表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】次期勇者になる予定でしたが裏切られ全てを奪われてしまったので次期魔王になります。  作者: 松竹梅竹松
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

第1章 第14話 魔王降臨

 世界最大国家ウォール国。かつて魔王を討伐した原初の勇者生誕国として国家間の関係の先頭に立ち、100年以上勇者が誕生していないにも関わらず依然その位置をキープしているまさに世界最強の国だ。



 その王都の中心にあるのは王城ではない。原初の勇者ウォールを祀った広場だ。高い壁に囲まれたウォール広場はその堅牢性から国際会議の会場になることが多く、高い位置に建てられた舞台上では勇者ウォール、魔王によって封印された女神など魔王討伐時のパーティー四人の銅像が広場を見下ろしている。



 普段は解放されていて家族が賑わう公園の役割を担っているが、今日の広場に和やかな空気は流れていない。市民や国の要人、警備の国王軍や冒険者。王都に暮らす多くの人々がすし詰め状態になっており、高揚した顔で舞台を見上げている。



「善良なる隣人の皆々様。本日はお集まりいただき感謝する」



 そこに現れたのは、ウォール国で100年間生まれなかった、魔王を討伐する力を持つと言われる勇者ウォルツとそのパーティーメンバーのドーラ、カイ、そしてアルピナ。主役の登場に観衆たちのボルテージは最高潮に高まった。



「それではアルピナ・ムーンの処刑を開始する!」



 勇者のその一言と共に、観衆たちは歓声を上げて手を叩く。全てはウォルツのシナリオ通りだった。



「知っての通り次期勇者と呼ばれたシオン・オーラは正義ではない。女神によって正体を暴かれ、魔王と契約して勇者の才を奪おうとした最低の悪だ。シオン・オーラは偽者とはいえ勇者らしく多くの人々を救ってきた。信じられない者も多いでしょう。ですが今回たまたま。興味深い映像を撮影することができたのでご覧いれよう」



 ドーラが杖を高く掲げると、広場の上空に映像が流れ始める。シオンとアルピナだけが知る秘密の修練場で、アルピナがウォルツを殴り飛ばしている映像だ。それを耐えたウォルツが逆にアルピナの腹に拳をめり込ませ、彼女の身体が地面に倒れたところで映像は終わる。



「ここにいる少女、アルピナ・ムーンはシオン・オーラの弟子でした。シオン・オーラに洗脳されているのでしょう、なんと彼女は身勝手にも復讐として俺を殺そうとしたのです」



 両手を背中に回され、手錠で拘束されているアルピナ。彼女の腹部の衣服は破れており、赤黒く染まった腹が晒されている。それがこの映像の正当性を高めていた。



「もちろん俺は勇者。こんな悪に負けるなどありえないが、だからこそ示さなければならない。この人の心を失った世紀の悪女を処刑し、正義は必ず勝つのだと!」



 再び広場を大量の歓声が埋め尽くしていく。「勇者様」、「正義を見せてくれ」、「悪は滅ぼしてくれ」、「殺せ」、「殺せ」、「殺せ」と。



「……初めからこれを想定していたのですか?」



 歓声と罵声が巻き起こっているせいで舞台上の会話は観衆には届かない。アルピナが苦しそうな表情でそう訊ねる。



「お前、俺を下に見てただろ」



 その問いへの答えは、ウォルツの根底だった。



「だからあの時、お前は最上強化を止めて普通のバフで殴りかかってきた。本気を出せば殺しちまうと思って手加減したんだ。甘ぇんだよ馬鹿が。勇者の肉体は魔を祓う。それはモンスターだけじゃない、魔力だって同じだ。お前が俺を気絶させるのに充分だと思った魔力は俺に触れると同時に萎んで凪いだ。つまり全然ダメージになってなかったんだよ」



 その発言に嘘はないとアルピナはわからされていた。今彼女を拘束している手錠はウォルツの魔力を基に作られたもの。魔を祓う能力はアルピナの魔力を封じ、魔法を使うことができなくなっていた。



「それとなんだっけ? 『強化撃(ライジングインパクト)』だっけか。あの技には弱点がある。バフで高めた魔力を一気に放出するあれを撃った直後、魔力が一時的に空になるんだ。お前らバフ中は自前の魔力をオフにしてるよな。たぶんそっちの方が運用が楽なんだろうが、それが命取り。一度受け切っちまえばカウンターでどうにでも対処できる。本気で殴ってりゃこんなことにはなってなかったのになぁ」



 敗因を教えられ、アルピナは押し黙るしかなかった。手加減していたのもバフの弱点も事実だったからだ。



「そもそも勇者になろうがなるまいがシオンの馬鹿にはいつだって勝てたんだ。本気さえ出せばあんな奴に負けるわけがねぇ。あいつがイキがってられたのは俺が手を抜いてやってたからなんだよ」

「……負け惜しみにしては現実が見えていませんね。本気を出せばなんて言っている人は決まって本気が出せない人間です。あなたが落ちこぼれだったのはあなたが言い訳したかったからでしょう?」


