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19.傭兵ギルド

 早朝、宿を出て傭兵ギルドへと向かった。

 頼りはブランに貰った街の地図。照りつける朝日が眩しくて、ユウは盗賊から奪ったボロっちいフードをキュッと引っ張った。

 王都は城を除いた中心部分を中央区、それ以外を東西南北に分け東区、西区、南区、北区と区分している。ギルドがあるのは南区の中央辺りだ。


「それにしても凄い人だな……」


 ここは馬車の通りがない市場通り。歩く度に人にぶつかりそうになる。ちょっとしたお祭りに来ているようだ。

 しかし周囲のどこを見ても飽きない。

 街並みは見慣れぬ西洋風の古びた建築物ばかり、歩くのは様々な様相の人種。まるで漫画やアニメの世界に入り込んだ気分だ。それにあちこち見た事のない物ばかりが売られている。金に余裕が出来たら買い物もしたい。特に服を早急に買い替えたい。盗賊の服なんていつまでも着ていたくはないし。

 そんなことを考えながらユウがあちこちを見て回っていると、


「さあ〜この時期旬の果実だよ〜!今ならなんとたったの銅一枚!買わなきゃ損だよ〜!」


 人一倍大きな宣伝の声が聞こえてきた。


 ――銅一枚、買ってみるか……?


「すまない、その赤い果実はいくらだ?」

「ああ、オルラの実か?これもそれもぜ~んぶ銅一枚だよ。好きなのを選びな」


 オルラの実の見た目はリンゴに似ている。と言うかほぼリンゴそのものだ。

 適当なのを手に取って見て、思う。

 これが銅一枚とは、どうもぼったくられてる気がする。オルラの実の相場なんて知りもしないのに、ユウは勝手にそんなことを思う。

 きっとこれをそのまま買う奴なんていない。多分交渉して値切ったりするものなんだろう。うん、きっとそうだよなよしこれも勉強だとそう思って、


「なあおっちゃん、これが銅一枚だなんて、ちょっと高すぎるんじゃないか?」

「なに?」


 店主の眉毛がひん曲がる。


「もうちょっとマケてくれって頼んでんだよ」

「かーっ、たく。あのなあ、これでも十分マケてんだよ。文句があるならよそ行きな」

「そこをなんとか頼むよ。もう少し安けりゃ買ってもいいと思ってんだ」

「……っ、はぁ……んじゃ鉄貨九」

「五枚だ。鉄貨五枚でどうだ?」


 その瞬間、店主のオヤジがキレた。


「冷やかしなら他所でやれ!俺は忙しんだよっ!」


 あまりの形相にユウは驚いて飛び跳ねた。

 値下げ交渉だし最初はやっすい値段を提示して徐々に上げていこうと思っていたのに、短気なオヤジだ。

 しかしあの様子ではもう売ってくれなさそうなので、


「ちっ、んだよあのクソ店主……覚えてろよ……」


 と零しながらユウは逃げる様にその場を離れた。

 異世界初めての買い物は惨敗に終わったのだった。


 それから少し歩いて、


「あった……あれがギルド本部か」


 人混みの中から巨大な建築物の頭が見えた。外観は少しレトロチックだがその実とても綺麗な作りである。

 この傭兵ギルド支部はフェルマニア王国で最も大きなギルド部署であり、王国内の街や村にあるギルド支部を統制する親玉のようなもの。王都にはここ以外にギルド部署はないため、王都内の傭兵はみんなここに集まる。つまり強い奴らの溜まり場だ。


「よし、行くか……」


 そう呟くと、ユウはギルドの大扉をギギっとこじ開けた。

 一歩を踏み入ると、そこは外とはまた違った世界だ。内部は壁床天井の殆どが木造で、外観と同じレトロな雰囲気があるが、どこを見ても綺麗な作りを保っていて高級感が共存する。こう見ると敷居が高そうに見えるが、中には様々な人種がいて、特に小さい体に鎧を着て歩いているドワーフの奴らを見るとユウみたいな子供っぽいのが居ても不思議と場違い感はない。

