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【完結】勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~【4万PV感謝!】  作者: 冒人間
最終章

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第44話 原因と元凶


《 王都王宮・謁見の間 》


 ―――コツ……コツ……コツ……コツ………


 大理石で出来た広大な道を1人の男が歩いていた。


 その男の名は、ウェルラング=ヴィシオ=ヴァールライト。

 この国における第3王子である。


 彼は今、護衛どころか側近であるメアリー=マーマレードすら引き連れることなく、1人で歩を進めている。


 向かう先は、その頭上にこの国の王の証たる冠を乗せた老人―――ヴァールライト8世の座る玉座だった。


「来たか―――ウェルラング」


 玉座から重々しい声が響く。

 鋭い眼光と荘厳な佇まい、そしてその力強い声は、見る者に彼が齢70を超える老齢であることを忘れさせてしまうものであった。


「お久しぶりです、父上。

 突然の謁見、誠に申し訳ありません。

『マーナ山』での『ドワーフ』達の救出作業が完了した後、どうしても貴方にお聞きしたいことがあり、ここに参りました」


 ウェルラングは王にして実の父に恭しく頭を下げる。


「………………………」


 王はそんな息子を玉座より静かに見下ろした。


「先程、勇者学園のリブラ女史から全ての事態が終息したという連絡を頂きました。

 なんでも、『オリジン・コア・レプリカ』を通じて向こうで起きていたことを認識していた、とのことです。

 私が王都に到着するのとほぼ同時であったようで、少しタイミングがズレていたら魔物の群れによる王都襲撃に危うく私も巻き込まれていたかもしれないと、リブラ女史から笑われてしまいましたよ」


「リブラ女史のご息女からは『いや笑い事ではないだろう』という目で見られておりましたが」と、まるで世間話でもするかのような軽さでウェルラングは話をしていたが―――


「それで―――人払いまでして、お前は何用でここに来たのだ?」


 玉座から、そんな空気を一刀両断するかのような鋭さで声がかけられた。


「ええ―――単刀直入に聞きます」


 ウェルラングは―――



「『魔王』が生まれた原因は―――貴方ですね?」



 その問いを―――正面から投げかけた。


「……………………………………」


 王は、口を閉じる。


「私が子供の頃―――『旧』王都の王宮の中で、こんな噂を耳にしたことがあります」


 そんな父の様子を尻目に、ウェルラングは話を続けた。


「約二十年前……東洋の島国『ヒノモト』にて将軍が病に没し、かの国は権力争いが勃発することとなったが―――王はこの争いに裏から積極的に介入している。

 あの国の内乱を長引かせ、国力を奪う為に―――などという、実にくだらない噂話です」


「………………………」


 王は、尚も沈黙を保ち続ける。


「更に『ヒノモト』の件だけではない。

 それ以前から、王はこの大陸外の様々な争いに裏から介入し―――人類同士の争いを誘発していた。

 国々を疲弊させ、自らの国の優位性を保つために。

 いや―――」


 その王の姿を瞳にしっかりと映しながら―――ウェルラングは告げる。


「この世界の全ての国々を支配し―――『世界統一』を果たすという『野望』の為に」


「……………………………」


 少しの沈黙の後―――『フッ……』という笑いがウェルラングの口から洩れた。


「全く持って馬鹿馬鹿しい妄想話です。

 父上に近しい立場の者であれば、その噂を耳にする者は他にも居たでしょうね。

 例えば―――『ヴァール』大陸随一の大貴族とか」


「そしてふと耳にしたくだらない噂を、世間話のように何気なく娘に話したり、なんてこともしていたかもしれませんね」などと軽い調子で話しかけながら―――ウェルラングは王の元へと歩き出した。


「そう……私もそんなもの、ただの流言としか思っておりませんでした。

 つい最近まで、そんな話があったことすら忘れておりました。

 ですが―――――」


 コツ、コツ、と足音を響かせながらウェルラングは歩を進めていく。


「私も『勇者一行』からこの世界の『仕組み(システム)』について聞き及びました。

 そして生まれた疑問―――何故、この大陸に『魔王』が生まれたのか」


 淡々と言葉を紡ぎながら歩を進めるウェルラングの腰には―――


「もしも『人類同士の争い』が―――『ヒノモト』で『スタンピード』が起きてもなお治まらないほどに、『ある者』の主導の元、水面下で世界規模にまで広がっていたとしたら―――」


