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20.仲間探し

 傭兵ギルドフェルマニス支部は一階がギルド受付、そして二階が大きな酒場となっている。

 酒場フロアには幾つもの丸テーブルと椅子が転がるように乱雑に配置されていて、椅子に座りきれなかった輩は酒を片手に立ち飲みを決め込んで騒ぎ散らしている。

 ユウは運良く空いていた席に腰掛け本日のおすすめビール、『グランコール』を片手にひとり視線を泳がせていた。

 受付嬢のモーラがギルド二階の酒場で仲間を探すといいと教えてくれたので来てみたが、酒場内は半分揉みくちゃ状態で仲間探しなんて雰囲気は無い。

 ここにいる殆どが熟練の傭兵達なのだろうが、どいつもこいつも酒浸りの酔っ払いだ。この中の誰かとパーティーを組むなんて考えるだけでも嫌悪だった。

 そもそもユウは誰ともパーティーなんて組みたく無い。人間なんて誰も信用ならない。肝心なところで裏切られたらどうする。騙されて襲われて身ぐるみを剥がされたらどうする。関わりを持つからあの時のように痛い目を見るのだ。


 ――ちっ、どいつもこいつもぎゃーぎゃーと……。


 心の中で毒を吐きつつも、この中から誰か仲間となる人材を探さなければならない。

 しかしながら、誰も彼も一人で飲んでる奴なんて居ない。殆どが数名のグループで飲み話している。多分きっと彼らは皆既にパーティーを組んでいるのだろう。だったら彼らに俺の仲間になってくれとは頼み辛い。寧ろこっちから仲間に入れてくださいと頼むべきなんだろう。


 ――くそっ、何で俺がこんなヤツらに頭下げてまで仲間に入れてもらわなきゃならないんだ。


 最悪だ。もう既にやる気がでない。しかしやらなければ迷宮探索依頼は受けられない。人と関わらず生きていきたいというユウの囁かな願いはまだ叶いそうもない。


 ――今回限りだ……迷宮の依頼が終わった絶対にパーティーなんて抜けてやる。


 ユウは渋々と近くで飲んでいた四人組の男達に声をかけた。


「あのーすみません」

「んあ?何だい兄ちゃん」

「皆さんはパーティーを組んでるんですよね」

「あ〜そうだけど」

「その、よかったら俺を仲間に入れてもらえないかと思って……」

「仲間ぁ?」


 三秒後、男達の大笑いが始まった。酒を吹き出し、机を叩き、腹を抱えて笑う男達。


「だはははっひひひっ」

「おいおい初心者丸出しのお坊ちゃんなんか必要ねーよ」

「武器は扱えんのか兄ちゃん?ああ?」


 男達は心底バカにした顔でいる。

 最初は呆気にとられたが、何だかだんだん腹が立ってきた。

 すると手前の男が少し落ち着きを取り戻して言った。


「わ、わりぃな兄ちゃん……だがな、メンバーが増えるってことは俺達の取り分も減るってことだ。俺達の仲間になるならそれ相応の働きがいるってもんさ。兄ちゃんには悪いが……なぁ」


 男はユウの身なりを上から下まで舐めるように見て、また吹き出しそうな笑いを堪えている。

 ユウは拳を握りしめて彼らに背を向けた。


 ――くそくそくそっ、次だ……。


 続いて声を掛けたのは少し若めの優しそうな男女のグループだ。歳もそこまで離れていないし、可能性はありそうだ。そう思ったが、


「すまない……今のパーティーの状況的に新人を迎え入れる余裕は無いんだ。他を当たってくれ」


 シンプルな断りが一番効く。あの迷惑そうで、けれど困ったような目線は恐ろしさすら感じる。

 その後も何グループかに声を掛けてみたが、ボロボロの身なりに装備無しの駆け出しを迎え入れてくれる奴らなんていなかった。

 俺だって好きでお前らに頭下げてるわけじゃねえんだよと叫びたくなったが、今後自分の職場になる場所だし揉め事は避けたいので何も言えない。

 ユウのイライラが限界値まで到達し、もうパーティー探しなんて諦めようなんて思えてきた矢先だった。

 近くのテーブルから声が飛んできた。


「おいお前、パーティーに入りたいんだって?」


 振り向くとテーブルに足を乗っけて偉そげに座る大男がいた。分厚い鉄の鎧を身にまとった身長二メートル近くありそうな巨漢だ。その周りには熟練っぽい四人の傭兵がいる。彼らも多分パーティーを組んでいるのだろう。


「俺達の仲間に加えてやろうか?」

「え、ほんと――」

「ただし、雑用係としてな」


 その瞬間一同大爆笑。ゲラゲラとまるで品無く笑っている。これまで声を掛けた中で一番最悪の連中だった。中でも鎧の巨漢は酷い悪人面で、性格の悪さが嫌ってほど伝わってくる。