 奥に進むとカウンター奥に受付の役員らしき女性が立っていた。凛々しく気品がある、金髪ショートの美しい女性だ。ユウは毎度思うことだが、この世界の顔面偏差値はかなり高い気がする。

 ユウは奥の受付の女性に話しかけた。


「あの、傭兵登録をしたいのですが」

「はい、ありがとうございます。ではこちらの書類にサインをお願いします」


 女性職員が用意した一枚の紙にはズラリと文字が並んでいて、『この契約に同意云々』と書かれている。

 契約するにはサインが必要だ。


 ――名前……どうしよ……ユウ・アマミヤなんて書けないしな。名前だけにしとくか……別に苗字のない奴なんてこの世界じゃざらにいるらしいし……。


 あんまり間が空いても変なので、ユウは下にあるサイン欄に「ユウ」と名前を記入した。


「ありがとうございます。それでは登録料として銀貨一枚を頂戴いたします」

「え、あ、あはい……」


 んだよ金とんのかよと思ったが、払わないわけにもいかない。

 ユウは麻袋から銀貨一枚を取り出して、名残惜しそうにそれを見つめたあと女性に手渡した。


「ありがとうございます。これで今日からユウ様はE級の傭兵となります。ただし、登録情報が他の傭兵ギルドへ送られるまでは、このギルド支部以外での依頼は受けられませんのでご注意を。はい、こちらが傭兵ギルドE級ライセンスです」


 そう言うと受付嬢はユウに妙なカードを手渡した。

 カードは縦五センチ横七センチ程の大きさで、木の札の様に軽いが鉄っぽい硬さと感触をしている。何の素材で出来てるんだろう。

 表にはユウの名前とE級の文字、そしてさっき書類を書く時に取られた指印が印字されてる。コピー機なんて無いだろうに、どうやって彫り込んだのか。

 裏面にはよくわからない記号の様なものが小さく書いてある。多分偽装防止のための暗号か何かだと思う。


「こちら、紛失されますと再発行に銀貨一枚が必要ですのでお気をつけください。これにて傭兵登録は完了です」


 貴重な銀貨を失うことにはなったが、随分と簡単にギルドに登録することが出来た。もっと何か試験の様なものがあるのかと思っていた。


「それでは各事項の説明をしますので、あちらのテーブルでお待ちください」


 そう言って女性は部屋の奥にあるテーブルを指さした。ユウは言われるままにテーブルに着き、女性が来るのを待った。


「お待たせしました」


 しばらく待つと先程の女性職員がテーブルまで歩いてきた。

 彼女はユウの目の前の席に座ると、


「それでは、まず自己紹介から。私の名前はモーラ、ここ傭兵ギルドフェルマニス支部にて受付担当をしております。今後ともよろしくお願いします」

「は、はあ……よろしく」


 随分礼儀正しい受付嬢にユウは少し戸惑う。


「では早速ですが、傭兵ギルドの形態と仕事の受注から完了までの流れを簡単に説明します」


 受付嬢はわかりやすく簡潔に話を進めてくれた。

 傭兵ギルドとはカーディア帝国発祥、世界的な民営郵社が各地に支部を展開し行っている傭兵派遣事業である。

 各国街々に点在するギルド支部には周辺地域から様々な依頼が募集され、ギルド所属の傭兵達はそれらを任務としてこなすことで仲介料をさ差し引いた報酬を受けることが出来る。