 一振りの剣が、携えられていた。


「その『ある者』を排除する為に、『魔王』を生み出さねばならないと―――『オリジン・コア』は判断したのではないでしょうか」



 ウェルラングは、鞘から長剣を抜き―――王の前へと立った。



「つまり―――貴方こそが、全ての『元凶』だった」



 そして、静かに剣を構える息子を前にして―――



「なるほど―――お前は私を断罪する為に、ここに来たということか」



 目の前の銀色の刃に映る自らの姿を認識しながら―――王は告げられた言葉を何一つ否定せず、表情を変えぬままに口を開いた。



 そんな父親の様子を静かに見つめていたウェルラングは―――


「母上が病で亡くなる前―――幼い私に、あの人は言っておりました」


 突然、話題を変えた。


「――――――?」


 表情を崩すことのなかった王が、訝しげな目を息子へと向けると―――



『誰も飢えることのない、魔物の恐怖に怯えることもない―――(あまね)く人々の命を保証出来る世界。

 そんな世界を―――創り出して見せる。

 私が存命の内に。

 君が―――生きている内に。

 貴方のお父さんは、そう言ってくれたの』


「――――――っ!!!」



 告げられたその言葉に―――王の目が見開かれる。


「……あの『ヴァール大戦』で、率先して戦場に立ち、人々を鼓舞し続けていた貴方の姿は、私の記憶に焼き付いています。

 あの時の貴方が、偽りであるとは―――私にはどうしても思えませんでした。」


「………っ………くっ…………!」


 王の表情が陰り、その喉からは震えた声が漏れだす。


「貴方の行いは―――全て民の為だった。

 この世界の全ての人間の未来を、希望の光で照らしたかった。

 その過程で、どれだけの犠牲が出たとしても」


「くっ…………ううう……………!!」


 肘掛けに置いた手が震えだし、骨が軋む程に握りしめられる。



「そんな貴方の『人を想う心』から生まれた『愚かな行い』が、『魔王』を目覚めさせ、ベリル=ビーイングを偽物の『魔王』へと導き、『ヴァール大戦』が引き起こされる原因となった。

 そして何千、何万の人々の未来が失われ―――スクト=オルモーストの『悲劇』へと繋がったのですね」



 ウェルラングが、突き放すようにそう言い放った直後―――



「う―――――ああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」



 王の慟哭が、広大な謁見の間に響き渡った。


 息子から自らの『業』を突きつけられ、その瞳から滂沱の涙が溢れ出す彼の姿は、先程までの荘厳な佇まいがまるで嘘のように頼りないものになっていた。


「……っ………先日………勇者、アルミナから………!

 全てを聞かされた時………私は………思った………!」


 王は―――絞り出すように言葉を吐き出した。


「何故………スクト=オルモーストは………私を殺しに来なかったんだ………!!」


 この全ての『元凶』を。

『魔王』が生まれた『原因』を。

 あの『悲劇』を生み出した者を―――


 何故、裁きに来なかったのか―――


「………貴方はただの『切っ掛け』に過ぎない。

 世界の『仕組み(システム)』が存在する限り、同じことはいずれ起きていた。

 貴方に対する恨みを晴らしても、何の解決にもならない―――かの者は、そう考えたのでしょう」


 あるいは―――そんな『恨み』など、最初から無かったのかもしれない。

 スクト=オルモーストの心の中にあったのは―――無力な自分に対する『後悔』だけだったのではないか―――

 ウェルラングは、そんなことを1人思った。


 そして―――――


「っ………!

 くぅっ……!!」


 もはや何も話すことなく、ただ涙を流し続ける父に対し―――


「父上―――」


 一言、呼びかけると―――



 ―――ゴッッッッッッッッ!!!!



 剣の柄を握るその拳で―――王の頬を、殴り飛ばした。



「ごぁっ――――!?」


 王の身体は座っていた玉座ごと投げ出され、ゴロゴロと床の上を転がる。


 それを見たウェルラングは―――握っていた剣を鞘の中へと戻した。


「ウェ………ウェル、ラング…………!?」


 王は口端から血を流しながら驚愕の目を息子へと向ける。


 そしてウェルラングは、静かに口を開いた。


「………貴方が自身の利己的な『野望』の為に世界の争いに介入していたのなら―――この剣でその首を刎ね飛ばすつもりでした。

 ですが、それが他者を想ってことであり、その行いを悔いているというのであれば―――貴方にはまだ『役目』が残っている」


「『役目』…………?」


 呆然と呟く王に―――ウェルラングは告げた。


「これから先、この世界は大きく変わっていくことになるでしょう。

 そしてその世界で『彼ら』はとても困難な道を歩んでいく。

 ともすれば『破滅』へと続きかねない危険な道を」


「……………!」


「そんな『彼ら』を―――あの『勇者』達を、貴方は支えてやらねばならないのです。

 貴方の命が尽きるその日まで」


 その言葉と共に、王の瞳が見開かれていく。


「『彼ら』の困難な道の先には―――貴方が望んだ世界も、きっとあるのですから」


「あ………あああ……………!」


 その見開かれた王の瞳から―――再び涙が溢れ出す。


「勿論、貴方だけに全てを背負わせるつもりはありません。

 我々皆で―――『彼ら』とこの世界の往く末を、見守りましょう」


 咽び泣く王の前で―――ウェルラングは優しく微笑むのだった。


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