 その鎧が口元を釣り上げて言った。


「もちろん報酬は払ってやる。あ〜そうだな、ひと月に銅貨一枚でどうだ?」


 また一同大爆笑。


「聞こえてきたぜ?お前迷宮探索の依頼を受けたいんだってな?言っとくがお前みたいな雑魚が迷宮探索だなんて百年早ぇ。舐められちゃ困るんだよ俺達の仕事を」


 巨漢は立ち上がると、額が当たりそうなくらい顔を近づけて下品に笑った。


「まったく最近は金さえ払えば誰でも彼でも傭兵を名乗れるときた……困ったもんだ。お前みたいなのはその辺の山で草引きでもやってるのがお似合いだぜ」


 そう言って男はユウの顔に唾を吐き捨てた。

 生ぬるい汚れが頬を垂れる。

 殺意と嫌悪が腹の内に渦巻いている。

 一瞬マナブラストで消し飛ばしてやろうかと頭を過ぎったが、いやいやと踏み止まる。

 問題を起こせば仲間を探すなんて出来なくなる。それに騒ぎを起こして衛兵が来ても困る。もしも城内関係者に顔を見られたら、第一王女達に生きていたことがバレる可能性だってあるのだ。ここは一時の怒りに任せて短慮な行動をとるわけにいかない。

 ユウは一度深呼吸したあと、何も言わずに彼らへ背を向けた。

 すると、


「おいてめえ、何無視してやがんだ!」


 男がユウの肩に手を伸ばした。

 向けられたその僅かな殺気に身体が反応して、ユウは反射的に男の腕を掴み投げ飛ばした。

 ガッシャンとテーブルをぶっ潰し、二メートルの巨漢がダイブする。審判がいたら即座に旗が上がるだろう見事な背負い投げだった。


「て……てんめぇえ…………」


 ゆらゆらと怒りを滾らせて、ビール塗れになった巨漢はゆっくりと立ち上がった。


 ――や、やっちまった……つい反射で……。


 しかし取り返しはつかない。

 巨漢は激怒の末に背中に差したぶっとい大剣を引き抜いた。

 その瞬間、ユウの全身の細胞が奴の完全なる殺気と威圧を受け取った。


 ――なるほど……こいつ結構強いな……。


 ある程度抑制していたであろうマナが怒りによって完全に漏れ出ている。少なくとも盗賊団よりは遥かに強者である。

 しかしなぜだろう。


 ――負ける気がまったくしねえ。


「喧嘩だ喧嘩〜」

「やっちまえオルド!」


 周囲の野次馬が囃し立てる。緊張感が張り詰める。

 流石にマナブラストは使えないよな、とユウは思う。まだマナの微細なコントロールに自信が無い。ここで大技を使えば他の人間共も一緒に吹き飛ばすことになる。問題をさらに大きくするだけだ。

 相手の得物は常人には持ち上げることも出来ないだろう分厚い大剣。巨漢のパワーやスピードは知れないが、あれを高速で振り回せる膂力があるのだとすると厄介だ。

 マナで強化された人間の身体能力は常識の範疇を超えてくる。仮にもし相手がベルザムだったとしたら、あんな大剣でも小枝の様に振り回してくるのだろう。


「雑魚が調子に乗りやがってッ……ぶっ殺してやるッ……!」


 先に動いたのは巨漢だった。

 強者ゆえの奢りと油断、そこに怒りが交わった結果は単調な大振り。それをユウの眼が捉えた。


 ――上段の線剣……左に躱して腹に一撃……。


 ユウが左拳にマナ強化を施し迎撃態勢に入った。

 その刹那、巨漢とユウの間に素早く割り込んだ男がいた。

 金髪青眼の青年だった。

 その青年は即座に抜いた細身の剣で巨漢の大剣の軌道をいなし衝突を避けた。

 大剣が木床を叩き壊す様に突き刺さる。


「はーいそこまで」


 金髪を揺らしながら男は言う。


「カイン……」


 巨漢が金髪男を見てそう言った。


「オルド、初心者いびりなんてかっこ悪いぜ?」

「うるせえ、おめえもぶった斬られてえか」

「素人相手にマジになんなっての。それともここで暴れて衛兵に捕まりたいのか?」

「……ちっ、命拾いしたなカス」


 巨漢はユウを睨みつけて剣を納め、


「おら行くぞお前ら!シラケちまったぜ……!」


 とパーティーの面子をぞろぞろ連れて酒場を後にした。

 その背中を見てユウはホッと息をつく。正直ムカついていたしぶっ飛ばしてやりたかったが、結果この方が良かったのだと思う。

 すると金髪の男が、


「あんた災難だったな」


 ユウの肩にポンと手を掛けた。

 この男、中々にイケメンで初対面でも気安く身体に触れてくるところが、何とも大嫌いな奴を彷彿とさせる。

 反射的にユウは眉を潜め嫌悪を漏らした。それを感じ取ったのか、男は手を外して言った。


「……と、悪い悪い。ま、あんまり気負いすぎんなよ。駆け出しってのは誰しも薬草採取やら人探しやらの依頼を通るもんだ。傭兵なんてのは無理せず気楽にやるのが一番さ」


 忠告のつもりだろうか。大きなお世話だ、とユウは思う。


「何にせよ、ぶった斬られなくてよかったな。ああいう気の荒い輩もいる。きーつけろよ」


 そう言うと金髪の男は去っていった。

 揉め事は回避出来が、いよいよ周囲の視線も気になる。


 ――今日はもう帰ろう。また明日出直して、それでも無理ならまた考え直そう……。


 ユウは仲間を探すことは諦めギルドを出た。

 ギルドを出たあと、溜息を吐きながらとぼとぼ舗装された道を歩いた。

 こうも尽く断られるとは。しかしあの場にいた誰もユウの強大なマナには気づいてない様子だった。これはユウのマナ抑制がちゃんと効いてる証拠だ。尤もそのおかげで誰もユウを強者とは認識せず、仲間にも加えてくれなかったわけだが。