 依頼の種類は多岐にわたるが、多くは魔獣魔物等の討伐依頼や護衛依頼が殆どである。

 傭兵にはEからSまでの階級制度が設けられており、自身の階級や条件に見合った依頼を受けることが可能だ。

 傭兵は三ヶ月以内に一回以上、依頼を受注し達成する必要があり、成果を上げられない場合はライセンスが剥奪されることもあるので注意が必要らしい。

 傭兵登録をしたばかりのユウは現在E級傭兵。階級を上げるにはとにかく依頼を地道に熟していくしかないらしい。


「こちらがE級の依頼掲示板です」


 受付嬢が案内してくれた先には壁際に設置された大きな木製のボードがあった。ボードにはE級依頼掲示板と表記されていて、ボロっちい羊皮紙の紙がいくつも貼ってある。これらは全て依頼書だ。この中から受注条件や報酬を考慮し依頼を受けるシステムらしい。

 ユウは受付嬢に尋ねた。


「もう依頼って受けられるんですか?」

「ええ。本日より依頼受注が可能でございます。よければ何か依頼を受注してみますか?」


 ユウは何となく目の前の依頼書を一枚手に取ってみた。


「…………」


 依頼書を見てまさかと思った。

 慌てて掲示板に手を付き他の依頼書を食い入るように覗き込む。


「近隣の森で薬草採取、銀貨三枚……雑貨屋の手伝い銀貨二枚……行方不明の猫探し、銀貨い、一枚……?」


 ユウの思い描いていた傭兵の仕事と違いすぎる。特に報酬が低すぎて一度見ただけは信じられなかった。

 愕然としているユウを見て受付嬢が苦笑する。


「あはは……皆さん最初は同じ反応をします。でもそれらも立派な仕事ですし、危険が少ないので階級が上がった後もE級依頼を受注する傭兵の方は多いんですよ」


 危険が少ないとかそういう問題じゃない。ただでさえ今は金が無いというのに、こんなアルバイトみたいな仕事でちんたらやってられない。

 ユウは早くこの街を出たかった。この街に留まるということは城の関係者に見つかる危険性と常に隣り合わせということ。早く金を貯めて別の街に引っ越してしまいたかった。しかしこの報酬額では貯金どころか生活費すら危うい。


「あの、手っ取り早く階級を上げる方法とかって無いんですか?」

「そうですね……基本的には地道に依頼をこなすしか……ああそう言えば……」


 そこまで言って、受付嬢は口を止めた。何か言いあぐねている様子だ。


「そう言えばなんです?」

「いえその、これはかなり危険が伴うので初心者の方におすすめするのはどうなのかと……」

「大丈夫です。教えてください」

「……その、数日ほど前から募集がかかっている迷宮(ダンジョン)の探索依頼がありまして……」

「迷宮……?」


 これは城の授業でも少し習った。

 迷宮(ダンジョン)は世界各地に突如として現れる世界の歪みだと考えられている。一度足を踏み入れればそこは異界の地、様々な地形気候と恐ろしい怪物が待ち受けていると聞く。しかし同時に見たこともない財宝が隠されているのだとか。


「その迷宮探索の依頼には階級制限が設けられていないんです。ですのでそれ以外の条件を満たせば、E級の方でも受注することが可能です。しかしまだ出現して間もない迷宮ですし、危険度や性質もよくわかっていません。その代わり財宝を持ち帰ることができれば高額な報酬がありますし、何か大きな功績を残せれば一気に階級アップの可能性もありますが……」

「いいですね……じゃあその依頼を受けたいです」

「で、ですが……」

「大丈夫です。何があっても俺の責任ですし、傭兵になった時点で死ぬ覚悟は出来てます。依頼を受けさせてください」


 迷宮探索だなんて心躍る依頼、受けない方が損だ。しかも高額報酬に階級アップのおまけ付き。何がなんでも依頼を受けたい。


「わかりました……ですが、迷宮探索は二名以上のパーティー制限がございます。ユウ様はお知り合いの傭兵の方などはいらっしゃいますか?」

「えっ?」


 そんな相手いるはずも無い。


「お一人で依頼を受けることは出来ませんので。もしそのつもりでしたら、一度誰かとパーティーを組んでから再度依頼受注のお申し込みをお願いします」


 その一言で、ユウの期待は儚くも崩れ去った。




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