幸福に包まれていた。ここからシオンによって奪われた覇道を歩くことができる。そのはずだったのに。



「ククク……ははははは……!」



 シオン・オーラはまたも自身の前に立ちはだかってきた。モンスターの気配を漂わせながら、勇者パーティーを薙ぎ倒し、高笑いを上げている。まさしくウォルツにとって、シオンという存在は魔王だった。



「調子に乗んなよ……お前は負けたんだ……!」



 デバフが解けたのか、ウォルツの身体は自由に動くようになっていた。シオンから奪い取った大剣『時渡(ヴィジョン)』を拾い上げて構える。



(あの魔力……シオンはモンスターになった。さっきまでのデバフやドーラの魔法を吸収したのはモンスターとしての能力だ。だからあの『強化(ライズ)』や魔力は一時的なもの。何も全盛期が帰ってきたわけじゃねぇ)



 今まで見せたことのない感情の爆発を表しているシオンに対し、ウォルツは冷静だった。



(『強化(ライズ)』や『強化撃(ライジングインパクト)』には大きな弱点がある。使用後の一瞬魔力がオフになる。アルピナ相手には通じたし、ドーラたちを蹴散らした時もその弱点が出ていた。加えてドーラから奪い取った魔力分じゃ上級魔法は使えない上、俺の勇者の身体は魔力を祓う。不意の一撃となると話が別だが、来るとわかっていればどんな一撃だろうと一発は耐えることができる。そこをカウンターで仕留め殺す)



 ずっと思い描いていたシオンの攻略方法。負ける道理はない。



「シオン! よくも俺の仲間をやってくれたな! 俺はお前を許さない! 正義は勝つと証明してみせる!」



 もちろん勇者としてのパフォーマンスも忘れない。通行人数十人相手にはどうでもいが、この場には国王軍の重鎮もいる。シオンには悪として死んでもらわないと困る。そして今は絶好のチャンスだ。



「はは……ああそうだな、勇者なら魔王は倒さないとな」

「何を笑ってる! 人々を恐怖に陥らせて楽しいか!?」


「あー……それはどうでもいい。誰かのためとかそういうのはもうやめたんだ。ただ俺はやりたいことをやってるだけ。魔法の可能性を追求してるだけだ。バフができればやれることはもっと増える。理想が実現するのは楽しいだろ? だからもっと寄越せ。俺がこの世界を支配してやる」

「心までモンスターに堕ちたか……下種め! 俺が魂ごと浄化してやる!」



 本当に闇堕ちしたかは定かではないが、そう見えることは確か。やりたいことをやっているのはウォルツも同様だが、それを実行するのと口に出すのでは周囲からの反感が違う。



(こんなに都合がいいなんてな……やっぱり俺こそが勇者だ)



 心の中でほくそ笑み、正義の仮面を表情に宿す。その一方、シオンは笑いながら唱えた。



「『強化(ライズ)』」



 瞬間シオンの魔力量が一時的に増大する。だがやはり想定していた通り。この程度の魔力量であれば、一撃は耐えることができる。そして吸収した魔力量から算出すれば、これ以上のバフはかけられないはずだ。



「『強化(ライズ)』『強化(ライズ)』『強化(ライズ)』『強化(ライズ)』『強化(ライズ)』!」

「……は?」



 しかしシオンの強化は留まることを知らなかった。幾重もの詠唱の度にシオンの身体から莫大な魔力が涌き上がってくる。その魔力量は三度目の強化の時点でウォルツの限界を超えてしまっていた。



「な……んで……そんなにバフが……!?」

「上昇した魔力を基にしてさらにバフを唱える。俺がよくやってた手だろ。お前どんだけ勉強不足なんだ?」



 ウォルツの認識は九年前で止まっていた。直視してしまえば現実が見えてしまうから。だから知らなかったのだ。人は成長するものだと。



「さっきのデバフもそうだが、お前に対する魔法の効きが悪かった。勇者の魔を祓う能力のせいだろ? だったら対処するさ。当たり前だろ」



 気づいた時にはシオンの顔が目の前にあった。慌てて剣を振るうが、今度は遥か後方に下がっている。かと思えば次の瞬間にはウォルツの横に立っていた。



「『強化(ライズ)』。それとカウンター狙いなのが見え見えすぎる。大方バフ終了時の一瞬の隙を狙うつもりだったんだろうが、油断してなきゃアルピナにも通用しないぞ。『強化(ライズ)』。これは前も言ったが大剣の扱い方が下手過ぎる。少しはマシになったかと期待してみたが無意味だったな。これも言ったはずだがコツコツ努力するのは簡単なことじゃない。もっとしっかりしてくれよ勇者様」



 合間合間にバフを唱えてバフ時間を伸ばしながら煽るようにアドバイスをするシオン。ひたすらにウォルツは剣を振るうが掠りすらしない。



「クソ……舐めやがって……舐めやがってぇぇぇぇ!」



 一転全く計画通りに事が進まなくなってしまったウォルツは叫ぶことしかできなかった。ウォルツは決して無能ではない。作戦を立案することはできる。だが失敗した時のフォロー、立て直しが絶望的に下手だった。それは才能がないからではない。ただひたすらに経験不足が響いていた。



「さて、次は俺の番だ。実験に付き合ってもらうぞ。『最上強化(テラライズ)』」



 シオンがバフを唱えた瞬間、彼の身体から溢れていた魔力が完全に消失した。それと同時に涌き上がってくる、絶望的なまでに巨大なモンスターとしての魔力。結界すら突き破り溢れてくる陰の魔力がウォルツの身体を呑み込んでいく。



「バフによる陰魔力の強化……やはり陽と陰とは相性が悪い。出力が想定より遥かに下回っている。じゃあ次だ」



 ウォルツとは異なり失敗した瞬間次の計画へと移行するシオン。腕を引き、殴打の構えを取る。



「『最上強化(テラライジング)――」

(……来る!)



 『強化撃(ライジングインパクト)』の気配を察知したウォルツの身体は、今までのやり取りも忘れて反射的にカウンターに備えていた。一度決めたらそれ以外に応用が利かない。初心者にありがちな初歩的な愚策。だからこそ見誤ってしまった。



「――吸収(ドレイン)』」



 シオンの拳がウォルツの腹にめり込む。しかし吹き飛ぶような威力も動けなくなるほどのダメージもない。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 それでもウォルツは悲鳴を上げていた。痛みはないが、それ以上の衝撃がウォルツの身体を巡っていく。それが数秒続くと、ウォルツの身体は床に倒れていた。



「力が……入らねぇ……何しやがった……!?」



 倒れたままシオンを見上げるウォルツ。その瞳に映ったのは、殴った右拳に黄金の光が宿ったシオンの笑顔。



「ははははは! 魔法の対象の詳細指定……理論上はできると思っていた! でも実際にできたとなると……クク。人間はどっちについてくるかな」



 その光には見覚えがあった。一ヶ月前、『神託』の儀でウォルツを包み込んだ光。あれを浴びた瞬間、ウォルツの身体にかつてのシオンと同等の魔力が宿った。そしてその光は今、シオンの元にある。それが意味することは。



「お前の勇者の才能。俺が吸収してやった」



 勇者であることにしか価値がないウォルツにとって、絶望の答えだった。

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