 しかしあれだけ悪い意味で注目を浴びたわけだし、もう誰もパーティーに加えてくれることは無いかも知れない。今後しばらくはEランクのカスみたいな依頼を熟して日々を繋いでいく他ないのかも。そんなことを考えながら歩いていると、背後からバタバタと誰かの荒い足音が聞こえてきた。


「あ、あのっ、すみませーん……!」


 唐突に可愛らしい女性の声が飛び込んでくる。

 ユウが振り返ると、こちらへと駆けてくる一人の少女の姿があった。

 少女はユウの目の前で止まると手を膝につき、肩で息を整える。


「はぁ……はぁ……よかった……間に合いました……」


 顔を上げた少女は驚くほど可憐で、ユウは思わずギョッとした。歳はユウと同じくらい。腰辺りまで伸びる桜のような淡いピンクの髪、その頭には兎の耳のような大きな白リボンが結われている。兎耳型のリボン、と言うだけで獣人族ではないようだ。あまりに可憐なのでエルフかもと思ったが耳が尖っていない。どうやら普通の人間族の少女みたいだ。


「あの、なにか」

「ああすみません、いきなり声を掛けて。私はマレトワ・イーベルシィ。マレって呼んでください」

「はあ」

「実は先程ギルド内でのお話が聞こえてきまして……パーティーメンバーをお探しだとか」

「まあ、そうですけど」

「で、でしたら……無理を承知でお願いします!私をお仲間に加えてください!」


 桜色の髪を揺らし、少女は深深と頭を下げた。


「……はあ?」


 強い疑問と困惑を抱いて、ユウは思わず声を漏らした。

 怪しすぎる。ギルド内での一連を見ていたのなら、仲間にしてくれと頼んでくるのは普通じゃない。ユウは装備も持たない見るからに初心者で、初日からギルド内で揉め事を起こすような奴で、パッと見は弱そうな成人になりたてのひよっこだ。実際に仲間になるメリットがないから散々断られ、バカにされたのだと言うのに。


「君、傭兵?とても強そうには見えないけど」


 彼女から感じられるマナは小さい。ユウみたいにマナを抑制してる可能性もあるが、それを考慮に入れても強そうには見えない。


「あはは……まあ、私も駆け出しの初心者ですので。まだ殆ど薬草採取しかやったことが無いんですけど……」

「どうして俺の仲間になりたいんですか?さっきの騒ぎを見てたら、普通声を掛けるのを躊躇うはずだ」


 ユウは彼女にジトっとした疑惑の目を向ける。

 話自体は悪くない。一人でも仲間になれば依頼の条件要項はクリア出来る。だがどうしても信用しきれない。こんな上手い話があるとは思えない。


「実は、私もずっと仲間を探してたんです。駆け出しの傭兵の死亡率は驚くほど高いので、基本的には誰かとパーティーを組むのがセオリーですから」


 それはユウも受付嬢から聞いている。だから二人以上のパーティーでなければ受けられない依頼も多いらしい。


「私、昔からずっと傭兵になるのが憧れだったんです。誰かの為に戦う仕事ってかっこいいじゃないですか。私の父も傭兵で、誰かの為に命を張って戦っていました。そんな父の背中を見ていたら私もって……でもいざ傭兵になったはいいものの、どこも私みたいな駆け出しを迎え入れてくれるパーティーなんてなくて……でもそんな時あなたを見つけて、もしかしたらって……」


 ありきたりな話だが理解できなくは無い。だがこの話が本当だという証拠は無いわけだ。例えばさっきの巨漢の連中が、仕返しに送り込んできたスパイの可能性だってある。この女を使ってユウを誘き出し人気のない所で、なんてことも有り得る話。

 だが、それを考え出したらキリがない。このチャンスを逃せばパーティーの加入や結成はほぼ不可能に近い。迷宮探索依頼に挑み、大金の入手とランクアップを果たすにはこの女がいる。もしもこいつが裏切ったらその時は。

 悩んだ末にユウの頭の中で結論が出た。


「わかりました。では俺と二人でパーティーを組みましょう」

「……! ありがとうございます!よろしくお願いします!」


 ユウは心の中で薄ら笑を浮かべていた。


 ――この女の話が本当かどうかなんてどうだっていい。こいつを利用できるだけ利用して、そのあとは捨てるだけだ。もし裏切ったら……即刻殺してやる。





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