「……お前やっぱりあいつの弟子だな。死に際に説教なんてしやがって。お前もシオンも俺に負けたんだよ! それだけが事実だ!」

「正面からでは勝てないから汚い手を使って結果だけでは勝利した。よかったですね、私たちに勝利できて」



 感情が見えない表情で淡々と煽るアルピナ。それに一番嫌いな人間の陰を見て殴り飛ばしたい衝動に駆られるウォルツだが、衆目の手前感情に任せた暴力はできない。黙って虚空を蹴り飛ばす。



「それにしても馬鹿だよねぇ。黙ってパーティーに入ってればよかったのに」

「そうそう。何もしなくたって勇者パーティーってだけで正義。こんな楽なことねぇぜ」



 黙ってしまったウォルツに代わり、ドーラとカイが憐れみと嘲りの混じった表情で嘲笑する。



「……楽ですか。楽をしようなどと思ったことはありません。どれだけ辛くても、大変でも。私にはなりたいものがありました。それが果たせなかったことだけが心残りです」



 やがて観衆たちの歓声が収まり、いよいよ処刑の時が訪れる。



「勇者になる、お前はそう言ってたな。でも考えてみろよ。100年も現れなかった勇者の才能が二年続けて現れるわけねぇだろ。お前は勇者にはなれねぇよ。俺こそが勇者だ」



 歓声が収まる寸前、ウォルツは観衆には聞かせたくない言葉を浴びせて背中の大剣の柄に手を伸ばす。いよいよアルピナに最期の刻が迫っていた。人生の終わり。それでも頭にあるのは憧れだけだった。



「私はそんなハリボテになりたいだなんて思っていません。強さも才能も関係ない。そんなものがなかったとしても、私にとっての勇者はあの方ただ一人です」



 これ以上言い残すことはない。憧れの人の剣で逝けることがせめてもの救いだ。迫りくる死に対し目を瞑って受け入れたその時。



「『最上弱化(テラアンチライズ)』」



 ウォルツは大剣の重さに耐えきれず、片膝をついてその場にうずくまった。まるで『神託』の儀の時のシオンのように。



「この魔力……モンスター!?」



 せめて静かな心で死を受け入れようと考えていたアルピナの心にざわめきが巻き起こった。今まで感じたことのない、異常なまでに濃いモンスターの気配が広場に充満する。それを察知した観衆たちも我先にと広場から逃げ出そうとする。しかしその出口を突然出現した結界が塞いだ。



「新たな歴史の幕開けです。愚衆には残ってもらわないと」



 観衆たちがパニックに陥る中、舞台の中心に一人の少女が現れた。軍服のような、漆黒の衣装を身に纏った少女。その少女が現れた瞬間、要人の警備に当たっていた国王軍の重鎮が一斉に跳び上がる。この不気味な魔力の源が彼女であると、理性以上に本能が叫んでいた。



「図が高い」



 だが彼らの高度は舞台にまでは届かず、空中で制止する。魔力を消失させる結界が彼らを包み込んだのだ。



「なんなのこのモンスター……詠唱もなしに結界術を!?」

「それより何なんだよこの魔力!? もしかしてこいつが魔王……!?」



 舞台上にいたせいで誰よりも近くで不気味な魔力を浴びたドーラとカイが、今にも泣き出してしまいそうな顔で後ずさる。そんな中軍服の少女は手錠で拘束されたアルピナを見てニヤリと口角を上げた。



「いい格好……気づきませんでしたよねお弟子さん。シオンくんの魔力が漏れ出た時……結界を空に創って魔力の源を分散させたあの時です。念のためあなたにマーキングをしておいたんです。私の主は案外めんどくさくてですね。色々と何をしでかすかわかったものじゃないんですけど、あなただけは絶対に守りたいと言い出すだろうと思って。まぁそのめんどくさいところがメロくはあるんですが……あぁそうそう。一番は私です。これだけは譲りませんから」



 少女の言葉の意味をアルピナは理解することができない。だがこれだけはわかった。



「シオン……くん……って……!」

「てめぇ……何者だ……!」



 その名前を聞いた瞬間、絶望に満ちていたアルピナの顔に光が灯り、デバフにより大剣の重量を支えきれなくなったウォルツが汗まみれの顔を上げる。その二人の顔を見比べた少女、クロはクスリと笑うと両の掌を重ねた。



「人類と敵対するのが魔王の務め。人類が愚かな選択をするのだったら、彼はそれを認めない。あなたは一番怒らせてはいけない御方を目覚めさせてしまったんですよ」



 クロは空間転移により主を舞台上に呼び出した。転送の結界と重なったことにより勇者の銅像は崩れ、その残骸を踏みつけながら彼は現れる。そしてクロは一歩前に歩み出ると、より濃くなったモンスターの魔力に怯え逃げ惑う人々に向けて叫ぶ。



「刮目せよ! この御方こそ真の救世主! 巨悪となりて世界を創り変える次代の魔王シオン・オーラ! その恐怖、とくと味わいなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